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取り敢えず二つ名です

 


 今までは気配を察知するノクトが居る為、なかなかギルドに行く事は出来なかった。

 それでも授業が終わってから下校時刻まで結構あるので、数日前の出会いイベント以降監視をしなくなってからは、その時間に気が向いた時にギルドへ向かうようにしていた。


 それももう気にしなくて良くなった。


 ノクトには頼み事をして暫くは帰ってこない。マグリットから離れる事をかなり嫌がられたがそこは了承してもらった。


 つまりは今後一度家に帰ってからでも、転移でギルドへと行く事が可能となる。

 それでも小まめに依頼を受けるつもりは、今のところ考えてはいないのだが。



 フレデリックとは違いギルドマスターはマグリットへと連絡する術が無い為、どんな重要な指名依頼があろうとも、連絡をしてくる事は出来ない。


 指名依頼の話をしたが、いつにするかは決めていなかった。


 そろそろ依頼が来ていてもおかしくないな、と冒険者スタイルへと着替えてローブを被り町外れへと転移する。






 ギルドへと入った瞬間、受付嬢がハッとした顔をしてバタバタとギルドマスター室へと走っていく。


 そんなに急ぐ必要などないのに、とも思うも仕方ないのかもしれない。

 受付嬢にしてみればSランクを無碍に扱う訳にもいかないであろうし、それ以上に皇宮から依頼が既に来ているなら、マグリットに早くギルドへと来て欲しかった筈だ。



 急いで戻ってきた受付嬢にギルドマスター室へと案内され、直ぐに「待ってたぞ!!!」とギルドマスターの大声で迎えられる。


 もう少し早目に来るべきだったかもしれない。皇族からの依頼を直ぐ様受けれないとなると、かなり苛々?モヤモヤ?したであろう事は間違いない。


 それでも急いで受けて欲しかったらフレデリックから直接言われたであろうし、マグリット自身は余り気にしてはいない。



「皇族からの指名依頼が届いているんですよね?」

 片手でフードを取り、もう片手でギルドマスターへと手を伸ばす。


「もう知っているのか?」

「はい。だからそんなに焦らなくても問題ありません。」

 用意していた依頼書を、伸ばされた手に何の抵抗も無く渡す。


「連絡を取り合っているのを見る限り、どうもわざわざギルドを介さなくても良さそうだが・・・」

 フレデリックとマグリットの関係性が気にはなる様だが、追及はしないでくれるらしい。


「いえ、これはどうしても冒険者として受けなければいけませんので。」

 念の為依頼書を念入りに読むも、書いてある内容は特に変わった物でも無いため問題無いと頷く。


「へー。」

 気のない素振りをしながらも相当気になっているのがわかるのが少し可愛い。思わずマグリットはクスクスと笑ってしまう。


 それに気付いたギルドマスターはコホンと空咳で誤魔化す。


「その様子だとSランク承認は問題無かったんだな?」

「えぇ、大丈夫です。」

 依頼書を空間魔法へと仕舞い出て行こうとする。


「なら二つ名の話も聞いたよな?」

 ピタリと立ち止まってしまう。それもそうだろう。

 そんな話は聞いていない。


「二つ名?」

 そういえばその様な制度があったな、と思い出す。

 Sランクには今までなった事がなかったからこそ、興味も無かった。


「そう、二つ名。

 何だ、何も聞いて無いのか?」

 そう急がずに、座れと椅子を勧められる。


 マグリット自身も然程急いでいる訳では無かった為、いつも座っている定位置のソファーへと腰を下ろす。


「何も聞いておりません。

 というか、別にそこまでフレデリック殿下とは親しくもありませんし。」

 多分。と心の中で呟く。


「Sランクは二つ名が付くのは知ってるか?」

「言われて思い出したくらいですが、知ってはいます。」

 そんな物を付けられる事を考えるとかなり恥ずかしいが、本名が知れ渡るよりかはマシだと思い込む。


「なら、どうやって付けられるかは知ってるか?」

 流石に興味も無かっただけに知らない。フルフルと首を横に振る。


「1、自分で決める。

 2、もう既にある。

 3、Sランクになる前に有名になり、気付けばそう呼ばれている。

 4、ギルドマスターが付ける。

 5、報告後、皇族が決める。」

 一から四に関しては、まだわかる。


「5の皇族が決めるとは何ですか?」

 何故皇族が決める事になるのかわからない。


「殆ど無いんだが、お抱えにしたいとか、お気に入りだとかその時によって理由があるんだが・・・」

 嫌な予感がする。何故わざわざ名前を決める方法を丁寧に教えてくれるのであろうか。


「理由、ですか。」

「そう、理由があるんだ。

 俺はそれは知らないんだが。」

 つまりは、そう言う事である。


「決められている、って事ですか?」

「華雲の真珠、だとさ。」

 意味はわからんがな、とギルドマスターは呟く。


「華雲の真珠・・・・・・」

 意味。


 カァーっと顔が赤くなる。


 それに気付いたギルドマスターは驚いた顔でマグリットの顔を凝視する。見て欲しくなくて思わず両手で顔を覆う。



 華は、社交界から。

 社交界の華と言われていた、ずっと。


