取り敢えずアルベルト=スタンリー侯爵令息です
「マグリット嬢ー。」
実はいつ声を掛けてくるのかと、気にはなっていた。
数日前から定期的にマグリットの様子を伺う雰囲気があり、辟易していたところであった。一層こちらから声を掛けるべきか、悩んだくらいであった。
目の前からマグリットの名を呼びながら走ってきた人物は、マクシミリアンの側近の一人。
アルベルト=スタンリー侯爵令息。
いつも女の子を侍らかしており、そんな事もあってか情報収集に長けているようで。
スタンリー侯爵の情報網もあり、皇帝陛下にマクシミリアンの側近として選ばれた男である。
腰ほどまでに伸ばした金髪を一つに纏めて右側に垂らしており、オレンジの瞳は垂れ目気味で。
侯爵令息とは思えない程、制服を着崩しているのが当たり前。
以前であれば何人もの女の子達を侍らかしていたのだが、最近はそれも鳴りを潜めているようである。
エドワード同様、アルベルトもジェシカに傾倒しているからであろう。
それでも元来の性格ゆえかエドワード程ピリピリとした雰囲気は無く、他の女の子達への対応も断ってはいるようだが、揉めないように上手く断ってはいるようではある。
正直、またか、と思わないでもないが顔には出さないよう努める。
そしてリボンの装飾品をトントンと叩き、扇を広げる。
「どうされましたか?スタンリー侯爵令息?」
「嫌だなー。そんな他人行儀な呼び方しないでよー。」
他人ですが?と思うも敢えて口にはしない。
しないが呆れた様な目線は止められなかった。
「いやーちょっと。」
流石話し掛けて来るまでさえ時間が掛かっただけあり、すんなりとは話せないようで。
「ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢に何かを言われたのでは?」
馬鹿にした様な顔になってしまうのは仕方がないと思う。
パッとマグリットを見た顔は「何故それを!」と物語っていた。
そりゃ、三人目ですから、とは取り敢えずは言わない。
「だってマグリット嬢、ジェシカちゃんを蔑ろにしてるんでしょ?」
首をコテンと傾けてあざとい仕草で問いかけて来るが、マグリットにそんな行動したところで、効き目など有りはしない。
「蔑ろにしている、とはどう言う事を言うのでしょうか?」
何度も言うが、会いもしていない人物を蔑ろにしているなどと言われる筋合いは無いのだが。
「だってジェシカちゃんがそう言ってたよ?」
マグリットが公爵令嬢でなければ、本気で馬鹿にした顔をしていたであろう。
「なら、私がやっていないと言えば、そうなるのではありませんか?」
言った事を確認もせずに!鵜呑みにする時点で有り得ない。
「ジェシカちゃんが嘘を言うとは思えないんだけど?」
「私なら嘘を吐くとでも?」
「・・・・・・・・・」
マグリットは公爵令嬢。
アルベルトは侯爵令息。
幾ら話し方が不敬であろうとも、この問い掛けに是と答えてはいけない事はわかっている様で黙り込む。
本当、馬鹿馬鹿しい。
ピンクな脳内なんとかした方が良いんじゃない?と直接言いたいくらいである。
「何もしてないの?」
いつもの気安い雰囲気は鳴りを顰めて、小さいが問い掛けてくる。
「むしろ、何故何かをしたのが当たり前に思われるのかわからないのですが?
スタンリー侯爵令息?
貴方私の事を数日前から見ていたのでは無くて?」
言外に蔑ろにしている証拠でも見つけたのかと、蔑ろにしている様子でも見たのかと問い掛ける。
「何で・・・」
見ていたと知っているのか。
「こんな風に話してきたのが貴方だけだと思っておられるのですか?」
本当は気配で気付いただけなのだが。
アルベルトにはお前以外にも居たのだと、そう伝える。
「俺、以外にも・・・?」
呆然としているアルベルトの側により耳元に口を寄せる。
「スタンリー侯爵令息。ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢には何を言われたのかしら?」
少しでも、疑心を持てば儲け物。
扇をパチンと閉じて、返事も待たずにその場から去る。
先程の様子からわざわざジェシカは一人一人に蔑ろにされているやら、虐められてるやら、邪魔されてるやらを伝えているらしい。
姑息な。




