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取り敢えず話を聞きます

 


 念話を送りはしたものの、返事を期待していた訳ではない。

 フレデリックも普段であれば直ぐに返事を返すのに、今回に限っては返事は無い。

 聞いていようが聞いてなかろうが正直なところ、別にどちらでも構わない。

 おそらくは聞いてはいただろうと。念話が繋がったであろう雰囲気は間違いなくあったから、思う。


 忙しくて返事が出来なかったのか、そもそも返事に困ったのかはわからないが、マグリット自身もフレデリックの返事を期待していたわけでも無い。


 ただ、独白のように呟きたかっただけ。


 必ず殺すという、よくわからない拘りは毎回感じていたが、誰がどう考えた所であんな激情を、マクシミリアンがマグリットに持っていたなどと思えるのか。


 今までと何かが違うからこそ、あそこまで今までと違うんだろうが。何度か同じ事を思い考えても見たが、わからない。


 マグリットとフレデリックが協力関係となった事など、マクシミリアンは知るよしも無いのだから、幾ら何でもそれは関係ないと思う。



 そんな事をツラツラと考えてみるも、答えは出ない。


 わざわざ用意されたティールームの個室を出る必要も無く、出されたお茶を飲んでいると、人が入ってくる気配がして入り口に顔を向ける。



「随分と文句言われてたなー。」

「ちょっと幾ら何でも堂々し過ぎじゃない?」

 入って来たのは、いつもと同じ全身黒尽くめの旬であった。


「まぁまぁ。大丈夫だろ。」

 そう言いながらも堂々と、先程までマクシミリアンが座っていた椅子に座ら、目の前に大量にあるお菓子に手を付ける。


(やっぱり甘いの好きなのね。)

「何でわざわざ私の所に来たの?皇太子殿下の監視をしていたじゃない。」

 当然、旬が入って来た瞬間には防音の結界を張るのも忘れてはいない。


「交代してもらったよ。俺の本当の役割はあんたの手足だろ?」

「あんた、って。

 名前で呼んでよ。な・ま・え!」

「カンバーラント公爵令嬢?

 口調は砕けたのに、こうなると呼びにくくてなぁ。」

 お菓子を食べ続けているが、喉は乾かないのだろうか?

 マクシミリアンが飲んでたお茶はティーカップが壊れて無くなったし、そもそもそんな残っていた物を飲む事もしないだろう。

 仕方ないな、と空間魔法で水を出す。お茶も考えたが、好きそうでもなかったしこれで良いだろう。


 ありがとう、と素直に受け取り一気に飲む。

「そんな呼び方しないでよ。

 マグリットで良いのに。」

「・・・・・・・・・いや、流石にそれはマズくないか?」

 貴族令嬢を呼び捨てなどと、婚約者や夫でも無い限りしない。


「貴方といる時の私は公爵令嬢じゃないもの。」

「いや、公爵令嬢だろ。」

「違うわ。冒険者としての私よ。」

 公爵令嬢が嫌なのでは無い。それでも冒険者としてやっていくのも命の危険はあれど精神的には気楽で良い。


「はいはい。マグリットね。これで良いか?

