取り敢えず魔法陣作ります
あの二人が出会ってしまったからには、今後の事を真剣に考えなくてはいけない。
先程の出会いイベントの場から離れて、図書館へと向かう。図書館に用事があるというよりかは、放課後すぐに家に帰る必要性もない為、当て所なく歩いている、に近いかもしれない。
『それで魔法陣は何とかなるのか?ならないのか?』
『それよりあの場から抜け出せたのですか?』
魔法陣が何とかなったとしても、フレデリックがジェシカの手の内に落ちて仕舞えば意味は無くなる。
『マグリットが抜け出して直ぐにな。それで、魔法陣は?』
フレデリックはかなり余裕が無さそうである。それ程ジェシカの魅了が強力なのが窺える。
余り遠く無かった図書館の奥まった場所を確保し、ノートと羽根ペン、インクを取り出す。
『魔法反射ともなると少し範囲が広いのと、もしそれをしたとして本当に全てを反射してしまう事になってしまうのでお勧め出来ませんね。同じ様な理由で魔返しも厳しいかと。
なので魅力回避というよりかは、本当に限定して魅了を打ち消す様な物であれば作れるかと・・・・・・・・・』
マクシミリアンと念話しながら、魔法陣を構築していく。
『異性にしか効かないのか?あれは。
かなり気持ち悪かったんだが。』
『そうですね、恐らくは。
万人を魅了するとなると、それはそれで難しいかと。観察したところ異性に好かれる反動で、同性には嫌われる可能性があるのでは無いでしょうか。ただただウェズリー令嬢が普通に、女性に嫌われる様な性格をしている可能性も有りますが。』
『魅了な・・・・・・・・・』
信じたく無かったと、言ってはいないがそう聞こえる。
『魅了に関わらず、人の心に作用する物は全て禁術ですからね。』
マグリットがウェズリー男爵領で得た情報は、フレデリックにとってかなり厳しい物であった。
禁術に関わっている段階でかなり危ない橋を渡っている。それをジェシカは本当の意味で理解しているのであろうか。
『魅了が掛かっている魔道具は?』
『それなんですが、恐らく魅了以外にも隠蔽の魔法も刻まれているのではと思われます。』
実は言うと目星が付いた物はあるにはあるのだが、恐らくは一つでは無い。複数の魔石が身体中にあると思われる。
ウェズリー男爵領に居た際にも付けていた装飾品が二つ程。魔法陣を解析した訳ではないが、それでも効果が足りないと思われる。
そもそも貴族が通う学園とはいえ、社交パーティーでも無い訳で。多少の装飾品は許される事もあるが、過度となると授業に支障が出ると注意される。
しかし二つだけでは皇族の魔力量を凌駕するのには、まだまだ足りはしないのではと予測する。
つまりはそれ以上の数の魔石を、制服の下に隠しているのは間違い無い。
それだけの禁術が掛かった魔石の総額が幾らになるのか。考えられない程の金額であるのは、ジェシカは知っているのであろうか。
それはやはり一介の男爵が用意できる物では、無い。
『一つの魔石に魅了と隠蔽を掛けているというのか?』
『そうですね。しかも複数個持っているのは間違いありません。』
それだけのことをやってのける魔道具士があちら側に居ると言う事か、とフレデリックは頭を悩ます。
『それを特定したとて、バレずに奪う事は可能だろうか?』
『そもそも全てを特定出来るかもわかりませんし、バレずに盗むのも難しいのでは無いでしょうか。』
領地が遠い場合であったりした場合、学園の寮住まいをしている者もいる。
S、Aクラスの者であれば一人部屋ではあるが、その他は二人部屋となる。当然男女で別れて居る為、どんな事情であれ、教師ではあるが男であるフレデリックは、そもそも女子寮には入れない。
マグリットに関しても、そもそも寮住まいでは無いので入れない。監視もかなりキツイ。
入るだけなら隙を突いて可能であろうが、全て盗むとなると流石に難しい。
『だよなぁ・・・・・・さて、これからどうするか。
やはり当初の予定通り、断罪までにイジメをやっていない証拠集めをするしかないのだろうか?』
『実はそれについて少し御相談が・・・・・・』
ノートに魔法陣の組み立てをツラツラと書いていた手をピタリと止める。
『相談?』
