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取り敢えず観劇です

 


 何だかんだとありはしたが、観劇には元々の予定通り行く事になった。


 馬車の中から今から行くところに気付いたマグリット。

「あら?お兄様。

 あの観劇を観に行くんですの?」

 驚いて目をパチパチとして、アレクを見る。 


「そうだよ。」

「でも、チケットはどうなさいましたの?

 いきなり行こうと言って、観れる物ではありませんわ。」

 そう。

 今から行く予定の観劇はかなりの人気作品で、当日に行こうと言って行ける物では無い。


「数日前には手配していたよ。

 久しぶりの妹とのお出掛けだよ?前以て準備しているに決まっているじゃないか。」

「それでは行くかどうか、わからないではありませんか。」

 チケットを取る前に約束を取り付けられた訳では無いのだ。

 今日、いきなり誘われているのに。


「それはそれだよ。

 何となくだけど、数日後の話をしても受けてくれない気がしてね。」

 確かにそれはそうかもしれない、と思い返す。


 数日後の予定はわかりはしないのだ。いきなりフレデリックに呼び出されるかもしれないし、マクシミリアンもバカな事をするかもしれない。そういう意味では数日後、となれば確かに断っていたであろう。



 ーーーーーーーー



 観劇の最中、フッと懐かしい気配を感じる。


 何だろうと思う前に、涙が溢れそうになる。


 反射的に口を掌で覆う。


 気付いてはいけなかった。気付きたくなかった。


 こんな所に来る人では無かったし、間違いなく好きでは無かったと思う。

 それなのに観劇を観に来た理由がきっとある。そんなものは知りたくないし、知るべきではない。

 それでも、貴方の気配を感じる方へと顔を向けてしまった。


 普通なら顔を向けた所で、暗いし、見える距離でもない。それでも何故か見つけてしまった。



 この観劇を観に来ているのは貴族の方が多いが、平民も居る。

 一階席が平民がいる。二階以上はソファー完備で広々としているのが貴族席である。


 その一階席の中でも、かなり良い席のひとつ。


「カミーユ」

 ポツリと名前を呼んでしまった。


 しまった!と思うももう遅い。

 横にいるアレクには気付かれてしまう。

 しかしまだ観劇の最中。疑問には感じているようだが聞き流してくれたようである。




 しかしマグリットはもう観劇など観れやしない。


 隣の女の子と楽しそうにしている姿から、どうしても目が離せなかった。



 ーーーーーーーーーー



(好き、だったのかな。)

 一人自室のベッドに座る。

 観劇を観た後、どうやって帰ったのかはっきり思い出せない。明らかに様子のおかしいマグリットに気を遣ってアレクが連れて帰ってきたのであろう。


(私とは似ても似つかない子、だったな。)


 好きかどうかは、わかっていなかった。

 今も気落ちしているが、これは好きだと言ってくれた人が他の人と仲良くしているのを見たせいなのか、仲の良かった人が別の人と仲良くしているのを見たせいなのか、やはり好きだったのか。


 どこから来る気持ちなのか、わからなかった。

 わからなかった、けれど。


 ショック、だった。


 だから会いたくなかったのだ。

 ずっとずっと、避けてきた。


 私を好きだと言ったくせに!と理不尽に詰め寄ってしまいそうで。

 相手は覚えてなんて、居ないのに。


 せめて。せめて一人で居るところなら良かったのに。


 女の子を連れて、苦手な観劇など観ている所なんて見たくなかった。


 壊れていたマグリットを、不器用にも修復したのはカミーユで。


 だからこそ余計にマグリットの事を知らないカミーユに、会いたくなかった。会ってはいけなかった。




 どうしてこんな所に居るのよ。



 理不尽だと、わかっていても、そう思わずにはいられなかったーーー






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