 まぁ、毎回防音の結界は張ってるみたいだしな。」

「流石ね。毎回わからないように張るのに、必ず気付くんだもの。」

 ちょっと自信があったようで、拗ねた様な口調になってしまう。


「そもそもわからない様に張る、なんて出来る時点で普通じゃないからな!相変わらず詠唱も無いし。」

「あら、でも私は魔法士では無いわ。」

 マグリットの言葉に旬は冒険者であるマグリットの格好を思い出す。そういえば確かに刀を持っていた。それも驚いた要因だ。

 剣でもレイピアとかでもなく、旬の自国の武器でる刀を持っていた事。


「その魔法の腕で、剣士だと言うつもりか?」

 刀を持っているのも見たが、それでも魔法の腕だってかなり物である。

「魔法無しで戦ってみる?」

 淑女とはかけ離れたニヤリとした笑みを、旬へと向ける。

 そこで瞬時に察する。


「いや、止めておく。」

 これは戦ってはいけないと。



「話を戻すが、あの皇太子は魅了の魔道具でジェシカってやつの虜なんじゃなかったのか?」

 片肘をテーブルに付きながら、もう片方でお菓子を食べながら、マクシミリアンが出て行った扉を振り向く。


「その筈、なんだけど。

 やっぱり第三者から見てもあの人の様子って変、よね?」

「主とマグリットの言っていた事が本当なら、変だな。二人が言っているのを嘘だと思っている訳じゃないが、皇太子がマグリットと居る場合は余計に、様子が変わると思う。」

「私といる時?」

「そう。例えば皇太子とジェシカとやらが一緒に居るところを見れば、魅了の効果もあるのかもな、とは感じる。それでも大きく効果がある様には、正直なところ感じはしない。

 それ以上にマグリットと皇太子が一緒に居る時は、ジェシカ以上に、皇太子はマグリットを意識してると思う。」


 そう言われてみれば、マクシミリアンとジェシカはやり直しの時に比べて距離があると感じた事があったと思い出す。

 未だにジェシカがマクシミリアンの事を愛称で呼んでいなかった。マグリットの記憶が確かならば、二、三回程の接触で今までなら愛称呼びに変わっていた筈だ。

 それゆえに、周りから白い目で見られていた。気付いてはいなかったようだが。



 それよりも。

「皇太子殿下が、私を意識している?」


 一体何なんだ。

 フレデリックも旬もマクシミリアンがマグリットを意識していると言う。そこにどの様な感情が伴っているのかはわからないが。確かに先程の様子からも、そう言われても仕方が無いとは思う。


「何でそんな不思議そうにすんのかはわかんないけど・・・・・・」

(処刑され続けたからかしら。)

「皇太子はマグリットを好きなんじゃね?」

 ザクッと旬がお菓子を齧る音だけが響く。



「私自身、誰が好き、とか考えた事も無くて。

 それでも、別に鈍感とかでは無いと思うのだけれど・・・」

 社交界で立ち回りをして来たのだ。相手が自分を好意で見ているのか、悪意で見ているのか位はわかる。

 それでも。

 マクシミリアンから好意のようなものを、受け取った事は無い。


「あ〜確かにあれは判りづらいかもしれないが・・・」

「しれないが?」

「何で言ったら良いのかな?」

 そう言いながらもお菓子のひとつをマグリットに持たせる。


 キョトンとしながらも、受け取るべきなんだろうとそれを取り敢えず受け取ってみる。

「それはお菓子だが、例えばそれがずっとずっと自分の元にあるのが当たり前のオモチャだったとする。」

(オモチャ・・・)

 コクンと頷く。


「自分の元から無くなったりする事を考えた事も無くて、ずっと側にあるのが当たり前の物だ。」

 お菓子を何とはなしに眺める。

「当たり前の物なんてある訳無いのに・・・」


「それもそうなんだが。

 人間ずっと側にあるものが無くなったりする事なんて、考えなかったりするもんだ。」

 続けるぞ、と。

「無くなる事を考えもしなかったのに、ある日突然それがいきなり無くなるんだ。

 今まで当たり前に側にあったからこそ大切にしなかった物が、無くなった事で自分には無くてはならなかった物だと気付く。」

 思わず渡されたお菓子を食べる。


「それがおそらく皇太子にとってのマグリットだ。」

 ゴクンと飲み込んだお菓子を、思い返す。


(食べちゃった。)

 例えだったとしても、自分と言われた物を食べてしまったような気がする。


「その結果、好意を表すよりも先に執着が表に出た。だからこそ「俺の婚約者」だと主張するんじゃないのか?


