取り敢えずお話があるようです
溜息を飲み込み、笑顔で後ろを振り返る。
「帝国の若き太陽、マクシミリアン皇太子殿下。
ご機嫌麗しゅうございます。
お話とは?何でございましょうか?」
貴族令嬢としての微笑みを顔に貼り付けたまま、カーテシーで相対する。
「・・・・・・・・・少し、座って話さないか?」
最近のマクシミリアンは少しどころか、マグリットの意表を突き、驚かせる事ばかりし過ぎではないだろうか。
「座って、ですか?」
キョロっと周りを見渡したところで、近くに座れそうな場所は無い。
それに気付いたかのようにマクシミリアンは何も言わずに、後ろを向いて元来た道を戻って行く。
せめて一言声を掛けてから移動すれば良いものを。
マクシミリアンもマクシミリアンだが、おそらくは周りの人間がマクシミリアンが何かを伝える前に、先に先にと動いてきたのも問題であろう。
だからこんな何も言わなくても、他人には自分が何をしたいのかわかる、などと考える様な人間が出来てしまうのだ。
しかしそれに文句を言った所で何も変わらないのは、何度もやり直しをした時に思い知った出来事である。
マクシミリアンの少し後ろを歩きながら、聞こえない程度で今度こそ溜息を吐く。
マクシミリアンの護衛にさえ、気付かれない程離れた距離にいる筈の旬には気付かれたみたいだが。
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マクシミリアンに付いて辿り着いた場所は、学園内に備え付けであるティールームであった。
やはりここも貴族の学園らしく個室が用意されており、そこに連れて来られる。
入りたくない。
婚約者同士とはいえ名ばかりで、二人っきりになど子供の頃でさえ数える程しかないのに、此処に来ていきなり二人きり。
然程離れてはいないところに護衛は居るものの、話を聞かれないためか何なのか、ティールームの外に居るうえに、少し遠い場所で待機するようだ。
それでもこんな所で立ち話をする訳にもいかず、表立って嫌だと言える立場でもない。
マクシミリアンが座り、マグリットもまた向かいに座るように促される。
チリンとテーブルに備え付けてあったベルを鳴らし、お茶とお菓子を用意させ、マクシミリアンはマグリットを見つめる。
居心地が悪い。悪いのだが、おそらくは給仕の者が途中で来て話が中断するのが嫌なのだろうと当たりをつける。
実際にテーブルの上にお茶とお菓子が用意されていくまで、どちらも話し始めなかった。
しかし流石は皇太子殿下が用意させただけあって、目の前に用意されたのは、今からお茶会でも開くのかと聞きたくなるほどの品揃えに量であった。
(こんなに用意したところで、食べ切れもしないのに。)
市井での生活も長い為、この無駄に食材を用意させるのは余り好きでは無い。
案の定マクシミリアンを見てみるとお菓子に手を付けずに、お茶だけを飲んでいる。何のためにお菓子を用意したんだか、と呆れるものの貴族とはこういうものだと割り切るしかない。
「マグリット。」
「はい?」
話と言われても心当たりは特に無い。
マクシミリアンとの話題など、マグリットからしてみればひとつもないのだから。
「お前は・・・・・・」
言いづらそうにティーカップを無駄に触り続けている。
助け舟を出そうにも何を言いたいのか見当もつかない為、マグリットからは何も言えなかった。
ただ聞いてはいる、というのを首を傾ける事で示す。
「俺の・・・婚約者ではないのか?」
一体この間から何だというのか。
いやむしろ前回聞かれた時よりも自信が無さそうだ。前回は婚約者だと断定されたのに、今回は疑問系である。
あの普段から無駄な自信は一体、何処へ行ったのか。
「婚約者、ではありませんの?」
嫌だが、と一人心の中で呟く。
「なら何故、俺はお前が普段何をしているのかわからないのだ?」
「はい?」
ちょっと何を言い出したのか理解不能である。マグリットは生まれてこの方マクシミリアンに予定ひとつ伝えた事も無い。
この返事の仕方が不敬であろうが、仕方無いと思う。
「何故、お前は俺の近くに居ない?」
「????」
貴族令嬢として表情を取り繕う事も出来ず、疑問が顔に出る。
「何故、行方不明などになった?その間何処へ行っていた?」
「・・・・・・・・・・・・」
よくわからないが、言いたい事は多そうだと取り敢えずは聞く。
「お前は俺の側に居るべきではないのか?」
(これが、恋愛感情??)
「何故、ジェシカが俺の側に居ても何も思わない?」
ジェシカと仲良くする事を、普通なら咎められる事であるのは自覚しているらしい。
「何故、お前は俺に苦言を言いにこないのだ。お前は俺の婚約者ではないのか!」
マクシミリアンが未だに触れていたティーカップに、ピシリとヒビが入る。
(これが恋愛感情だと言えるものなのかしら?
皇太子殿下は私に無関心だとばかり思っていたのだけれど、これは一体、何・・・・・・?)
「マグリット!お前は俺のモノだろうが!!」
とうとうマクシミリアンのティーカップが割れる。
残っていたお茶が飛び散り服が濡れたようだが、それさえも気付いていない。普段のマクシミリアンからしたら、それは異例の事で。
いや、貴方のモノではありません。と即答出来ればどんなに楽か。
どちらにしろ、そんな軽く言ってしまえる雰囲気でも無いのだが。
何かを言う前に、バンっと個室の扉が勢いよく開かれる。
「大丈夫でしょうか!?」
そう言って入って来たのは、マクシミリアンの護衛であった。
小規模だがマクシミリアンの魔力暴走に、それによってティーカップが割れた音も聞こえたのであろう。
幾ら何でも非常事態だと判断し、突入という道を取ったようだった。
護衛とはいえ、マクシミリアンの暴走を止める役目もあるのか「落ち着いて下さい!!」と必死な様子が伝わってくる。
結局はマグリットがマクシミリアンに何かを言う前に、このままではいけないと判断した護衛達が、マクシミリアンをマグリットから引き離す。
「この埋め合わせはいずれ、また。」
そう護衛の人に言われても、とも思うが。
また。また??
またあれに付き合うのかと気付いた途端、ゲンナリする。
『あれは、恋愛感情では無いのではないのでしょうか。
どちらかと言うと、固執というか執着というか、そのような感じの。好きとは全く別物の、感情ではないのでしょうか。』
独り言のようにそれだけをフレデリックに念話で伝えてしまう。




