取り敢えず魔石です
フレデリックの依頼を受けてから数日。
これなら魔石に刻めそうだと言う所まで、理解が進んだ。
毎日付けていても違和感の無い、装飾品にしなければならない。
教師もしているとは言え皇族なので、普段からも皇族らしい服で過ごしている為、装飾品を付ける事は問題ではない。
しかし毎日付けるとなると悩む。皇族らしい服とはいえ、あくまでも普段着で、政務内容によっては正装だって着るのだ。どちらでも違和感無い物にしたい。
魔石に刻む前にどの様な形にするのか、決めないといけないのだが。
フレデリックが悩んでるのがわかったのだろう。
マグリットと旬も二人で並んで、執務机の前に立っているフレデリックの全身を見る。
「ピアスはどうだ?」
旬はどうやらマグリットに話し掛けているらしい。
「いえ、魔石はひとつですから。片耳だけとなると普段なら兎も角、公式の場では少し身嗜みとしては良く無いので。
それに皇族の方が付ける正装時の耳飾りは結構華美なので、それを普段からずっと付けるには違和感もあるかと。」
「なら、ネックレスとか?」
「ん〜それもちょっと。今の服装もそうですが、貴族の服は襟詰であったり、ジャボが付いていたりするので、そもそもネックレスの様な物を男性が付ける事が少ないのです。
見せないようにずっと付けるというのも手ですが、それはそれで襟詰の下に付けるともなると、ごわついてやはり邪魔になるかと。」
ジャボとは貴族の服装の首元に付いているヒラヒラした胸飾り。つまりは襟元に何かがある時点で邪魔になってしまう。
「腕には・・・・・・もう何か付けていらっしゃるのか。」
「・・・・・・・・・・・・」
見えない様にしているとはいえ、念話する為とはいえ、同じ物を付けているので余り言及はしたくはない物である。
「ずっと付けてて違和感無いもの。意外と難しいもんだな。」
フレデリックはずっと見られているのに居心地の悪さを感じるものの、真剣に考えてくれているだけに何も言えない。
「そうですね。すでに普段からいつも付けている物を魔石付きの物に変えるのが、一番問題無いかもしれないですね。」
「あぁ、確かにそうだな。」
そして二人して再度ジロジロとフレデリックを見る。思わずフレデリックの方も身動ぎせずにピシッと立つ。
「いつも付けてるもの?」
疑問に思い旬はフレデリックを見るも、フレデリックも答えれない。
「影様、殿下は一人で服を着る訳ではございませんので、御本人といえど余り詳しくは無いと思います。」
ここ数日、夜中三人でずっと居るものの名乗り名乗られをしていないので、名前を呼んだりはしない。
「貶されてるような気になるのだか。」
「気の所為ですわ。貴族の方が着る服は一人では着れない物も多いですから、皮肉でもなんでもありません。」
淡々と言いながらも、目は真剣にフレデリックを見ている。
そういえばと肩口に目が留まる。
「殿下はペリースを付けていらっしゃる事が多いですね。」
ペリースとは片方の肩にだけ着けたているマントの様な物である。
皆んなが皆んな着けている物では無いが、フレデリックが着けていないのは見ないような気がする。
「ん?そうだな。必ず着けてるな。」
「拘りでも?」
「いや、正直いえば服に拘りは無いんだが。着付ける者が必ず着けるな。
嫌でもないし、簡単に皇族らしさも出るから便利だな、と思うくらいで。」
「それでもマントでは無く、ペリースなのですね?」
「あぁ、それは教師の時はしていないが、それ以外の時は帯刀しているからな。
そもそもマントは動きが阻害される事も多いから、性に合わないんだ。だから教師の時もペリースを着ている事の方が多いな。」
ペリースは片方だけということもあり、剣を持つ者は片方が自由になるペリースを着ることの方が多い。
実際フレデリックは現在も帯刀している。
「それならば、マントの留め具に魔石を付ければ良いのでは?」
ペリースでもマントの時でも、留め具は必要だから付けるのだ。
「それは良い考えだな。ならそれに合う魔石を先ず、用意してからだな。明日には用意出来るであろう。
なら、今日で依頼は終わりだな?」
フレデリックは確認するようにマグリットに問い掛けるも、マグリットはかなり不満気にフレデリックに顔を向ける。
フレデリックもフードで顔は見えないながらも、雰囲気で不満なのが伝わる。
「殿下。」
