取り敢えず回避です
基本的には授業と授業の間の休憩時間は、教室から出てウロウロする事が多い。
マクシミリアンが声を掛けてきても煩わしいし、あのクラスにはマクシミリアンの取り巻きも居る。
情報収集という点では、グラスに居て他の御令嬢とも交流したいのだが、それ以上にマクシミリアンに絡まれるのが嫌な為仕方が無い。
それでも教室外で会えばそれなりに話したりもするし、仲の良い人もいたりする。やり直しのもっと前から、社交界での繋がりもある事もあり、それなりに知り合いは多いのだ。
教室から出ていく理由は皆んなそれとはなしに気付いているので、何かを言われる事も無い。
あくまでも社交界での貴族としての繋がりなので、親友と呼べる者は居ないのだが、それはお互い様である。
このタイミングも、そんな適当にウロウロしている時であった。
「また会えましたね!フレデリック先生!!」
今までジェシカとは学年が違う上に、フレデリック自身も教師の仕事は持ち帰らない様にしていこともあり、かなり学園内でも忙しくしていた。
その為か、初めて会ったあの出会いイベントの時以降、フレデリック自身とは会う事は無かったようだが、結局はこうして捕まってしまった。
マクシミリアンとは定期的に会って、交流を深めているらしいが。
そんな場面にまさか出会ってしまうとは、運が悪いとマグリットは思うも、もう避けれる距離では無かった。
確実にジェシカは、マグリットが近くにいる事に気付いている。
ここで逃げるようにするのもどうかと思うのだが・・・どうするのが正解かわからない。
必要であれば普段でも気配を探ることもするが、逆に必要では無いときには気配の察知などはしないので、こんな場面を目の当たりにしてしまった。
今後歩き回る時は、誰が居るの確認するべきか本気で悩む。
しかしそんな気を張りながら、わざわざウロウロしたくないのが本音だ。
キャッキャッと擬音が聞こえてきそうなキンキンした甲高い猫撫で声で、ジェシカがフレデリックに擦り寄り話し掛けている。
それを見てどうしようかと考えているマグリットに対し、ジェシカはチラリと視線を向け、嘲り笑うかのような表情を一瞬だが向けてくる。
カケラもフレデリックがジェシカに靡かないなんて、考えてもみないのであろう。
ジェシカが身に付けているであろう大量の魔道具に対抗出来るように、フレデリックの為に作った魔道具は一個だが、かなり強力な魔法陣を組み込んである。
だからこそ余計に魔道具士にも作れない程の、細かな魔法陣を刻むことが出来るフレデリックのスキルは、今回大いに役に立った。その上皇族、王族でさえも殆ど手に入らない程の、最高級魔石である。
幾らジェシカが数を持っていようとも、元々魅了に抵抗するだけの魔力量もあり、ジェシカに魅了される事は無いであろう。
「今度フレデリック先生に、授業で解らないところを聞きに行っても良いですか?」
明らかにフレデリックに袖にされているにも関わらず、少しも落ち込む様子も見せない。なかなかに強靭な心の持ち主である。
「あ!マグリット様だ。」
然も今居る事に気付いたかの様な反応をして、わざわざマグリットの方まで走ってくる。
走ってくるが、そもそもそんな風に接せられる程仲良くなった覚えもないし、名乗り合ってさえいない。むしろ存在さえも無視された覚えしかない。
マグリットはリボンに付いている装飾品をトントンと触り、一歩大きく後ろに飛ぶ。
すると先程までマグリットがいた辺りで、ジェシカが大きく転ぶ。
転んだ後ジェシカはガバッと音がしそうな勢いで座り込むと「何かが足に引っ掛かって転んじゃいましたー。」と片手で足首を指すり、もう片手で涙を拭くかの様に顔に当てながら大声で、むしろこれは叫んでいるレベルの声でそう言う。
そこにまるで図ったかの様に、マクシミリアンが何処からとも無く「大丈夫か!ジェシカ!!」と走り寄ってくる。
「マグリット!貴様がジェシカの足を引っ掛けたんだな!!」
見てもいないのに決めつけるのは、いつになっても変わらないのだな、と呆れ返る。
「どうやって私が足を掛けたと言うのでしょうか?」
そうマグリットが言った通り、ジェシカが転んだ場所からマグリットが居る場所まで、現在結構距離があるのだ。
マグリットが魔力を駆使して一歩だが、かなり後ろに飛び下がった為、足を引っ掛けたとは言えない程の距離が出来ている。
「そうだな、ウェルズリー男爵令嬢が転ぶ前にカンバーラント公爵令嬢は既にそこに居た。」
しかもフレデリックという目撃者まで居るのだ。マグリットがやっていない証拠はあれど、やった証拠は何処にも無い。
しかしこんな手段まで使ってくるとは、油断していなくて良かったと胸を撫で下ろす。
(今までであればわざわざこんな手の込んだ事はされなかったのに、今回に関しては私が虐めたという証拠でも欲しいのかしら?
