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取り敢えず影です

 

 いつジェシカが接近してくるかもわからない為、早めに魔法陣が欲しいとの事でその日の日付が変わった頃、と約束をした。


 本音を言えば誰にも見つからない様にフレデリックの目の前に現れたいのは山々だが、流石にフレデリックの執務室に入った事も無ければ、当然自室も入った事はない。


 他の場所では他人の目がある場合がある為、その二つのどちらがとなる。


 流石にずっと皇宮へと通っていた事もあり。場所は把握している。


 相談の結果、当然ではあるが執務室で落ち合う事となった。

 フレデリックが迎えに来たところで無駄に目立つだけである。


 あくまでも依頼書を通したのは、他人に見つかった時のための言い訳でしかない。わざわざSランクを雇った理由を挙げる必要も無い。



 つまりは転移した先からは足で移動する、という事である。


 転移を流通させたやり直しの時とは違い、マグリット以外に転移を使える者は居ない。その為転移禁止の結界が皇宮に張られている訳ではない為、その点では侵入も楽である。

 あるが、フレデリックは国の中枢の政務をこなしている事もあり、皇宮の中でもかなり奥まった場所に執務室がある。


 そこまで足で行くのは正直、かなりリスキーである。


 確かに気配は消す事は出来るが、察知出来る者も当然いる訳で。

 場所は帝国の中枢も中枢である皇宮。

 気配を察知する者が少なくない数いるのでは、と予測する。


 妃教育で皇宮に通っていた頃は、騎士との繋がりも殆どなかった事もあり、どれ程の実力者が居るのか把握出来ていないのが現状である。



 ーーーーーーーーー



 屋敷中が寝静まった頃を見計らい、ギルド員らしい服装に着替えトレードマークと化している黒のローブを着てフードを被る。


 そしてフレデリックの執務室へと続く道が最短となりそうな場所へと転移する。

 夜中とはいえ恐らくは皇宮内は見回りの兵も居るだろう。気配を確認すると思った程、警備は強くないかもしれない。しかし油断などはしない。



 気配を消し、足音を消し。

 走り抜ける。

 皇宮の様子からコソコソする方が見つかると思われるからだ。



 ノックをせずに執務室へと入る。

 フレデリックにはその旨を伝えていた事もあり、驚きは無かった。



 無かったが。


 殺気。


 腰に差している魔物解体用の短剣を取り出して、天井から降って来た攻撃を受け止める。


 ガキンっとかなり大きな音がなる。


「何者だ!」

 天井から降って来た人物に詰め寄られる。

 顔は出ているが、全身黒尽くめの暗殺者の様な風貌の男である。むしろ短い髪も鋭い目も真っ黒で、この国では珍しい外見の。フレデリックと同じ歳か少し上位のスラリとした男性。


 フレデリックが声を掛けようにも、それを許さない雰囲気である。


 しかしマグリットは意に介さず悪意が無い事をアピールしたいが、何と言って良いかわからない。

 むしろこんな風にフレデリック殿下の部屋へ入ってくる時点で、怪しいのは当たり前なのだ。


 この攻撃して来た人物は何も悪くない。

 悪く無いどころか、他の誰にも気付いていないマグリットの侵入を気付いているのだ。かなり優秀なのであろう。


「何者だと聞いている!!