 まあ、そもそも皇太子自身、マグリットを好きだという自覚が有るかどうかまではわからないけど。」


 それを聞いて再度お菓子を摘んで見詰めてみる。

「私が居なくなるなんて考えてもみなかったって事?確かに皇帝陛下の命からは逃げる事は叶わないけれど。

 皇帝陛下にとってはそうではないだろうけれど、皇太子殿下にとっては私なんて取って代われる、何でもないモノじゃないの?」


 旬はマグリットが持っているお菓子を、ヒョイっと持って行ってしまう。

「普通に考えて公爵令嬢を取って代わるなんて有り得ないんだけど。」

 いやいや、有り得るだろうと思う。


 他の公爵家にだって年頃の娘は居るし、侯爵家にだって居る。

 皇帝陛下の謎の拘りでマグリットが婚約者であり続けているが、皇太子殿下の婚約者の座を虎視眈々と狙っている者は多く居る。


 それを言った所で、旬はやっぱり取って代わるは無理だろ、と突っ込んでくる。


「こんな事してるからある程度貴族の事も知ってるけど、将来的に皇后陛下になれそうな器は居ないね。

 特にあんな皇太子じゃ、その親に傀儡にされて終わり。」

 自分が器じゃない、と言い切れればいいのだが長年の妃教育がそうさせてはくれない。


「でもそれはあくまでも、政治的観点からの話でしょ?

 あの、皇太子殿下がそんな事を考えて、結婚相手を決めるとは思えないんだけど。」

「確かにそれはそうかもな。

 いや、だからこそだろ。

 なら何故マグリットが自分の婚約者だと言うんだ?政治的観点から見ないのであれば、マグリットに固執する必要はそれこそ無いんじゃないのか?」

 それがどう考えても理解出来ない。思わず首を傾けてしまう。


「私に固執する理由?

 そもそも今まで別に固執とか執着とかされてるような気は、していなかったのだけれど。」

 普段から別に纏わりつかれている訳でもなく、必要な事以外話し掛けられたりする訳でもない。

 ただ最近の態度に、違和感を感じているくらいで。


「じゃあ、さっきの皇太子の態度をどう説明するんだよ。」

 それがわからないから困っているのだが。

「しかも自分とジェシカが一緒に居る事に対して何も思わないのか?

 なんて。結局はあれだろ?嫉妬してもらいたいんだろ。」


「・・・・・・・・・・・・嫉妬?」

 何その、縁遠い言葉は。


「別の女と一緒に居るのが気に入らないって思って欲しいんだろ。嫉妬して貴方は私のモノよ!って主張してほしいんじゃねぇの?」

「ちょっと理解不能なんだけど。

 それって皇太子殿下の事を言っているのよね?」

 そんな判りきった事を言ってしまう程、混乱している。


「確かに傍目からじゃ、そう感じんのかな?

 でも観察してればすぐわかると思う。皇太子はマグリットをよく見てるし、確実に意識してる。

 だからこそジェシカはマグリットを、目の敵にしてんだろうよ。

 魅了の魔道具の威力が凄かろうとも、別に好きな人が居れば効果は薄まるだろ?」

 確かに魅了の魔道具といえど効果は絶対では無い。

 だからこそジェシカも効果を得る為に何個も付けてるし、効果を絶対のものにしようと、こまめにマクシミリアンに会いにくるのだ。



 覚めてしまったティーカップに入っている紅茶をひと口飲み、出来もしないかもしれないが思考をリセットしてみる。


 最初から考え直してみるべきなのかもしれない。


 そもそも嫌われている、と言う所から間違えていたのだろうか。






 少し考えてもみたが結局、よくわからない。


 だが、時間は有限で。

 ティールームの片付けもあるだろうし、そもそも下校時刻というのもある。学園の玄関先には家からの迎えだって来ている。


 その場で考え続けた所で解決もしないだろうと、そのまま旬と別れ帰る事にする。







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