〜sideフレデリック 独白
しまったな、と思った。
そもそもそんな感情を持っていた自覚は、全く無かった。
でも不意の念話。
それはマクシミリアンの事で。
何となく。
なんとなくだが、モヤっとしたのがキッカケかもしれない。
モヤっとして返事をしなかった。
でもマクシミリアンが何を考えているのかが、何となくわかったような気がした。
マグリットの失踪時、フレデリックを訪ねて来たあの時のマクシミリアンの態度。
あの時はまだジェシカにも会っていなかった。あの時の態度こそが、マクシミリアンの本音だ。
つまりはマクシミリアンは考えた事が、カケラも無かったのだろう。マグリットが居なくなるなんて。
だから焦った。恐らくはやり直しの時全てにおいて、焦っていたのだろう。
しかしその時はフレデリックも真剣に探していたし、マクシミリアンにもそれがわかっていたのだろう。だからこそマクシミリアンは、自身の心を隠した。
しかし今回はたまたまフレデリックが真剣に探していないのではと、噂が耳に入ってきた。それがキッカケになり、自分の気持ちを隠していられなくなったんだ。
だから俺のところに突撃してきてまで、真剣に探せと、そんな気が無いのなら指揮権を渡せと、そう言ってきたのだろう。
結局は指揮権を渡したところで、マクシミリアン自身扱いきれない事には気付いていたようだが。
最初の最初。
そう。一番初めの婚約破棄の時。
あの時はずっとマグリットが学園に通い、ジェシカとの事に対して苦言を言っていた。マグリットにしてみれば、文句を言っていたからといって、それは嫉妬からでは無いと言うのは間違い無いのだが、マクシミリアンの中ではそうではなかった。マクシミリアンがマグリットから離れて行ってしまうのではと、嫉妬からの文句だと思っていたのだろう。
マグリット的には婚約者が居る皇太子殿下が、下級貴族の令嬢と仲良くするのも、ましてや恋人のように扱うのも、愛称で呼ばせる事も、全てが皇族として、皇太子としてやってはいけないと常識を説いていただけであった。しかも相手は婚約者の有無を無視して、誰にでも粉をかけているような女だったのも要因の一つであろう。
マクシミリアン的にはそうでは無かった。政治的な事も、何もかも気にしていなかった。
マグリットとは逆で皇太子だからこそ、何でもして良いと思っている節もある。だからこそ気に入った女が居れば囲えば良いし、それをしたところでマグリットは離れていかないと思っていた。
事実、マグリット側から婚約解消を言ってくる事は無かった。それは公爵側が皇族側に言う事が出来なかっただけであるのだが、マクシミリアンはそう思って居なかった。おそらくは自身の事を好いているから婚約者であると、どこか勘違いしていたのだと思う。
二回目の時の学園内での事は、以前マグリットから聞いていた。
全く関わりを持たなかったのにやはり虐めたと断罪された、と。
此処ではマグリットはマクシミリアンに何を言ったところで無駄だろうと、既に諦めている。マクシミリアンとはクラスも同じ為、会わない事は出来なかったようだが、徹底的にジェシカには会わないようにしたようだし、ましてやマクシミリアンとジェシカが二人で居るところには絶対に遭遇しないようにしていたようだ。確かにマグリットが言うように気を付ければ出来るだろう。学園は広いし、ジェシカは下級生で下級クラス。上級生の上級クラスの方までは、どうあっても来れない。
対してマクシミリアンは、やはりマグリットが離れていかないと確信するかのように過ごしていたのではないだろうか。
だからこそマグリットを気にするでもなく、ジェシカと会っていた。会ってしまっていた。魅了の魔道具を付けているとは、そりゃ露にも思わないだろうし、例え知っていてもマクシミリアンはきっと気にしない。というか魅了の魔道具の怖ささえきっと理解していない。
そして結局は魅了され断罪。
三回目はそもそも学園に通っていなかったと聞く。
それは当時、俺の耳にまで入ってきていた情報で。この辺りから少し疑問にも感じていた。マグリットの行動の違和感。
感じていたが、必要な事では無いと、俺は切り捨てていた。
此処でもマクシミリアンは、学園にさえ通っていないにも関わらず留学しているという嘘を確かめもせず信じ、やはりジェシカに魅了され断罪する。
しかし此処では又別の違和感。
わざわざマグリットを連れ出してまで断罪した理由は、一体何なのか。
