取り敢えず二年生です
久しぶりの制服に身を包み、学園の前に立つ。
元々が公爵令嬢。しかも学園に通わず行方不明だったのは知れ渡っている。
つまりはマグリットを見た者全てが驚き、遠巻きにしながらも近くの者と浮評に花を咲かしている。
しかしそこはマグリット。露ほども気にしていない。
今日から二年となり学園へ復帰する。
正直冒険者として過ごした日々が、既に懐かしい。
とは言え、公爵家に帰ったのは昨日の晩である。
ギリギリ過ぎた事もあり、公爵家一同には学園へ行くのは止められた。
皇室への報告が!とか、そもそも私達にも説明を!とか、やはり婚約は嫌なのか!とか、それはもう色んな事を言われた。
こうなる事がわかってもいたが、ギリギリに帰ってしまった。本当なら余裕を持って帰り何かしらの説明をするべきだったのだろうが、ちょっと現実逃避のような感情になり、帰りたくなかった為、ギリギリになってしまった。
しかし学園に通えなくなるのは本末転倒。皆んなを説得してこうして学園へとやってきた。
Sクラスは皇族と高位貴族、Aクラスは中位貴族、Cクラスは下位貴族と少しの平民となる。
Sクラス以外になる事がないので例え一年を殆ど通っていなくてもクラスが替わることは無い。
何度も通った場所だ。間違える事なくクラスへと向かう。
しかしクラス替えが無いということは。
「お前は!!」
教室に入った瞬間マクシミリアンに叫ばれる。
「今まで何処に!」
違和感がある程の反応である。今までのマクシミリアンであればこんな少しでも心配するような雰囲気さえも無かったと思う。
マグリットはそれに対し返事をせずに、優雅にカーテシーを披露し、「帝国の若き太陽、マクシミリアン皇太子殿下にお目に掛かります。」とだけ伝えて、席に座る。
マクシミリアンの心配した様な雰囲気が、建前であれ本音であれマグリットは気にもならない。
席に着いたと同時に、再度人が教室へと入ってくる。
その人物はクラス全体を一通り眺め、珍しく感情が露わになっている。
「カンバーラント公爵令嬢!」
『マグリット!!!!』
口では普通の声量だったにも関わらず、念話での声は頭を破壊する気かと思う程であった。
思わずマグリットは頭を抱えてしまう。
入ってきた人物はマクシミリアンの兄であり第一皇子で、マグリットの協力者であるフレデリックであった。
協力関係にあるフレデリックにさえ、いつ帰るかは伝えていなかった。
どうやらこのSクラスの担任となるらしい。
今まではフレデリックが居なかったからこそ別の人物だったが、その時の担任は不憫だな、と感じていた。
今まではマクシミリアンが問題を起こしたとしても、注意出来る者が居なかった。だからこそ学園でもマクシミリアンの独断場であった。
マグリットは今世では一年生の時は学園に通っていなくて知らないが、問題を起こすたびに毎回のように止めていたのはフレデリックである。
つまりマクシミリアンへのストッパーとして、担任にさせられたのだ。フレデリックも断る事はしない。フレデリックにとっても、担任となる事は渡に船なのだから。
新学期初日は授業もない為早く終わる。
しかし此処にきて、ギリギリに帰ってきたツケが回ってくる。
家出した理由の説明、フレデリックにも報告と今後どうするかの確認、学園側にも説明しなければいけないかもしれない。そして皇帝陛下からも呼び出しが掛かるだろう事は明らかで、もう少し早く帰ってくるべきだったのだが、どうしてもそんな気になれなかった。
そう、マグリットは現実逃避をしてしまった。
放課後だが帰りたくない為、ブラブラと学内を歩き回る。
教室に居るとマクシミリアンに絡まれそうだったので、回避したくて教室から出たものの、特に目的があった訳でも無い。
やはりここは時間ギリギリまで図書館かな、と思いそっち方面に向かって歩く。
しかし図書館に着く前に、たまたまフレデリックと廊下で出会う。
ピタリと二人とも向かい合ったまま、ピタリと立ち止まってしまう。