『はい。私の従僕がそこそこ強いんですが、ちょっと偵察に向かわせたいな、と思っておりまして。』
『あぁ、成る程。
確かにそれは必要かもしれないな。』
『少々こちら側の人手が足りなさ過ぎだと感じるのですが、殿下側からもどなたか居ませんか?』
『多少動かせれる者は居るが、学園内となると少ないな。』
皇族ではあるが、皇太子殿下でも無いフレデリックには、自身の駒と言える人物は意外と少ない。
だからこそ政務でさえ、アレクセイと二人でやり繰りしているのだ。
『結局皇太子殿下とウェズリー男爵令嬢はすぐに出会ってしまったので監視の必要性はぐんと減りましたが・・・・・・
そう言えば、そもそも私に付いている皇宮からの護衛がちょっと邪魔なんですが、どうにかなりませんか?』
毎回一人で動きたい時に撒かないといけない、という手間が既に面倒臭い。
『護衛?あぁ、俺を介さずに付いている者が居るのか。』
『はい。この護衛も向こうの手の者なので、只々邪魔なのですが。』
再度ノートに魔法陣作成するための式を書き並べる。
『誰からの指示の護衛だ?』
『マクシミリアン皇太子殿下という話ではありますが、恐らくは皇后陛下でしょう。』
あの人か、と確かにそれはマズイかもしれない。
『護衛として役に立っていないという証明があれば、何とかしてみよう。』
『証明?そもそも私に撒かれる時点で証明も何もありません。しかもその無能っぷりを、上に報告を上げていないと思いますが。』
『ふむ。その情報だけで充分だ。それはこちらで何とかしよう。
しかし護衛を付けないという訳にもいくまい。』
マグリットが護衛を付けなくても良い程強い事は、誰も知らないのだ。
それ以前に皇太子殿下の婚約者で公爵令嬢に、護衛無しは流石に出来やしない。
『何名かは動ける者がいらっしゃるのですね?』
『あぁ、影でよければ。』
影。諜報活動、浸透戦術、スパイ活動、果ては謀術暗殺まで様々な事を行う姿を現さない者達の事である。
皇族にはそれぞれ何名かのお抱えが居る。
『ではその者を何名かで、皇太子殿下とジェシカの監視をお願いしてもよろしいですか?私一人では限界もありますし。』
『わかった。護衛の方はどうする?』
『出来れば殿下の影の方が良いですが、無理であればせめて皇后陛下の手の者以外でお願い致します。』
今の護衛を外すのは然程難しくは無いだろうが、皇后陛下がマグリットの情報を手放すのを良しとするかはかなり怪しい。
『俺の手の者であれば、恐らく皇后陛下はお許しにはならない。』
そうだろうとは思っていた。
『・・・・・・・・・誰でも良いのか?』
『はいと言えば、どうなるのでしょうか?』
嫌な予感がするもどうしようもないのかもしれない。
『皇后陛下が否を唱えられないのは『皇帝陛下』』
わかってるんじゃないか、とフレデリックがクスクスと笑っているのがわかる。
『せめて殿下が信用に値すると思う方でお願い致します。』
『了解した。マグリットの失踪で皇帝陛下も良い方を差し出してくれるだろう。』
そんな事のために居なくなったのでは無いのだが、と思うも口にはしない。
『殿下。』
ノートにはビッシリと魔法理論や古代文字、大量の数字に計算式が書かれている。
『何だ?』
『魔法陣が完成しました。』
何でもない様に言うが、有り得ないスピードである。
事実フレデリックは言葉を失って様子で固まっている。
『出来上がった魔法陣はどうしたら?スキルで刻めるとはいえこのまま出来るものでしょうか?』
『魔法陣が完成した?この短時間で??本気で言っているのか??』
驚き過ぎて怒った様な口調になるのも、仕方が無いのではないだろうか。
魔法を作るなど普通、一生を賭けたって何個も作れやしないと言うのに。
そもそもマグリットは念話しながら他の事が出来ないと言っていたではないか。それを念話しながら片手間で、こんな短い時間で完成させたと言うのか。
『冗談でこんな事言いませんわ。
ウェズリー男爵領で魅了の確認が取れた際に、使う日が来るかもと少し考えていた魔法陣の下地があったのです。』
それでも、と思う。マグリットは自身を天才では無いと言っていたが、こんな事出来る者が他に居る訳がない。
『念話しながら他の事も出来るのではないか。』