 我の攻撃を受けながらも、防音の結界まで無詠唱とは!!」

 刃物がぶつかる音などすれば、他の者までこの部屋へと飛び込んでくる。それを防ぐのは当然である。騒ぎにはしたくないのだから。


「殿下。こんな方が居るなど聞いてはおりません。」

 驚いて言葉を失うように、剣を合わせた二人を見ていたフレデリックはハッとする。


「止めろ!お前今日はもう休めと言ったではないか!」

 黒尽くめの人物に向かってフレデリックは言うも、その言葉を受けたその者は眉間に皺を寄せる。


「殿下がまだお休みになられていらっしゃらないのに、休める訳が無いではありませんか!!」

 思わず未だに鍔迫り合いをしているにも関わらず、そりゃそうだ、と思ってしまった。


 反撃して仕舞えば、非は此方にあることになってしまう為どうしようかと思案する。


 意識が逸れ隙が出来たと思われたのか、鍔迫り合いをしていたのを跳ね返され、そのまま殺す勢いで剣を振り下ろしてくる。


「マグリット!!」

 この姿でその名は呼んで欲しくなかったな、なんて真面目に考えてしまう。


「大丈夫です。問題ありません。」

 再度短剣で剣を受け止め、今度はそれを滑らして弾け飛ばす。

 その反動を利用して後ろへ飛ぶ。


 距離を取った方が、フレデリックの言葉を聞いてくれるのではと思ったからだ。


「テメェ!舐めてんのか!?」

 暗殺者のようにしていた割には、随分と激情型である。


「旬!!止めろ!!!」

 フレデリックの本気の静止に、流石に主人の言葉は無視出来ないのか、再度マグリットに向かってこようとしていた足をピタリと止める。


「主、何故止めるんです?こんな怪しい奴。」

 止められはしたが殺気を隠そうともせず、獲物であるマグリットに剣を向け、威嚇したままフレデリックに問い掛ける。

 当然の如く目線は睨み付けながら、マグリットから外さない。


「攻撃する必要が無いからに決まってるだろ。

 俺がその人を呼んだんだよ。」

 良い加減話を進めたいと、二人を眺める。


 旬と呼ばれた者は、名前と外見からいって東方の方の出身だろうと当たりをつける。


 見ただけで実力を測るのはある程度の実力があれば出来る事。隠す事が得意な者も当然ながら居るのだが。

 かなり、強い。


 過去様々な人達と出会って来たが、かなり上位に位置するのでは無いだろうか。流石、皇族付きである。


 マグリットが成す術もなく、二人のやりとりをボーッと眺める。

 いつ攻撃が来るかわからない為、警戒を解く事は出来ないが。


 フレデリックの説得に取り敢えずの納得を見せた旬は、剣を鞘に戻す。


 どうやら依頼書を見せたようだ。

 やはりギルドを通していて良かったな、とフレデリックとマグリットで目配せし合う。


「お話が終わったのでしたら、依頼を遂行してもよろしいでしょうか?」

 フレデリックに言うというよりかは、剣を仕舞った割には警戒心バリバリでマグリットを睨み付けている旬に向かって伝える。


「すまない。休ませたと思っていたのだが。」

 フレデリックがかなり気落ちした様子を見せると、旬がワタワタとし出す。

 そんな事になるなら主の言葉を無視せず休めば良かったのに、とも思わないでも無いが、確かに主が起きているのに休む訳には行かないのもわかる。


「影、ですか?」

 普段なら姿を現さないようにしている、諜報員的なやつである。

「あぁ、影兼護衛って感じだな。」

 確かに旬が居れば、大抵の攻撃はなんとかなりそうである。


「確かに影に相応しく、全くと言って良いほど気配を感じませんでした。」

「俺的には護衛を頼んでいるつもりはないんだがな。」

 えっ!とマグリットと旬が同時にフレデリックを見る。


「一人に多くの仕事を与えるつもりはない。

 影は影の仕事があるのだから。

 護衛は別で居る。」

 今日は元々マグリットが来る話だったので人払いをしていた為、周りに誰も居なかっただけだ。

 普段であれば執務室の扉の前に護衛が二人は立っている。

 場合によっては部屋の隅に居る事もある。


 なら何故この人は護衛の様な事をしているのかと、旬を見ると目を逸らされる。

 好かれては居ないだろうから仕方がない。


「旬は止めろと言っても聞かん。」

 盛大な溜息と共に、呆れた目線でフレデリックは旬を見るも、その目線からも逃れようと視線を逸らす。

 そんな事をしながらも出て行かないのは、マグリットが旬の中で信用に足る人物だと判断していないからだろう。


「あら、良い護衛だと思いますが。」

 実力は充分。忠誠心もありそうだ。


「というか、こんな事で時間を使うつもりは無い。

 旬!出て行け!!」

「それは出来かねます。」

 知ったからには怪しい人物と二人っきりにさせる事など出来ないと、再度マグリットを睨み付ける。


 確かにこの状態で出て行けは、少し無理があるかもしれない。

 フードで顔を隠しているとは言え、女である事はわかっているだろう。


 それを殿下と二人っきりにする。


 臣下としては容認する事など出来やしない。


 日を改めたところで、依頼書も見ている訳で。再度マグリットがフレデリックのところへ来るのはわかっているだろうし。つまりはいつ来たところで邪魔が入ると思っていて間違いはない。


「殿下。一層の事、この方が居ても良いのでは?」

 あくまでも依頼は魔法陣解説。確かに聞かれては都合も悪い事も有るだろうが、それでもこんな押し問答をするのも無駄である。


 フレデリックもそれは感じているようで、かなり渋い顔をしているも渋々ながら頷くしかなかった。


「同室を許可するが、離れていてもらうぞ。」

 近くで話を聞かれるのは、集中力の点でも勘弁してもらいたい。


 旬の方も納得は到底出来るものではないが、仕方無いと頷く。

 



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