「「・・・・・・・・・・・・」」
連絡しなかったのはお互い様。
それでもマグリットは帰ってきた事くらい言うべきだったかな?とは感じている。
「今は取り敢えず、担任として話がある。」
「はい。」
学園側にも報告する必要があるのはわかっているため、そこは素直に頷く。面倒だがひとつずつ片付けなければいけないのだ。
「座っててくれて構わない。」
場所を移し職員室に備え付けてある小部屋へと案内されソファーへと座る。
教師と生徒だろうが、貴族として男女二人にする訳にもいかない為、職員室が近いこういった場所が用意されている。
失礼します、とマグリットはソファーへと腰を下ろす。
向かいのソファーにフレデリックも座りチリンと鈴を鳴らすと、すぐ様部屋に一人の男が入ってくる。
「すまない、飲み物を。」
フレデリックがそう言うと、礼をしてお茶の用意をする為に部屋を出て行く。
流石は教師さえも貴族が多いだけある。こういった雑用を引き受ける従僕が学園で雇われているのだ。
「学園関係者として取り敢えず話を聞く、という体裁はいるんだが・・・・・・そちらは俺から適当に話をさせてもらう。だがおそらく皇帝陛下はそうはいかないと思っておいてくれ。」
「はい、わかっております。」
先程出て行った従僕がお茶を用意して行く。
ここで黙り込むのも不自然で「カンバーラント公爵には何か話をしたのか?」と聞かれても問題無さそうな事を話す。
「まだ説明はしておりません。」
まるで反省しているかのように、顔を見られないように下を向く。
従僕は一瞬マグリットを見るも、いつまでも部屋には居られない。名残惜しそうにしながらも出て行く。
それを横目で見ながら「注目の的だな。」なんてフレデリックに言われてしまう。
「気にもなりませんので、お気になさらず。」
顔を上げて本当に気にしていないようでフフフと笑う。
「正直君の行方不明に関しては、俺にも責任がある。
皇帝陛下に上手く説明出来れば良いんだが。」
フルフルと頭を横に振る。
「仕方ありませんわ。皇帝陛下から呼び出しがあれば皇宮にお伺い致します。」
「公爵には?」
「帰ったのが昨日の夜だったので、休みたいと言ってそのまま休ませてもらいました。」
冷めてしまう前に出されたお茶を飲む。毒味も兼ねているので飲んだ後フレデリックにも勧める。
「昨日の夜に帰った?そんなにもギリギリでよく今日来れたな。 反対されたのでは?公爵家も君の事を大事にしているようだし。」
「そうですね。でも休む訳にもいかないではありませんか?」
「いや、早く帰れば良かったではないか。」
思わず眉間に皺が寄る。
その表情を見たフレデリックが「そこまで嫌だったのか?」と小さく呟く。
「貴族社会も嫌いではありません。両親や兄も好きですし。
それでも外の世界は私には悪くない環境ですので。
家出した理由を説明して回るのも正直手間ですし。」
何よりも説明が面倒で、それさえなければ早く帰ったって良かったのだ。
「余り此処で長く話す訳にもいかないな。
今日の夜時間は取れるか?」
報告がある分。長くなるからこそ聴いてくれたんだろう。
いつもは問答無用で連絡するくせに、とチラッと思うもそれを言ったりはしない。
「どうでしょう。お父様達がどうなさるかによるので。」
昨日は疲れたと休ませたかもしれないが、確かに一年近く最愛の娘が連絡も取れず、捜索隊さえ見つけられず、行方不明扱いされていたのだ。
本当によく説明もせずに、学園へと来れたものだと思う。
「急ぎ報告を聞きたいところではあるが・・・・・・」
「確かにそうですわね。遅くなっても宜しければ時間を作ります。」
「ならそれでお願いしたい。」
話は終わりだとマグリットは立ち上がり、カーテシーをして部屋を出て行く。
それを見つめながら淹れてもらいはしたが、飲まずに冷めてしまったお茶を飲む。
「皇帝陛下にどう説明するつもりなんだろうなぁ。」