『魔法作成に関しては別です。』
別な訳が無いのだが、マグリットは本気で言っている。
『魔法陣をただ複写するだけでは効果が得られないんだ。つまりその魔法陣を俺が理解しなければいけないんだが。』
やはりここでも立ち塞がる課題である。
二人きりで会えない。
これは本格的にどうにかして、顔を合わせれる方法を模索しなければならない。二人っきりでなかったとしても、そもそもマグリットとフレデリックがこまめに会う時点で問題なのも困る。
『仕方ありませんね、この方法だけは余り使いたくありませんでしたが。』
『良い方法があるのか!?』
『私当てに指名依頼を出して下さい。依頼内容はそのまま魔法陣解説で大丈夫ですので。』
確かにその手があったかと、フレデリックは喜ぶもマグリットが乗り気では無いのが気になる。これ以上に良い方法があるとは思えないのだが。
『私はSランクになったからといって目立ちたい訳ではございません。皇族からの依頼を受けたとあっては、どうしても目立ちますので。
しかしこうなってしまっては仕方ありません。殿下がウェズリー男爵令嬢に手籠にされるのは、流石にマズイので。』
『手籠・・・・・・』
相当嫌なのか苦虫を噛み潰したような声である。
『今回の事を抜きにしてもウェズリー男爵令嬢は可愛らしい顔をしているではありませんか。そんなに嫌そうにしなくても。』
魔法の力で感情を捻じ曲げるのは確かに頂けないが、普通に見る分には可愛い顔をしている。下級貴族や裕福な商人などの平民にはモテるだろう。こんな事をしなくたって婚姻には困らないと思う。
『そもそもあれは俺の趣味では無い。』
趣味?
『殿下。好みの女性なんて居るんですか?』
中々に失礼な物言いであるも、マグリットは本気でそう思っている。
『マグリット・・・お前俺の事何だと思ってるんだ?』
呆れた様な雰囲気だが、そう思われても仕方が無いと思う。
『清廉潔白な女性を寄せ付けない完璧皇子様。
それが他人から見た貴方様の評価ですね。』
『そんな者、居てる訳無いだろうが。』
『そうですね。ですがそれが他人からの評価ですから。
私的にはそもそも殿下は異性に興味があるのか、と思っていますが。』
フレデリックが女性を寄せ付けないのは有名で、社交界にも殆ど顔を出したりはしない。その上、縁談の話があったにも関わらず全て蹴ってきているらしい、と聞き及んでいる。
事情があるのだろうな、とは感じるも根掘り葉掘り聞くつもりもない。
『興味って。俺も男だぞ。
無い事はないが、今はそれどころではないのが現状か。』
そもそも政務で時間を取られるのに、縁談等に使う時間がそもそも取れやしない。いざとなればどうにかなるかもしれないが。
『好きでも無い政略結婚となるだけの相手に使う時間は、生憎と俺には無いんだよ。』
以前皇帝陛下に言った今後結婚したとして、火種になってしまう様な事を避けたいのも本当。そして時間が無い、これも本当。
貴族として好いた人と結婚なんて出来やしないだろうけれど、それでも興味さえ持てない相手に使う時間は勿体無い。相手がそれでも良いというなら兎も角、誰もが自分のために時間を作れと迫ってくる。
実は過去全てに置いて、結婚をした事が無い訳では実は無い。
しかし結婚生活が充分出来ていたかと言われると、首を傾げる事態となる
妻となる者全て、存分に構ってやる事は出来なかった。
大切にしようと、思った事がない訳では無い。
それでもマクシミリアンが皇帝陛下になった後は、どんな時であろうと今以上の激務なのだ。現皇帝陛下は崩御している。その政務を熟さなければいけない筈のマクシミリアンは何もしない。
その皺寄せは全てフレデリックに来る。
その結果。妻となった者にはいつも寂しい思いをさせてしまった。
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流石にそろそろ帰らなくてはいけない時間だと、念話を切った。
「結婚・・・・・・・・・」
ポツリと誰にも聞こえない程の声で呟く。
フッと過ぎる顔がある。
今はもう会えない人。
結婚なんて考えた事も無かったのに。
今になってあの人を思い出すのは何故なのかーーーーーー