 雲は、紫の雲というところから取っているのではと思われる。

 皇后、という意味がある。


 真珠。

 今の今まで、それに気付かれたことは無かった。


 マグリットという名前は、大抵マーガレットから来ていると思われるのだが、実は違う。

 マグリットは真珠、という意味がある。



 マグリットは誰にも由来を気付かれたことは無かったが、この名前が好きだった。だからこそフレデリックに気付かれていたのが、想像以上に恥ずかしい。



「ちょっと、それは随分と可愛らしくありませんか?」

 こう、二つ名と言えば、瞬足の雷帝とかドラゴンスレイヤー等の物騒な物の方が断然多い。戦っている時の姿を見て、名を付けられることが多いためでもあるだろうが。


「どちらにしろ皇族からの名付けだ。断る事も出来んだろ。 

 お抱えになるかまでは知らんがな。」

 皇族、というかフレデリック限定なのだが。お抱えになるつもりまでは無い。必要とあれば依頼も受けるが、今回は仕方ないとしてもその様な関係性では無いのだ。



「別に付けてくれなくったって良かったのに。」

 ポツリと、それでも少しだけ小さく微笑う。

 それに気付いたギルドマスター。そんな顔を出来るんだな、と見惚れてしまう。


「これ以外の用事はありませんよね?」

 ソファーから立ち上がり、ギルドマスターへと問い掛ける。


 ハッとした顔をして頷く。


「他の依頼を受けてくれるならまだまだ用事もあるが。」

 受けてくれないんだろ?と少しの落胆が見える。

 Aランクであった時でさえかなりの指名依頼があった。それがSランクになった途端依頼は倍増したらしい。


「今回はこれだけ受け取りますが、今後は少し受ける量を増やしてみますのでそう気落ちしないで下さいませ。」

 肩をすくめながらギルドマスターへと笑い掛ける。


「本当か!?」

 Sランクとなり、依頼を受ける受けないが自由になったとはいえ、ギルドに来る依頼を止める事は出来ない。その上受けてもらえないという不満は全て、ギルドマスターへと来ているのであろう。

 それはもうキラキラした期待に満ちた目を向けられる。


 期待するところ悪いが、少し増える程度でしかない。あくまで学生であるうちは、然程時間など取れやしないのだ。


「あくまでも少し増える程度だと思っていて下さいませ。」

 ノクトが居ないだけで、他にもマグリットが居なくなる事に気付く者もいるだろう。

 一度屋敷へと帰った後、抜け出す事は可能にはなったが、長時間となると誤魔化しきれなくなる。

 それに行った事がある場所だけ転移で行けるのだ。行った事のない場所となると移動にさえ時間がかかる。


 簡単なものであれば数もこなせるだろうが、Sランクにくる依頼が簡単な訳もなく。依頼者もそれだけ多額のお金を払っているのだが、早く終わる物は余り無いのでは無いだろうか。


「次はいつ受けてくれる!?」

 かなりの必死さに他人事の様に大変だな、と思う。

 しかしそんな事はわかっていただろうに。前以て依頼は受けれないから辞めると言っていたのに、ギルドに引き留めたいからとSランクの打診までして。

 なので、これに関しては全く同情はしない。


 しないのだが。


 大きくひとつ溜息を吐く。


「前の様に私宛の依頼書を纏めてたりしませんか?」

 それを聞くなり、ギルドマスターはかなりの書類の束が入ったファイルを持ってくる。


 依頼書に使う羊皮紙も安くは無いのにご苦労な事である。


 バサリと束になったファイルを五冊程目の前の机に積まれる。


 これは、かなり想像以上の量であった。


 上の一冊を読むでもなく、パラパラとめくって見る。合間合間で何とかなりそうな物もあるだろう、と判断する。


 マグリットの一挙手一投足逃さずギルドマスターに注視されているのはどうにも居心地は悪いものの、仕方ないかと思い直す。


「これ全て持って行くのは構いませんか?」

「持って行ってどうするんだ?」

 流石に全てを捌き切れる訳ではない事はわかる様だ。


「精査して受けれるものは、時間の隙間にでもやったら良いかな、と思いまして。

 ただし!!

 貴族だから、とかで依頼は選びませんからね!!

 あくまでも時間が許すもので、そして緊急性が高い物を選びますからね!」

 そこだけは譲れない。


 以前の様な貴族の見栄のために、ドラゴンを狩るなんて必要性を感じ無いものなど受ける気はない。時間の無駄だ。


「構わない。

 貴族からの依頼を断れないのはギルドの性質上仕方ないが、それのせいで魔物を放置して村が全滅なんて目も当てられない。流石の俺でもそこの優先順位を間違えたりしやしない。」

 そんな事はわかっているとばかりに、真剣な表情で言い切る。


 然程長い付き合いでは無いが、このギルドマスター口は悪いかもしれないが、かなり民の事を考えて行動しているのがよくわかる。流石ギルドの上層部の人間である。人間性がしっかりしている。


 だからこそマグリットが気にいるのだ。これでも人を見る目は有るつもりだと自負しているのだから。



「それでは、一旦全て貰って行きます。」

 そう言ってそのまま部屋から歩いて出ずに、転移で消える。




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