「な、何か問題があるのか?」
「殿下。私は以前言いました。どうやって魔石に魔法陣を刻んでいるのか?と。」
詰め寄る形になるのは致し方が無いと思う。
「あぁ、言っていたな。
方法も伝えたではないか。」
スキルで刻むのは一瞬だと以前の念話で伝えている。
「そんなんじゃ納得出来ません。
私は、この目で、見たいと言っているんです!!」
伝えられてはいるが、それをこの目で見たいと思って何が悪いのかと言わんばかりに、マグリットはフレデリックへと詰め寄る。
「わかった、わかったから。
しかし明日になるぞ。」
「それこそ、今更ですわ。」
もう既に魔法陣解説で何日も通っているのだ。今更一日増えた所で何とも思わない。
「なら魔石は明日までには必ず用意しよう。」
ーーーーーーー
「これが最高級魔石!」
キラキラという表現がピッタリな弾んだ声でマグリットは魔石を見つめる。
目線で触っても?と問い掛けると、フレデリックは頷く。
マグリット一人であればキャーと嬉しそうに叫び出しそうな雰囲気である。魔石を親指と人差し指で摘んで、掲げて光に当てて見詰める。
「魔石自体は見た事あるのではないのか?」
「そりゃ魔石を見る事はありますが、最高級品となると話は別ですわ。」
マグリットが魔法陣を刻む練習をしていたのは、名前の通り練習用の魔石であったし、最高級品の付いた魔道具もかなり希少品である為、滅多に目にすることさえない。
幾らマグリットが公爵家であったとしてもだ。
旬はというと、今までに見た事も無い程のテンションのマグリットに呆気に取られている。
それに気付いたフレデリックは思わず小さく笑ってしまう。
マグリットは名残惜しくも魔石をフレデリックに返す。
「もう良いのか?」
「それはもう、もっと魔石という物を研究したい気持ちはありますが・・・それ以上に魔法陣を刻むのも、楽しみにしておりましたので。」
フレデリックは今までスキルを他人に見せた事は無かった。
此処にいる旬も知らなかった事なのだが、驚く事は予想出来た為、先にスキルの事を伝えている。伝えてすぐは、かなり驚いていた。
「魔法陣を刻む前に最終確認といこう。
やり直しが利かない為、失敗は許されないからな。」
「魔法陣は完璧ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。
刻む魔法陣は魅了を打ち消しの魔法陣。それに向こう側も使っているであろう隠蔽の魔法陣だな。」
「はい。かなり細かな魔法陣となってしまいましたが、二つの効果のある魔法陣をひとつに纏めれたのは良かったです。
しかし問題無く刻める物なのでしょうか?」
マグリットが心配するように、その手の職人でさえ刻めない程の細かな魔法陣となってしまった。
しかしフレデリックは問題無いと、自信満々に頷く。
「では、いくぞ。
一瞬だから、よく見ておけよ。」
「はい。」
返事を返した瞬間。
フレデリックが握り込んだ魔石が一瞬だが、大きく光る。
そして、掌を開くとそこには魔法陣が刻まれた魔石が乗っている。
フレデリックは確認の為魔石を一通り確認後、マグリットへと渡す。
それをまるで宝物かのようにそっと持ち上げ、じっくりと見詰める。
「凄い。本当に刻まれてる。しかも間違いひとつなく。」
穴が開くのではと思う程に、マジマジと見る。
旬の方も気になっていたようで、マグリットの横に立ち手の中の魔石を覗き込んでいる。
旬が魔法陣に疎かろうとも、魔石に魔法陣を刻むのが難しい事は職人の少なさからも知っている事実で。
それを一瞬で成し遂げた主に対して、今まで以上の敬愛の視線をフレデリックへと向ける。
しかしフレデリックは複雑である。
そんな目で見られた所でスキルであっという間に出来てしまうというのは、キチンと刻める職人より全然凄くも何ともないと思っている。
取り敢えずこれで魔石が出来上がったのだ。
後は信用の出来る彫刻師にマントの留め具を依頼して完成である。
流石に皇族が付ける様な装飾品を、手作りなどは出来ない。
「これで依頼は終わりだな。」
旬が肩の荷が降りた、というような様子で呟く。
「そうなんだが、ちょっとお前に頼みたい事があるんだ。」
フレデリックとマグリットが目線を合わせて頷くと、旬にそう声を掛ける。
なんとなく嫌な予感がするものの、主からの言葉を聞かないなどの選択肢は無いーーーーー




