取り敢えずダンスです
翌日には早速護衛が変更になった。
朝誰も居ない隙を狙って、旬がマグリットへと挨拶をしてきた。今までの護衛では有り得ない事だ。顔ひとつ見せた事も無かった。
挨拶はされたが、実際には護衛としている訳では無い為、すぐさまマグリットから離れる。だが旬には別の用事をお願いする事もあるだろうと、定期的に顔を見せる事になっている。
(監視されて無いって、何て開放的!)
やはりずっと見られているのは落ち着かないし、気も抜けない。確かに学園内では誰が見ているかわからない為、監視があろうと無かろうと気は抜けないがそれでも気分が違う。
学園内の廊下であろうと、ルンルンと歩きたい気分にもなる。流石にやらないし出来ないが。
今日からは護衛を気にしないから、お昼休みを使って依頼をこなしていこうかな、と授業と授業の間の休み時間、人気の無い場所で依頼書の確認をする。
貴族の学園だからこそ、休み時間が長いのは助かる。
依頼を決めた所で、次の授業へと向かう。
次は貴族学園らしい、ダンスの授業である。平民や下級貴族が居るのもあって皆んなが皆んな踊れる訳ではない。
上級貴族であってもそれは変わらない。ダンスがそもそも苦手としている者もいるし、曲の難易度が上がれば踊れない者も多くいる。その為、こういった貴族が通う学園はダンスの授業は必修科目である。
実はマグリット。この授業が果てしなく嫌いだ。
しかしやはりそこはサボる事は出来ない為、練習用のダンスフロアへと向かう。
当然、本番でしっかり踊れる様にと服装もドレスである。
流石に全員の着付けをする時間までは取れない為、簡易的な一人で着れるタイプの物であるのだが。
簡易的とはいえ、ドレスはドレス。裾は長く作られている為、少し裾をつまみ優雅に歩く。
歩いているマグリットの姿に見惚れるのは、一人や二人では無い。それ程までに優雅な仕草である。
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「遅かったな!マグリット!!」
相変わらずの大きな声でマグリットを呼ぶのは同じクラスに居るマクシミリアンである。
ここは貴族学園。何人も婚約者同士、という人達が居る。
ダンスは男女二人で踊るもの。
社交の場でダンスを踊る相手は、必ずと言っていい程、婚約者は絶対に踊る相手である。授業も同じクラスに婚約者が居る場合、パートナーは婚約者となる。
マクシミリアンはその必ずを破る男であるのだが。
そう。マグリットはこの授業が嫌なのでは無い。必ずこのマクシミリアンと組まなければならない、というのが嫌なのである。
しかしそこは、貴族らしく笑顔で感情を隠す。
「申し訳ございません。マクシミリアン皇太子殿下。」
最上級の礼でもって挨拶する。
女性だけでなく男性も当然、正装である。
練習用の服は個人の物だが、学園側から用意された物である。つまりはマグリットとマクシミリアンの服は揃いとなっている。
マグリットはクリーム色のドレスに黒のレースが所々にあるデザイン。夜会に行くには少し地味、と感じる物。
マクシミリアンは薄い水色に黒のラインが入った服に、マントがマグリットの髪色である菫色をしている。
練習用で地味には作られているが、皇太子ということもあり、他の者達よりも少し華美である。
マグリットに見惚れる者もいるが、マクシミリアンも見目は良い為、かなり目を惹く。
その二人が並ぶだけで、周りから憧れのような視線が注がれる。
授業が始まり先ずは簡単な曲からと、ゆったりした曲調のものが流れる。
マクシミリアンは勉強はしてこなかったが、社交パーティーに必要なダンスはしっかり習得している。
つまりダンスはかなり上手く、しっかりとマグリットをリードしながら踊る。
マグリットも授業はマクシミリアンと居なければいけない為嫌いだが、ダンスが苦手な訳では無い。
「相変わらずダンスも上手いな。行方不明の間に腕が落ちたのではと思っていたが。」
「皇太子殿下のリードがお上手ですからですわ。」
「ふんっ。俺が上手いのは当然だ。」
その後も難易度が上がっていく曲に、踊れないと躓く者も増えていくが、マグリットとマクシミリアンはひとつのミスも無く、何無く踊っていく。
かなり難しい曲となり、とうとうマグリットとマクシミリアンだけが踊っている形となる。
これ程までにダンスは出来るのに、それを他の所で活かせないのは何故なのか疑問に思う程である。
「行方不明の間、何処へ行っていたのだ?俺の婚約者の自覚があるのか?」
雑談を交わせる程簡単なダンスでは無いにも関わらず、マクシミリアンが話しかけてくる。
本音を言えば、マグリットはマクシミリアン程ダンスは得意では無い為、無駄口を叩く余裕は無い。
しかし皇太子殿下の言葉を無視する訳にもいかない。
「私が何処へ行こうとも、皇太子殿下は気にしないと思っていましたわ。」
実際こうして聞かれてはいるが、今でもマクシミリアンはマグリットが何処へ行こうとも気にしないと思っている。
「何故そう思う?」
思わず疑問が顔に出てしまう。
何故そう思う?そう聞いたのか?何故そう思われないと思ったのかと、逆に問い詰めたい。
あれ程マグリットの事を放って置いて、今更なにを言っているのかわからない。
「お前は俺の婚約者だ。」
思わず少しだが眉間に皺を寄せてしまうも、すぐに表情を取り繕う。
「わかっておりますわ。」
そう言いながらも、マクシミリアンが何を考えているのかわからない。
その後はもう一度質問される訳でも無く、無言のままダンスを踊りきり、授業が終わって解放された。
しかし何故かマクシミリアンの瞳の奥に、隠しきれない激情を見た。




