〜sideマグリット 五回目の回顧
そうね。別に特別格好良いと言われる方でも何でも無かった。
平民の中ではありふれた、茶色く短い髪に茶色い大きな瞳、男の子にしては少し小さい背丈の本当に普通の男の子。
それでも。
今でも目を瞑るだけで、貴方の屈託の無いあの笑顔がいつでも思い出せるのよ。
楽しかった。
何度も何度も、何をやっても死んでしまうのに疲れて。
何も感じないと思っていたのに。
貴族として過ごしてきたのもあって、素直な気持ちを顔に出す事もなかった。
それでも表面上では感情の起伏がある様に振る舞って。
平民の中に居て違和感無く、少しでも馴染める様にしていたし、誰にも気付かれずに上手くやっていた。
なのに。
それなのに、どうしてかしら。
何故か、貴方だけが私の本質に気付いた。
「お前全然笑ってないのな。」
それを貴方が言った時、周りの人は何を言ってるんだと笑っていた。実際マグリットの顔は笑っていた。
でも心は笑っていなかった。
それに唯一気付いた人。
そしてそれに気付いてからはそんな事を気にせずに、ずっとずっとそばに居てくれた。
だからこそ貴方の前では私は普通の私で居られた。
平民の暮らしに疎く、ギルド員としても仕事が全然出来ない私を、ケラケラ笑いながらいつも正してくれた。
明らかに平民としてはおかしかったであろうマグリットに、何も聞かず只々平穏に過ごさせてくれた貴方。
いつしか壊れたんじゃないかと思っていた心が動いている事に、貴方のお陰で気付いたのよ。
本当に楽しかったし、貴族の中から抜け出せたからこそ、このままずっと過ごして行けるんじゃないかって思っていた。
それでも。
ずっとずっと探されているのには気付いていた。
マグリットが失踪してから町中に増えた衛兵。
ギルド内でも探し人の依頼が増えていく。
それでも冒険者としての印象と貴族としての印象が違うのもあり、見つかる事は無かった。
見つかるのを恐れて、市井へ出て早い段階で髪の毛をかなり短く切った。
姿絵が広まっていた訳でも無いのも見つからなかった理由の一つであろう。
しかしそれもいつかは見つかるのではと、ハラハラする日々であった。もう戻りたくは無かったし、戻ったら間違いなくいずれは処刑される。
このままの生活で死なないで居られるなら、やっぱりそれが良かった。進んで死にたい訳では無い。
それに、貴方と笑って何の憂いもなく過ごしていきたかったーーーー
「マグリット!お前が何処の誰だろうと、俺はお前が好きだ!」
いつもの屈託の無い笑顔でいきなりそう伝えられた。
え?すき???
そんな雰囲気など、全く無かった。
「ご飯何にする?」というくらいのタイミング。
これはあの有名な好きな人にすると言う告白なのだろうか?
親愛?友情?
困惑しているうちに貴方は背を向けて何処かへ行ってしまった。
直接的に好きなどと言われた事が無かったから、どうすれば良いのかもよくわからなかった。
貴方も恐らくは返事を期待していた訳では無いのだろう事は、その後の態度でよくわかった。
私も何かを言うにはタイミングを逸して。
それに。
どう言う意味で私が貴方を好きだったのか、わからなかった。
それでも結婚、その言葉を聞いて思い出すのは貴方の顔で。
今更答えなど出したところで、どうにもならない。
私の知っている、私と過ごした貴方はもう居ないのだから。
六回目のやり直しで貴方に会いに行こうかと悩んだのよ。
それはもう。凄く凄く悩んだ。
でもやっぱり私が知る貴方じゃないのが、どうしても容認出来る気がしなかった。
好き、だったのだろうか。
ずっと婚約者はマクシミリアンだと言われ続けた。
つまりは他の人を好きになるなど、許されることでは無かった。
マクシミリアンと結婚しなかったとしても私は貴族。
恋愛結婚など夢のまた夢。
そう思っていた。
だから市井へと出たところで恋愛して結婚など考えた事など無い。
ただ殺されるまでの時間を無為に過ごしたく無かったから出て来ただけだ。
好きと言われてから意識してみた。
貴方が私以上に親しげにする人が居れば確かに嫌だったのかもしれない。
それが何処から来る感情なのかは、自身の事にも関わらずわからないのだけれど。
だからこそ、余計に貴方には会いに行けなかった。
私がよく知る貴方が、私の事を全く知らない状態で、他の人と仲良くしているなんてきっと見ていられないから。