四回はマグリットが自殺する。
この時実はマクシミリアンはかなり荒れた。その時は何故荒れたのかわからなかった。まさかマクシミリアンがマグリットを好きだなんて考えてもみなかったからだ。
マグリットを喪失した悲しみに付け入ったのであろう。この時程、マクシミリアンがジェシカに傾倒していた時はなかったのでは無いかと思う。マグリットというストッパーが無かったのは大きいのであろう。
五回目以降は然程変わらない。
マグリットは五回目以降全て、姿を消す事を選ぶのだから。
当然、今回と同じ様に捜索するも見つから無い。本気で探すも見つかりはしなかった。
そして見つからないまま、ジェシカが学園へと入学してきて同じ事を繰り返す。
違う事といえば、マグリットの処刑方法くらいではないだろうか。
当然、俺は、ジェシカでは皇后陛下として民を統治して行けやしないと言い続けはしたが、聞き入れは貰えなかった。
それはそうだろう。マクシミリアン自身もそんな事をする気は無かったんだから。
しかし今回、いつもとマクシミリアンの様子が違う。
やはりそれは一度居なくなったマグリットが、ジェシカと出会う前に帰ってきた事が原因だと思う。
四回目までは自分の元からマグリットが居なくなると考えもしなかった。
五回目以降は居なくなったが、見つかりもせずにジェシカに籠絡されてしまう。
今回はそのどちらとも違う。
一度居なくなった事によって、自分の元から去ってしまう事もあるのだと自覚し、そして魅了に掛かる前にマグリットが帰って来た。つまり居なくならないように繋ぎ止めなければと、やっと此処にきて気付いたんだ。
その結果が、マクシミリアンのマグリットへの態度の変化なんだと思う。
だがマクシミリアン自身はマグリットを好きだと、認めたくないのかもしれない。その結果マグリットが言ったように、固執とか執着のようなものになってしまったんだろう。
正直。
正直、そんな風に言える事が羨ましいと、そう、思ってしまった。
俺には何かを言う資格も、権利も有りはしない。
いつからこんな感情があったのか。
マクシミリアンとマグリットの話し合い(?)の後、旬から報告もあった。マグリットと旬の雑談のような話も聞いた。
そこでやっと気付いたんだ。
嫉妬している事に。
マクシミリアンのように堂々とマグリットと話せる立場に無い。
旬のように姿を隠して会いに行く事など出来やしない。
むしろ個別で会って話す事さえも叶わない。
いつの間に。
こんな、恋い焦がれるような、今まで感じた事もない感情を覚えるなんて。
ーーーーーー触れたいと、思ってしまった。
過去何度か妻を娶った事もあるが、こんな気持ちになど一度だってなった事は無かった。
結局のところ、忙しさを理由に構ってやる事も無かったし、時間を作ろうとも思わなかった。今にして思えば、結局のところ妻を迎えた、という事実さえあれば良かったのだ。
皇族として、臣下として、貴族として。それで良い、と思っていた。
恋愛なんて考えた事もなかった。
両親とされる親をずっと見ていたのも理由であろうか。
皇帝陛下である父は、皇后皇妃両殿下とも寵愛などしていなかった。どちらも政略結婚で、父に思い人がいるかどうかさえ聞いた事もない。
それもあり、いつも皇后皇妃両殿下はどちらが上かで争っているのだが。
そんな父親の元の子だから、こんな風に誰かに触れたいと思うなんて考えても見なかった。
こんなどす黒い感情が自分の中にある事が意外過ぎて、持て余す。
好き。
それだけではない。そんな綺麗な感情では無いと思う。
不自由な関係もあるのかもしれない。
閉じ込めて、俺だけのモノにしたいなんて、一瞬でも思ったことに自分自身で驚いた。
実際は、あのマグリットを繋ぎ止めるなんて、物理的にも無理だろうが。
止めなければと、やってはダメだと理性は言っていた。そう、言っていた。
でもどうしても止められなかった。
手を伸ばして、髪に触れてしまった。
そこで止められたのは僥倖だ。
でもだからって。
どうしろと?
マグリットが何の因果か、俺の事を俺と同じ様に思ってくれたとして?
それで?
両思いになって、ハッピーエンドとはいかないだろ。
きっと周りの状況が否定する。
それに、マグリットが俺を好きになるなんて想像もつかない。
俺はマグリットを何度も見捨ててきたのだ。
そんな資格など、無いーーーーーーーー




