取り敢えず出会いイベントです
今マクシミリアンが居る此処は、柱という名の遮蔽物も多い、外にも通ずる廊下である。
そこの柱の一つに、ジェシカ=ウェズリー男爵令嬢が隠れている。
いざ動くとなると、ソワソワとしているのが見て取れる。男爵領では上手くいったが、相手は皇太子殿下。失敗すれば不敬になりかねない。
だからこそ数日を掛けて、慎重に期したのだろう。
まるで「えいっ!」とばかりに、隠れていた柱からジェシカが飛び出す。
ジェシカの目論見ではマクシミリアンに怪我が無い程度にぶつかり、取り敢えずは顔を覚えて貰うのが目論見か。
しかしそこは監視しているマグリットがいる。
マグリットも又ジェシカと同じ様に、しかし気配はかなり薄くして別の柱の陰に隠れていた。
制服のリボンに付いている装飾品をトントンと二度、人差し指で叩く。
そしてこちらも偶然を装って、さも今通りかかったかの様な雰囲気でマグリットもタイミングを見計らって歩いていき、マクシミリアンとジェシカでは無く、マグリットとジェシカがぶつかる。
(想像以上に勢いが良いわね。)
確かにこれ程しっかりとぶつかれば、覚えてもらえるかもしれない、と言う程の勢いである。怪我をしていてもおかしくは無いのではなかろうか。
あのマクシミリアンが女の子一人、支えられるとは思えない。
今回はマグリットにぶつかった為、ジェシカが倒れない様に支えはしたが、余り交流はなかったとは言えやはり良い印象を持っていないジェシカを助ける事に少しばかり抵抗を覚える。
マグリットは決して善人では無い。このままいけば自身を処刑に導くジェシカは普通に悪印象である。
実際こうして出会ったであろう二人が、その時怪我をしたのかしなかったのかはわからない。しかし取り敢えずは今回の出会いイベントは阻止出来たのではないだろうかと思ったがーーーーー
「そんな所で何をしているのだ?マグリット。」
廊下から出てきたマグリットとジェシカとは違い、フレデリックは外である花壇の近くに立っていたが、廊下と外とはいえ余り距離が離れていないのが良くなかった。マグリットとジェシカがぶつかった音で、マクシミリアンに見つかってしまう。
ジェシカを一人で立たせるために手を貸す。
そして失態が表情に出ないように気を付けながら、さもマクシミリアンが居る事に今気付いたかの様に振る舞い、カーテシーを披露する。
「帝国の若き太陽、マクシミリアン皇太子殿下。
図書館へと向かう最中でした。お騒がせして申し訳ございません。
そちらの貴方もこんな所で走っては危ないですわ。気を付けなさい。」
「皇太子殿下!!凄い!本当に学園に通ってらっしゃるなんて!!こんな風に会えるなんて嬉しいです!!噂通り格好良いんですね!!!」
ぶつかった事も、手を貸した事も、全て無かったかのような振る舞いで、むしろ此処にマグリットが居る事にさえ気付いていないかのような態度で、ジェシカは両手を胸の前で組みながらキラキラとした目をしてマクシミリアンへと声を掛ける。
(有り得ない程の無視っぷり。
そりゃ他の御令嬢にも嫌われるわ。)
学園へとジェシカが入学後確認してみた所、既にジェシカはかなり他の女の子の中で浮いている。貴族令嬢らしさもなければ、相手に婚約者が居ようとも関係無しにベタベタと異性にくっついて、いくつかのカップルにヒビを入れているのは間違い無いようだ。
ジェシカの適当な軽い褒め言葉対して、マクシミリアンは良い気になっているのが良くわかる。顔がデレデレしている。
普段から皇族という事で遠巻きにされる事も多いのに、性格も性格なだけに好き好んで付き合ってくれる者も多くはない。マグリットが婚約者、というのも広まっているだけに、あからさまに色目を使う者も居ない。
そのせいでこんな見え見えの態度にさえ引っかかってしまうのか、と呆れ返る。こんな様子ではどちらにしろ、二人がどうこうなるのを阻止するのは出来なかったんでは無いかな、と思う。
取り敢えず出会ってしまったのは、もうどうしようもない。今後の事を含めてフレデリックに連絡しようと踵を返す。
「マグリット!何処へ行く?」
てっきり出会ったばかりとは言え既にベタベタとくっついており、マグリットの事など気にもしないと思っていた。マグリットがこの場から居なくなるのに対し、マクシミリアンが気付くとは微塵も思っていなかった。
驚愕の表情を隠すのを忘れ、振り返り思わずパチパチと目を瞬かせてしまう。
マグリットを言葉で引き留めたものの、今出会ったばかりだというのに、ジェシカはマクシミリアンの腕に絡み付いている。
普通なら皇族にそんなことをすれば一族処刑でさえ有り得るというのに、信じられないと思わず一瞥する。
