取り敢えず呟きます
どうしてもショックから立ち直れないまま、日にちが過ぎて行く。
その間にもマクシミリアンとジェシカは着実に距離を縮めているが、止める方法も思いつかないし、止めた所でどうして良いのかもよくわからない。
結婚したくないのに、止めるのも如何なのかと思うのだ。
だからこそ監視すれど、こちらに被害が無いようにはしている。こうして学園に通い続ける理由としては、ただ現状虐めていない証拠集めをしている様なものだな、感じる。
普段であれば、依頼も多くあるし忙しくしているのだが。
ショックを引き摺っているせいか、やる気が起きない。
それでも相変わらず家に帰る気にもならず、ボーッと教室から外を眺める。今日はマクシミリアンがジェシカと約束をしていると言って、授業が終わってすぐ帰って行ったからこそ教室に居れるのだが。
こんな気持ちは、六回目が始まる時に捨てたと思っていた。
だから会いにも行かなかったし、今まで普通に過ごしてきたつもりだ。
まさか女の子と二人で居るのを見ただけで、こんなに動揺するだなんて考えてもみなかった。
やっぱりやり直しなんてするモノでは無いな、と思う。
同じ様にやり直しを繰り返しているフレデリックは、こんな風に思った事は無いんだろうか。
「また、残ってるのか?」
そう言って教室にフレデリックが入ってくる。
広い教室に二人。
話すには距離が遠い。
何かを話そうとしているのか、わざわざマグリットが座っている席の横まで来て座る。
「帰る気にならなくて・・・」
「そんな事言って、いつも早くなんて帰らないじゃないか。」
「あら、よくご存知ですね。」
そう言いながらも、理由は知っている。
毎日監視はされているのだ。報告が上がっていない訳が無い。
「そんな嫌味言うなよ。」
「それで、何の御用ですか?」
わざわざ来たのであろう事は想像に固く無い。現在マグリットが教室で一人で居るのを、知っていたのであろう。
マグリットとフレデリックが気兼ねなく会えるのは、誰も居ない放課後の短い時間くらいである。
これもマグリットが学園を卒業してしまえば無くなるし、そもそもこんな場面見られるのさえマズイ。
そんな事、フレデリックにわからない訳ないのに。
一体何の用だと、言うのか。
「用が無いと、駄目か?」
思わず片眉をピクリと上げ、フレデリックを見てしまう。
横に座っている為に、距離はかなり近い。
「私達の関係性を考えれば、駄目なのでは?」
婚約者同士では無い貴族である男女が二人っきり。教師と生徒。
むしろ駄目な事しかない。
「ま、そうなんだけどな。」
そう言いながらも何処にも行こうとはせずに、頬杖をついてマグリットを見つめている。
一体何なんだ、とも思うも別に嫌ではないから、特別拒絶する理由も無いのだ。実際、付近には誰も居ないのは確認済みである。
「忙しいのではないのですか?」
本当、こんな事をしている時間は無い筈なのだ。
「忙しい、けどな。
たまには、こんな事していてもバチは当たらないだろ。」
窓から入ってくる光がフレデリックに当たり、銀の髪がキラキラと光る。思わず眩しくて目を眇める。
それを見たフレデリックは顔を綻ばせて、微笑う。
唐突に気付く。
あぁ、駄目だと。
「何だか、落ち込んでるようだったから。
言えない事もあるだろうが、それでも・・・」
聞けるなら、と言いながら頬杖をついていない方の手をマグリットへと伸ばす。
伸ばすも、触れはしない。
思わず、縋る様な表情になってしまった。
「殿下は、」
そんな顔を見せたくなくて瞳を伏せる。
フレデリックも気付いてはいるが、気付かないフリをする。
マグリットもまた、気付いている事に気付きながらも、それもまた気付かないフリをする。
「相手が覚えていない事に、ショックは無いのでしょうか?」
それだけで、マグリットの身に何が起こったのか大まかにだが理解する。
「ショック、は。
実は言うと無い。」
過去にした話を、今現在のように話して疑問に持たれた事はあるけどね。と小さく笑う。
「ない・・・・・・」
それはそれで。
悲しいーーーー
「きっとマグリットが思っている通り。
上辺だけでしか付き合ってないからだろうな・・・」
妻がいたところで、とは敢えて口にはしなかったけれど。
結局は何度もやり直したところで、やり直しを強制させられた者にとっては災厄でしかない。
「今まで忘れられているのが、嫌で。」
「うん。」
「どうしても会おうとは思えなくて。」
「うん。」
「それは、どの人にも言える事ではあるのですが・・・」
「うん。」
「私を、立ち直させてくれた人で。」
「・・・・・・うん。」
少し、返事が遅くなる。
「私とは全く似ても似つかない人と、居るのを見て。」
「うん。」
返事が遅れようとも、マグリットは気にしない。これはきっと、誰かに聞いて欲しいようにも見えるただの独り言だ。
「それが、ショックで。」
泣いてしまいそうな、声。
それでも涙は流れなくて。
本当は慰めたい。抱きしめたい。
しかし、それは出来ない。
けれど、これくらいは許されるだろうか。
マグリットへと伸ばしていた手を、触れられなかった手を、そっとマグリットの手のひらへと伸ばす。
ただ、指先を指先で少し、少しだけ触れる。
マグリットはそれさえも気にせず、離れる事もしない。
「懸想、していたのか?」
聞いてはいけないと思っていたにも関わらず、止められず口にしてしまう。
「どう、でしょうか。」
そう言って、好きだとは言われましたが、と少し、ほんの少しだが微笑う。
その顔が、やはりその人は特別だったと語っていて。
「・・・・・・・・・妬けるな。」
マグリットがフレデリックの方を見ていないのを良い事に、声を出さずに口の動きだけで呟く。