今までは証拠を上げもせずに、断罪してきたというのに?)
どうも今回のやり直し、今までと様子が違うような気がする。
そもそもこんな初めから、ジェシカにここまで悪意ある視線など向けられた事は無かった。
「痛かったです。マクシミリアン皇太子殿下。」
泣き真似さえも上手いな、と変な所で感心してしまう。一層の事、舞台に立つ女優にでもなった方が安泰であろうに。
しかし此処でもまた違和感。
ジェシカがマクシミリアン皇太子殿下と呼んでいる。
記憶が確かならば、かなり早い段階でこの二人は愛称で呼び合っていたと思うのだが。
今までと何が違うのか、少し真剣に考えた方が良いのかもしれない。
結局はマグリットに罪を着せる事が出来なかったのもあり、マグリットが居た事さえも無かったかの様に振る舞って、ジェシカとマクシミリアンが二人で肩を寄せ合いながら(足を捻っているから?)マグリットとフレデリックが居た所から去っていく。
「殿下、何となく今までと違うような気がするんですが、気のせいでしょうか?」
遠巻きに此方を伺って居た者達も居るが、皇族二人に公爵令嬢が居る場所に突入してくる者は普通なら居ない。つまりは少し話した所で聞こえる距離には誰も居ない。
「・・・・・・・・・学園での様子を知っていた訳では無いから俺も確かな事は言えないんだが、少しマクシミリアンの様子が違うような気はしていた。ただ確証もないし、普段は話もしないだけあって確信には至らなかった。
マクシミリアンにも護衛や影が付いているから、変な事は出来ないしな。」
ジェシカの動きは確実に違う。これに関してはフレデリックが今までなら学園に居なかった事が関わっているのだろうが。
「ウェルズリー男爵令嬢は、皇太子殿下の取り巻きを魅了で取り入るよりも、皇族であるフレデリック殿下に狙いを定めたと考えるのが妥当ですわね。」
その言葉に皇子様然としていた表情が、一瞬だが大きく崩れる。
相当ジェシカを嫌っているらしい。これから付き纏われる可能性も大きいというのに。
「・・・・・・少し気になるのだが、本当に、本気でマクシミリアンはマグリットと結婚する気は無いのだろうか?」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
不快に思いながらも考えてみるも、ジェシカが居る限り変わらない様な気がするが。
「ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢がもし居なかった時、二人は結婚したのだろうか?」
居なかった場合?
もし居なかったとしたら二人は婚約者同士というのは変わらず、そのまま行けば結婚したであろう。
しかし本当にそのまま行くのだろうか?
思わず首を傾けてしまう。
「幼き頃からずっと、皇太子殿下には避けられてきましたわ。」
マグリットだって幼い頃に決められたこの婚約に、夢を見なかった訳では無い。両親の様に仲良くしていけると幼心なりに真剣にそう信じていた。
しかしマクシミリアンの行動がそうでは無いのだと言っていた。それでも暫くは距離を縮めようとしてみたが、そもそも避けられている為会えないし、会えた所で対応も悪い。幾ら夢見る子供であっても、それでは夢は見続けてはいられない。
それでも相手は皇子で、マグリットは公爵令嬢。
公爵側から婚約を無かったことになど出来ないのだ。特にマグリットは皇帝陛下が、時期皇后にと望んでいる。婚約解消を口にすることは出来なかった。
「だからこそ、マグリットと結婚する気は無かったのではと?」
「そう考えるのが自然では?」
フレデリックはそう問い掛けるも、何故か腑に落ちない。
「だからこそ、のような気もするが。」
「どういう意味ですか?」
逡巡する。これをフレデリックが言って良いのかどうなのか。
それでもマグリットは知っているべきかもしれない、と思い直す。
「マクシミリアンはマグリットに、恋愛感情を持っているのかもしれない。」