「申し訳ございません。お二人の邪魔をするつもりはありませんので。」
少しでも嫌悪感が表情に出ないように努めるも、余り実ってはいないかもしれない。
そんなマグリットに気付いているのか居ないのか、ジェシカを引き離そうとはせぬまま、マクシミリアンは近寄ってくる。
正直、二人でいる姿は気持ち悪いので見ていたくはない。
「邪魔とは何だ!?俺の婚約者はお前ではないか!!」
間違ってはいない。間違ってはいないのだが、マクシミリアンはこんな事を言う人では無かった。
でもそんな風に言うならジェシカを振り払えば良いものを、それはしないらしい。
一体マクシミリアンに何があったというのだろうか。
「しかし・・・・・・・・・」
ジェシカを見るも離れる気は無さそうで、むしろマグリットを見て挑発めいた目線をしている。
困った。皇太子殿下に対して不敬な態度を取るわけにもいかず、どうして良いかわからない。
マクシミリアンに至っては、ジェシカを引き離すつもりも無ければ、マグリットを見送るつもりもないらしい。
気配を感じハッと後ろを振り向く。助けて欲しいという目を後ろの人物に向ける。
マグリットの後ろからやってきた人物。
「あれ?一体こんな廊下の真ん中で何をしているんだい?」
そう皇子様然としたキラキラした笑顔のフレデリック殿下である。
マグリットと話す時とは違う、言葉使いを聞くと何だかモゾモゾしてしまう。
「兄上。」
ポツリという表現がピッタリ合うような小さな声でマクシミリアンがフレデリックを呼ぶ。フレデリック本人は気付いているのかは定かでは無いが、その呟きには反応しなかった。
しかし兄上の言葉に、ジェシカが大きな反応を示す。
「兄上!お兄様って事ですか!?
うわぁ、第一皇子様って事ですよね!学園で会えるなんて凄いです!!今日はラッキーな日ですー!!」
マクシミリアンの腕を離しはしないものの、フレデリックをも手籠にしてやろうとの魂胆が見え見えで、見境無いなと呆れた視線を向ける。
そんな視線がフレデリック以外には気付かれなかったのは、僥倖である。
そもそも、幾ら学園内は平等を謳っていようとも、先程も述べた通りそんな事は現実問題有り得ない訳で。貴族社会の常識として目上の人間に対して話し掛けられてもいないのに、先に話し掛けるなど許されない事。それをマクシミリアンだけでなく、フレデリックにまで常識を無視して声を掛けるとは言語道断である。
しかしマクシミリアンといいジェシカといい、何だか今までとは違う。
今までのマクシミリアンであれば、マグリットを引き止めたりはしなかった。
ジェシカは今までフレデリックに粉をかけたりしなかった筈である。
「学園内では第一皇子ではなくて、教師として接してもらえると嬉しいな。」
相変わらずの皇子様笑顔を振り撒くも、マクシミリアンはジェシカがどうしたいのかを知っている。だからこそ変に思われない様に上手くジェシカからの接触は避けている。
『あーマグリット。』
当たり障りのない会話をしながら念話を飛ばしてくる。
マグリットは目線をチラリと向け返事とする。
『魔法反射、魅力回避、魔返し、取り敢えず何でも良い。その辺りの魔法陣作れたりしないか?』
それを聞くだけでピンと来る。
『えっ、あんな軽そうな女を好きになるんですか?殿下。』
『あんな奴好きになぞなりたくないわ!!!
俺もマグリットには負けるだろうが魔力は多い方だ。だからこそ直ぐには効き目がある訳ではないようだが、何やらビシビシと何か、こうよくわからん物を感じる。』
魔力が多い事で抵抗にはなるらしい。
しかし魔力の多い皇族でさえこうなるという事は魔力が少ない者はあっという間に陥落するという事か。
後はやはり相手に対しての拒否感なども抵抗としては有効かもしれない。逆も然り、恐らくは可愛い等の好意的な感情は魅了を後押しすると思われる。
そして触れられるとかなりの効果を顕す可能性がある。実際マクシミリアンもフレデリックに負けない位の魔力持ちの筈。それにも関わらず触られてしまったからか、その手を振り払おうともしないし、そんな事考えもしていないようだ。
観察も適度に出来た事だし、此処にいる必要も感じない。マクシミリアンに呼び止められはしたが、現在マグリットの存在を無視した状態で、三人で話している。
『取り敢えず私は此処から去っても?』
『面倒だが仕方ない。』
マクシミリアンに気付かれると又止められる可能性があるので、気配を消して堂々とその場から移動する。
本当ジェシカ=ウェズリー男爵令嬢はいつ出会っても強かな女ーーーーー




