取り敢えず好きだと仮定してみます
公爵家の馬車が待っている場所までボーッとしながら歩く。
授業が終わり時間も時間の為、見えてる範囲で人は居ない。
少しだけ、少しだけ時間がある。
廊下の一角に立ち止まり、窓から空を見上げる。
深く考えずに。旬の言葉をそのまま受け取るならば。
(皇太子殿下が私を好きなら・・・・・・)
どうしたいのだろうか。
好きか嫌いかと言われたら、そりゃ一択。
もう九回殺された。
好きな訳無い。
恨みもした。
今だって好きじゃないし、むしろ嫌いだ。
いや、どちらかというとマクシミリアン本人に興味が無い、が一番しっくりくると思う。
それでも。
マクシミリアンから純粋に好意があれば、それはそれ。
マグリットは貴族で。相手は皇族。
皇帝陛下の命あれど。
政治的観点からいっても悪くない婚約で。
元々マクシミリアンがそんな理由で結婚する訳もなく。
政略的結婚などに、意味を見出した事も無いだろう。
だからこそ嫌われていると思っていたマグリットは、必ず婚約破棄となると確信していた。
いつからかマクシミリアンが皇帝陛下となった瞬間には必ず、婚約者で無くなると思っていた。幾ら政治的なものであれ、表立って「皇帝陛下の皇后はこの人じゃないといけません!」なんて言える人は居ないし、そんな人が居たところでマクシミリアンが聞く耳を持つ訳も無い。
だからこそ未だに第一皇子派も勢いがあるのだが。
現皇帝陛下が存命の間にマグリットの婚約者をフレデリックに変える事が出来れば、おそらく皇太子殿下は第一皇子となる、というのが暗黙の了解である。当然、現皇帝陛下もその噂を知っている上に、否定もしない。
ここは一度、ジェシカの事は一旦置いておいたとして。
マクシミリアンがマグリットを好きなのであれば、話は変わってくる。
マグリットがマクシミリアンを嫌いだろうとなんだろうと、皇族側からの解消、破棄が無ければそれはもう、公爵家側からは否定する事さえ出来ないのだ。
貴族令嬢として。嫌いな相手であろうとも、嫁がなければならない。
貴族としての沽券も、矜持も、プライドもある。
貴族として、平民の生活を守る為、逃げ出す事など有り得ない。
マグリットと。
マクシミリアン。
ジェシカに。
フレデリック。
今までのやり直し同様の道を進んでいないのは、もう既に理解はしている。
マクシミリアンからよくわからない感情を向けられるのは、本当に初めてで。
好意か悪意か。
どちらからくる感情なのかは、全くわからないが。
それでもおそらくマクシミリアンがマグリットに向ける執着心は、間違いなくあって。
それがどうなるのかは、想像も出来やしない。
その執着心の元がわからないからこそ。
そのまま今までと同様。
執着心があるからこそ、処刑となるのか。
今までと違う。
執着心から、囲われるのか。
貴族令嬢としての気持ちは、皇后陛下となるのであれば、それに殉ずる事が出来れば満足だ。今まで血反吐を吐く思いをしてまで勉強してきた甲斐がある。
一人のマグリットとしての気持ちは、好きな人と結婚したいなんて夢見ている訳では無いけれど。興味さえ持てない人と一生を共にしなければいけない、となると話は別で。
これは本当なら言ってはいけない言葉。
(嫌、だな。)
と、純粋に思う。
こんな気持ちは相手が誰であろうと、本当なら伝えるべきでは無い。
コツコツコツと足音が聞こえる。
近付いて来ていたのは気付いていたが、その場から離れる選択肢は無かった。
「まだ残ってたのか?もうすぐ下校時間だぞ。」
いつもの皇子様顔はどこへやら。
困ったような、呆れたような。普段なら感情を笑顔の下に隠しているのに、表情に出してそう問い掛けてくるのはフレデリック殿下、その人で。
「そうですね。」
そうは言われてもまだ動く気になれなくて。
フレデリックの顔も見ずに、窓の外を見続ける。
「帰らないのか?」
顔だけじゃなく口調まで、いつもの取り繕ったようなものではなく。ここには本当に二人しか居ないのだと、実感する。
普段であればフレデリックも皇子である為、護衛が付いている。
しかし学園内に影を放っているのも理由としてあるのかもしれないが、マクシミリアンとは違い学園内では護衛を付けてはいないようだった。だからこその表情と口調なのだろうが。
