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取り敢えずドレスです

 

 家出から家に戻ってきてから、なんだかんだと時間は過ぎていった。


 マグリットにしてみれば、今回の家出は、いや旅に出ると書き置きしたのだから家出ではなく旅か。

 旅はあくまでもウェルズリー男爵領の偵察であったが、その事実はフレデリック以外には知らせてはいない。


 旬とか多少なりとも事情を知っている者になら兎も角、公爵家内には事情を話す者は居ないし、話す気もない。

 信用していないとかではないけれど、今回もいつもと同じ様に断罪された時に巻き込みたく無い、というのが一番の理由で。


 だからこそ、何だかマグリットとの間に壁があるような、気まずい関係が続いていた。大切にしてくれているのは良くわかるが、機嫌を損ねないようにと恐る恐る接してくるのが居た堪れない。

それもあり、家に居る時間を余り取りたく無いのが現状だ。とはいえ、それが無くなったとしても依頼を優先する為、マグリットの行動は変わらないだろうが。



 だからこそ。


 今の今まで誰もがそこまで、頭が回らなかったのだ。



「お嬢様ーーーー!!!!」

 そう言って普段では考えられない勢いで、ノックさえも忘れたかのように部屋へ突入してきたのは、専用侍女であるソフィーであった。


 気配を察するのを普段からしている訳では無いが、バタバタと公爵家らしからぬ足音で部屋へと向かってきているのが誰かの把握はしていたので、見つかっては不味い物は特には無い。部屋で本を読んでいたかのように装う。


「どうしたの?らしくなく走ったりして。」

 ノックをせずに入るのは、それはもう首を切られてもおかしくは無い程の不敬であるがマグリットは気にしない。

 開いていた本をパタリと閉めて、ソフィーへと顔を向ける。


「申し訳ございません。お嬢様。」

 流石に不味いことをしてしまったと、かなり苦々しい顔をしている。普段であればソフィーも優秀な侍女である為、表情を取り繕う事は得意なのだが、今回は随分と焦っているようであった。


「構わないわ。それよりどうしたの?」

 此処まで慌てているのはやはり稀で。むしろ初めて見たかもしれない。


「ドレスですよ!ドレス!!!」

 ドレス??思わず今自分が着ている一人で着れるタイプの物を確認する。

 公爵家一同、マグリットと距離を取っているのを逆手に取り、マグリットは毎日一人で服を着替えている。その為、他の者が着付けを手伝う必要の無い簡素な物である。

 当然着付けが仕事のソフィーは最後までゴネたが、そこは押し通させてもらった。


「今着ているのではありません!!

 建国記念式典!もうすぐ建国際ですよ!!!」

 ソフィーが慌てているも、マグリットは何だそんなことかと興味を無くす。


「お嬢様!ちゃんと話を聞いて下さい!!」

 余程焦っているらしい。いつもの侍女としての冷静さは、全く感じられない。


「聞いているわ。

 結局は建国際に着るドレスの話でしょ?」

「何でそんなに落ち着いていられるんですか!

 建国際はもうすぐだと言うのに、お嬢様、まだドレスを仕立ててないではありませんか!?」

 目の前の机をバンバンと叩きそうな勢いである。


「・・・・・・・・・あれ?言ってなかったかしら?」

 思い返すも、確かに伝えていなかったかもしれない。

「何をですか?ドレスを要らないとでも言うつもりですか!?

 今から仕立てても間に合いませんよ!!」

 ちょっと泣きそうである。


 確かにちゃんとしたドレスをずっと着ていないから、こう言われても仕方無いかもしれない。

「もう、仕立ててもらっている物があるの。」


 キョトンと。

 パチパチと目を瞬かせる。


「仕立てて、もらっている?」

「ええ。」

「いつの間に・・・」

 確かに屋敷を抜け出す事も多いが、誰にも気付かれていない為疑問に思うのも無理ない。


「旅の間に?」

 思わず疑問系になってしまった。

 旅の話は禁句のように誰も口にしないし、マグリットにとっても、都合の悪いことばかりなので敢えて口にはしなかった。


「仕立て代とか・・・」

「大丈夫よ。

 そもそも一人で生活していたんだもの。」

「いや、それにしても・・・」

 ソフィーが戸惑うのも良くわかる。


 貴族が着るドレスは高い。それはもうバカみたいに。

 一着で安くとも平民がひと家族ひと月は過ごせる程もする。

 それを払ったと言っているのだから、信じられないのも無理はない。


「大丈夫。」

 もう一度伝えるも、詳しい事を話す気は無い。

「・・・・・・・・・・・・それは皇太子殿下の婚約者様が着るのに相応しい物なのでしょうか?」

 色々問い詰めたいのを飲み込んで、そう問い掛ける。


 そう。

 ドレスがあれば良いだけでは無い。

 安物では駄目なのだ。

「ええ。最高級品よ。」

 それだけは自信を持って言える。


「・・・・・・わかりました。

 いつ引き取りに行きますか?」

 本音を言えば一人で行きたいが、そうはいかないのも知っている。


 建国際までは然程日もない。

「いつでも大丈夫だと思うけれど。」

 おそらくはドレスはもう出来ている。


「それでは今から行きましょう。」

 えっ?と思う間もなく、ソフィーは着替えていて下さいと言い残して部屋を出て行く。おそらくは馬車を用意するのであろう。


 マグリットが最高級品と言ってところで信じてはいるのだろうが、自分の目でどんなドレスかの確認をしたいのであろう。


 わかるが、忙しないな。と思わないでも無い。



 ーーーーーーーーー



 貴族が通う中でも、特別高級な通り。

 相手が相手なだけに守秘義務もしっかりしているその場所で。


 ソフィーは口を開けて、ポカンとするしか出来なかった。


「ね?大丈夫でしょ?」


 マグリットはそう言って、思わず貴族らしくなく。


 ヒヒヒ、と笑う。









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