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取り敢えずシモン=ヘイスティングス伯爵令息です

 


「マグリット!!」


 伯爵風情に呼び捨てにされる謂れは無いのだけれど、と思えど文句は言わずトントンと装飾品に触れる。


 マグリットは何も言わないが、周りの視線がキツいものになっているのは本人が気付くべきである。

 しかし、気にもならないのかまるで怒ったような雰囲気でマグリットへと詰め寄る。


 公爵令嬢に伯爵令息風情が、と周りさえも思っているのに何故本人は何も思わないのか。

 あぁ、馬鹿だからか、と一人納得する。


「何か御用かしら?」

 数日前の出来事を思い返して、用事は見当付くのだが。



 シモン=ヘイスティングス伯爵令息。

 典型的な体力馬鹿である。

 それでも根は真っ直ぐな事もあり、皇帝陛下にマクシミリアンの直属の近衛候補として指名された男である。


「何の用も何もないだろう!!

 お前が何をしているのかは知っているんだぞ!」

 逆に根が真っ直ぐ過ぎて、一番初めに魅了に掛かった人物であり、継続率も一番高い人物でもある。


「何をしているのでしょうか?」

 言いたい事はわかるのだが、何もしていないとしか答えられないし、何かをしていたとて答える気もない。


「ジェシカにだ!」

 馬鹿過ぎて語彙力も無いらしい。


「何を言いたいのか判りかねますわ。

 もう少し整理してお話ししてみては?」

 扇を広げて顔を隠す。

 そうでもしないと呆れ返った表情が丸見えとなり、いくらシモンが体力馬鹿とて気付かれる程の顔をしていると思う。


「ジェシカを虐めてるらしいではないか!」

「虐めてる?ねぇ。

 それは、誰かが見たのでしょうか?」


 何度繰り返そうとも、何度やり直そうとも、あんな女構う価値も無い。

 マグリットが何度断罪されようとも、何度死のうとも、マグリットの中にあんな女に価値など見出せやしない。


 そんな女を虐めるなど、有り得ないのに。


「ジェシカが言っていたのだ!」

「それで?」

「えっ?」

「言っていたから?だから何なのでしょうか?

 ねぇ、伯爵令息?」


 例え本当に虐めていたとて、それを言及する術などお前には無いのだと言外に伝える。

 流石に馬鹿といえども貴族。

 階級を強く意識させさえすれば、マズイと顔が物語る。


「しかし・・・」

 まだ噛み付くのかと、呆れにも似た感情が過ぎる。


 きっと元々が根が真っ直ぐで、単純だからこそ素直にジェシカの言葉を受け取ってしまったのだ。魅了に掛かったシモンはジェシカが嘘を吐くなど、考えた事もないのかもしれない。


 恐らくはマクシミリアンとその側近4人全ての中で、単純だからこそ一番純粋に魅了に掛かってしまった。

 そろそろ手遅れな雰囲気を感じる。

 伯爵令息が公爵令嬢に噛み付くのがその証拠である。

 幾ら魅了に掛かる前から馬鹿だったとはいえ、そんな事はしなかった筈。


 エドワードも中々に抜け出せなさそうな雰囲気であったが、シモン程では無いであろう。


 確かに、こうして一人一人真面目に見てみるとその盲目さから、いずれは人一人殺す事も厭わなくなりそうだ。


「しかし?

 なら何をどうすれば良いのかしら?」

 それは純粋な疑問でもある。

 虐めたりもしていない。

 そもそも関わってもいないのを、マグリットにどうして欲しいのであろう。


「虐めているのを止めろと言っているんだ!」

 此処まで来ると、堂々巡りである。


「先程も言いましたが、誰かが見たのでしょうか?

 私がジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢を虐めているという証拠でも持ってきて下さいませ。

 話はそれからですわ。」


 扇て口元は隠せようとも目元までは隠せない。

 漏れ出る怒りで思わずシモンを威嚇してしまう。


 流石は将来の近衛兵に内定しているだけあり、マグリットの漏れ出た魔力に反応して固まる。



 しまったな、と思えど後悔は無い。



 これで話は終わりだと切り捨て、固まったままのシモンを放置してその場から去る。






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