「急いで帰る必要もありませんので。」
マグリットはそう言うが、公爵家一同また家出するのではとハラハラしている為、正直早く帰って来て欲しいと思っているし、マグリットもそれに気付いては居る。だからといって早く帰るつもりはないのだが。
「マクシミリアンと話したのか?」
チラリと顔を見ると、やはり困ったような、顔をしている。
「あれは話したと言うよりも詰られた、というのが正しいような気もしますが。」
「詰られた、ねぇ・・・・・・」
「皇太子殿下が何を考えてるのか、考えても考えてもよくわかりません。」
「そうだろうな・・・
でも、俺は、わかる、ような気が、する。」
えっ、と思わずフレデリックの顔を凝視してしまう。
しかしその顔に浮かんでいるのは困惑で。
どうしてそんな表情で、マグリットを見るのかわからない。
「マクシミリアンとはずっと兄弟としてやってきたが、別に仲が良いわけでも無いし、むしろ向こうは俺を嫌ってると思う。
俺は、正直あいつに興味がある訳でも無いしな。
それでも皇族という立場ゆえか、別にそんな関係性でも問題はなかった。傍目から大きな争いが無かったのは、皇位継承権がすでに決まっているのも大きな理由だったんだろうが。
でも育った環境は大いに似ているんだと思う。」
似ている?二人が??と全く似ていない二人を思い返す。
「俺は俺で、母である皇妃は先に産んだのは自分だと、優秀なのは自身が産んだ子だと。皇帝陛下となるのは自分の息子だと、そう主張し。
マクシミリアンはマクシミリアンで、皇后陛下である正妃は自分なのだから、帝国法からいっても自身の産んだ子が後継ぎであると、主張し。
どちらの母も母親らしい事もせずに、皇太后としての地位を争っている。マグリットも知っての通り、父親である皇帝陛下もあの様だからな。」
本当は違う、と言いたい。
皇帝陛下は二人にとても愛情のある方。ただそれを態度に出せない方なのだと言って理解出来れば良いのだけれど。
おそらくはもう出来てしまった確執が、そうはさせない事も知っていて、口をつぐんでしまう。
「だからこそ多分だが、何となくマクシミリアンが何を思っているのかわかるような気がする。
本人に聞いた訳でもないから、俺の勘違いかもしれないが。」
そう言ったフレデリックの顔は何だか今までに見た事のない様な顔で。
こう言った表情を向けられるのであれば、好意か悪意かわかるのにな、と思う。
今あるのは間違いなく好意的な気持ちであろう。
それは愛情なのか、友愛なのかはまでは、わからないけれど。
協力関係になる前の遠い記憶を掘り返す。
フレデリックはやはりマグリットを好いてはいなかった。
以前フレデリックも言っていたが、親としての愛情を与えられなかったのに、皇帝陛下はマグリットにその情を向けていた。
それにより皇子二人からの親を取られたかのような、嫉妬に晒されていたのだ。
いつも皇子様らしい笑顔ではあったけれど、瞳の奥では悪意があったのは間違いない。マグリット自身も小さい頃にそんな感情を向けられていると気付いてしまった時には、怖がったこともある。
けれど今は、仕方なかったんだろうな、としか思わない。
「俺はもう、お前がどんな人間なのか少しは分かったんだと思う。
けれど避け続けてきたマクシミリアンには、わからない。」
離れていた距離を、フレデリックが詰める。
今では手を伸ばせば、触れられそうな距離である。
近くなった事で見上げる形となる。
「完璧に見えるように努力した、と言っていたな?」
そう言えばそんな事を言ったな、と頷く。
「それはやっぱり完璧だったんだよ。
何をおいてもそつ無くこなす様が。
だからこそマグリットに強烈に憧れて、でも嫉妬して。」
サラリとマグリットの長い髪を、フレデリックの手が攫う。
普通ならこんな事をされれば、跳ね除ける、筈なのにそれが出来ず固まった様に動けない。
マグリットとフレデリックの間に、こんな事をするような関係性は無かった筈で。
髪を触っていた手に向けていた視線を、フレデリックへと向ける。
「どうしてもお前に囚われるーーーーー」
瞳の奥に、以前マクシミリアンからも感じた激情を見た。
そろそろ、毎日更新がキツくなってきました。
それでも更新していくので、見捨てずよろしくお願いします。




