取り敢えずSランクがバレました
疲れたと、淑女らしからぬ大きな溜息が出てしまう。
流石にずっと学園内に居れる訳もなく、下校時刻を過ぎたところで帰るように促された。
家に帰ってからは、それはもう凄かった。
昨日だって帰った初日だ。当然大騒ぎになった。
しかし帰った頃には既に深夜と言っても良い時間で、疲れていたらと誰もが遠慮して、マグリットに詰め寄る事は出来なかったのだ。
朝は朝で誰しもがマグリットに説明を求めたが、どうしても学園へ通うと言う言葉に反論出来なかった。もし此処で駄目だと言ってしまうと、又居なくなってしまうのでは、と思ったのではと思われる。
学園へ行くのを許された変わりに、今日こそは絶対に話し合う事を了承させられた。
皇宮で働くマグリットの父であるカンバーラント公爵も仕事を早めに切り上げでもしたのかマグリットが帰る頃にはもう既に屋敷で待機していたし、母である公爵夫人も帰りそうな時間からソワソワと玄関付近を歩き回っていたらしい。兄である次期公爵に至っては迎えの馬車に一緒に乗っていた。
心配させたのは悪かったとは思うものの、後悔はカケラもしていない。
話し合いとはいえ、本当の事を話せる訳もなく。
どうしても市井の暮らしをしてみたかったとか、公爵領以外の領地にも行ってみたかったとか、何度も説明して無理矢理納得してもらった。きっと気持ちの中では納得していないが、マグリットがそれ以上話すことなどないと突っぱねた。
それでも無事で良かったと、心配してくれていたのは純粋に嬉しかった。
やはり話が長くなり日付が超える頃に、やっと自室で一人の時間となった。
もういきなり出ていかないという約束の元、護衛という名の監視は外してもらっている。
そうでもしないと四六時中監視の目に、晒されることになってしまう。
フレデリックにこんな時間に連絡しても大丈夫なのかと疑問に思うも、約束を反故にする方が不敬かと思い直す。
連絡を入れる前に、部屋に備え付けのお気に入りの紅茶を淹れ、ベッド横のサイドテーブルに置きベッドに腰掛ける。
念話の腕輪にそっと触れる。
『帝国の若き太陽、フレデリック殿下。
夜分遅く申し訳ございませんが、今大丈夫でしょうか?』
『あぁ、問題無い。』
やはり待っていたのか即座に返事がある。
『遅くなってしまい申し訳ありません。』
『いや、大丈夫だ。まだ執務も終わってはいないからな。』
その言葉にマグリットは眉間に皺を寄せてしまう。
『まだ働いていらっしゃるのですか?』
『まぁな。』
『不健全ですわね。』
『仕方あるまい。』
それよりも、と逆にフレデリックが不穏な雰囲気を出す。
『Sランクとはどういう事だ?』
辞めさす権利はフレデリックには無かろうと、問い詰める事はさせて貰う。
公爵令嬢が冒険者、というだけで論外なのだ。Sランクとなると一介の冒険者よりも、断然危険も多くなる。
『あら?もう報告が上がったのですね。』
バレるのはもう少し後だと思っていた。
マグリットがギルドマスターにしたお願いはというのは、新年度にSランク昇任を認定する事であった。
それより前であったなら、こうしてフレデリックに詰められると思ったから。バレるにしろギリギリが良いな、思った結果である。
『危険だとは思わないのか?』
『思わない訳ないじゃないですか。冒険者たる者、危険を承知でやっているのですから。』
やった事もないフレデリックより、当然わかっている。
過去に冒険者を始めた時なんかは死にかけた事だって一度や二度では無いし、怪我だって数知れない程やってきているのだ。
『辞めはしないのか?』
『そうですね。指名依頼も多い事ですし。』
全部は受けれませんが、と紅茶を飲みながら答える。
『指名依頼?君はたった一年程でそこまで有名になったのか?』
『なんだか、そうみたいですね。』
『君は、そんなに強かったんだな。』
俺は本当にマグリットの事を何も知らないんだと実感し、思わず呟いてしまうも、マグリットはいやいや、当たり前ですと首を振る。
『誰も知りませんから、当たり前です。』
『誰も知らない?騎士団を纏めている公爵家で訓練したから強くなった、とかではないのか?』
『違います。むしろ公爵家では魔法ひとつ、教えてはくれませんから。』
昔から訓練に参加出来るのは兄だけであったのを、マグリットはずっと気にしていた。参加したいと言ったところで女の子は危ないから駄目だよと、父も兄も、なんなら屋敷に出入りする騎士団の面子にも言われ続けた。
初めに冒険者になったのは、そんな反発もあったのかもしれない。
『そんな環境にも関わらず、辞める気は無いんだな?』
『はい、そうですね。
ギルドマスターにも頼まれましたし。』
マグリットは気に入った者に対しては、基本的に優しいのだ。
『出来れば怪我はしないように。
後はこちらに支障が出ない程度で、お願いしたい。』
思ったよりも反対されなかった事に、マグリットは機嫌が上昇する。
『怪我に関しては善処致します。
支障が出るのも冠履顛倒ですから無理はしないつもりです?」
思わず疑問系になってしまう。
確かに支障が出るのはマグリットとて本意では無いものの、何事にも予測不可能の事も起こり得る。
『つもり、というのは気になるが。
Sランクはいくらなんでも予想外ではあったが、ギルド員であるのは止めるつもりもなかったしな。
今後どうなるかはわからないが、君はまだ一応公爵令嬢ということだけは忘れないでくれ。
この件についてはこれで終着点としよう。』




