取り敢えずルイ=グレンヴィル伯爵令息です
「・・・・・・・・・カンバーラント様。」
ともすれば聞き逃してしまう程の声量で呼ばれ、振り向いた先に居たのは予想通りの人物で。
「何か?」
扇を広げ、リボンの装飾品をトントンと触る。
取り繕うのでさえ、面倒になってきた。
わざわざ一人ずつ、マグリットの元へ寄越すなど悪趣味にも程がある。
振り向いた目が、拒絶を物語っていても仕方がないと思う。
ルイ=グレンヴィル伯爵令息。
正直、何故ルイが側近として側にいるのかはわからない。
差程能力も無いし、口数もかなり少ないこともあり、そもそも次期皇帝陛下となる人物の側近としては些か物足りない。
あるのは伯爵としての地位、くらいである。
それでも懐いた者には従順なようで、マクシミリアンに対して出過ぎた真似はしなさそうではある。
それだけで選ばれたとしたのなら、余程マクシミリアンに人望が無いんだな、思うだけだ。
普通なら皇帝陛下の側近になれるとなれば、様々な人材が殺到しそうなものを。
ジェシカとか関係無しに、実力も人望も無いマクシミリアンでは確かにこの帝国は崩壊まで逝かなくとも、衰退は免れないのだろうな、と他人事の様に思う。
話し掛けてきた割にはモジモジモジモジして本題に入る気配も無い。
イライラするなぁ、せめて最初に来たのがルイであったなら耐えられたかもしれないが、まさかの最後の最後。
もう既にこうして釘を刺しに来たのは四人目で。
普通にここまで耐えてきたのだと、マグリットは自分を褒めてあげたい位である。
しかしながら此処で切れて、取り返しのつかない事をするわけにもいかない。
小さく吐いた溜息を扇で隠し。
「用事は無いのでしょうか?」
呼び止めたのに?と含ませる。
流石にその含んだ意味は感じ取れたようで、ワタワタしている。
こんな仕草が良いのだと、キャーキャー言われているのは知っている。
ーーーが、マグリットには理解の範囲外で。
むしろ側近達四人とも中々にモテている、ようで。
確かにマクシミリアン含め全員見目は良い。他の男達の追随を許さぬ位には。
それでもマクシミリアンは皇太子という地位だけ。
エドワードは確かに頭も良く将来性もあるかもしれないが、あんな色ボケはゴメンである。
シモンは強い。その辺の兵士では勝てやしないだろう。守ってくれるかもしれない。それでも、それでカバー出来無い程の馬鹿である。
アルベルトは口が上手く情報にも長けており女の扱いも上手いが、いつも別の女を連れているような者の何が良いのかわからない。
今目の前に居るルイに至っては、モジモジするばかりで話もしない。
そんな五人の何処にキャーキャーと言える要素があるのか。マグリットには見出せない。
顔だけで言うなれば、当然フレデリックも負けていないし、旬だって令嬢達は見る事は叶わないが中々見目も良い。
そしてギルドマスターだって、負けてはいない。
総じて上位貴族やらなんやらは見目が良く出来ている。
出来、もあるだろうが見目が悪い者とは結婚してこなかってんだろうな、と思ってしまうのは仕方がない。そう言うマグリットの両親も、見栄えが良いのは当然の事であるのだが。
いつになれば、何かを話し出すのか。
むしろこのまま立ち去ったところで、文句さえ言えない程の時間を割いている。時間を無為に過ごすのは好きではない。
「言いたい事があるのであれば、ハッキリと仰って下さいませんか?」
「あ、あの、その・・・
ジェシカが・・・」
話すのが苦手なのは知っているし、それを悪い事とも思わない。
それでも友人関係が出来、問題無く過ごせるのであれば問題無いと思っている。
しかし、実害が出れば話は別である。
此処で怒って去るのは簡単だが、感情的になるのは頂けない。
今の今まで関わりが無かった事もあり、どうやったら話し始めるのかわからない。途方に暮れそうである。
「ウェルズリー男爵令嬢がどうされましたか?」
「・・・・・・・・・カンバーラント様を邪魔・・・・・・だと。」
随分と直接的な言葉だこと。
「邪魔?ねぇ。
何が邪魔かは聞いているのですか?」
フルフルと首を振る。
「ただそれだけを聞いて、わざわざ私の元まで来たのですか?」
ウンウンと頷く。
呆れた。
「皇太子殿下の婚約者は誰でしょうか?」
目は口ほどに物を言う、とはこういう事を言うのだろう。話してもいないのに「貴女では?」と言われている様な気分になる。
「ウェルズリー男爵令嬢は何を持って私を邪魔だと、言ったと思いますか?」
思ってもみなかった事でも言われたかのように、目をパチパチとさせている。
従順かもしれないが、自分で物事を考えもしないのは愚鈍だ。
ジェシカもジェシカだ。
殆ど口を開かないとはいえ、こうも直接的な言葉で邪魔だと伝えているとは。短慮過ぎやし無いだろうか。
「何を持って・・・・・・?」
「そもそも、貴方は何故そんな事をするのでしょうか?
ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢と、どうなりたいのでしょうか?」
「・・・・・・どうなり、たい?」
「ええ。私が邪魔だという事はウェルズリー男爵令嬢は、皇太子殿下と、どうにかなりたいと思っているのではなくて?」
それで、良いのかしら?と言ってみるもなんとなく的を得ない雰囲気を感じる。
魅了に掛かっているという事は、ジェシカを自分のモノにしたいと思っているのだと思うのだが。何故側近達はジェシカとマクシミリアンを応援するのであろうか。
こうして爵位関係無くマグリットに突っ掛かってくるくせに、相手は皇太子殿下だという理由で遠慮でもすると言うのか。
何となくだが、四人全員が同じように同じ威力で魅了に掛かっていない、というのは理解出来た。
「貴方はジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢とどうなりたいのですか?友人?交際相手?伴侶?
それともただの親切心から、ウェルズリー男爵令嬢が私を邪魔だと言ったとて公爵令嬢である私に、伯爵令息でしかない貴方が突っかかってきたというのでしょうか?」
何故か恐れを感じたかのような顔でマグリットを見て、口をパクパクさせている。
貴族令息としてこれからの社交界やっていけるのか、こちらが心配してしまう程である。
「ご自身の気持ちがハッキリしてから、物申して下さいますか?」
パチリと扇を閉じて、翻ってその場から立ち去る。
ジェシカはわざわざ一人ずつ側近達をけしかけて来たが、結局マグリットにどうして欲しいのだろうかーーーーー




