取り敢えず残り一ヶ月です ①
この世界にはダンジョンと呼ばれるものがある。
そこには当然のように魔獣や魔物も徘徊し、奥へ進めば進むほどその強さは計り知れない。
しかしそれを踏破出来る者は殆ど居ない。
マグリットのように転移や空間魔法を使える訳でも無い冒険者達は、自らの足でそこまで行き、その上日々消費される食料も必要で、上手くいけば現地調達で少し食事が豪華になる事もあるだろうが、それもただ焼いただけの処理も不十分な肉であったりもする。
つまり長期になれば成る程、依頼達成の頻度も下がる。
怪我などで腐敗した場所は、満足な治療が出来ないまま最終的に切り落とされたりする事もあるし、長期の食事の偏りは死へと誘う事さえもある。
冒険者だってバカじゃない。それに備えて準備もするが未開の地へ向かうほど街も村さえも無くなっていき、食糧の備蓄が心許ない物となってしまう。
だからこそ空間魔法を使える魔法使いは、魔力の扱いが上手く強力な戦力になるだけでなく、備品の持ち運びだけでも大変役に立つ。
総じて高ランカーが多いのも自然な事である。
それでも備品を持てる量は際限なくという訳にもいかない。
入る量は魔力量に比例する。
つまりは浅いダンジョンなら兎も角、深いダンジョンともなれば誰もが踏破出来ていないのは当然の事であった。
浅い階数であれば、人が荒らした形跡もあるが、深くなれば成る程、誰も入った事が無いのは一目瞭然で。
マグリットが今居るダンジョンもそういった場所である。
過去全てにおいてマグリットはダンジョンというものに余り興味はなかった。
だからこそ何度か冒険者になった過去はあれど、ダンジョンに入るのは初めてであった。
ーーーーーーーー
事の起こりはやはりギルドマスター。
うっかりマグリットが口を滑らせてしまったのが原因だ。
「もう一度言ってみろ。」
又々呼び出されたギルドマスター室でお茶を飲みながら、マグリットはポツリと言った。いや、言ってしまった。
聞こえていなければと期待するも、ギルドマスターの様子からもそれは裏切られているのがよくわかる。
「だから、わたしはもうすぐギルドを辞めると言ったのです。」
諦めて両手を上げて素直に言うと、それを聞いたギルドマスターが立ち上がり詰め寄ってくる。
「何故だ!!!」
「個人的な理由からです。」
「嫌だ!」
嫌だって言ったところで、とはいえそれもそうだろう。マグリットへの依頼はかなり多い。
それを本人が辞めると言ってるからと、素直に引き下げる訳にはいかない。
マグリット本人もここまで依頼が増えるとは思っていなかった。
Sランクであればまだしも、Aランクにはそこまで指名依頼は入らない筈であった。だからこそAランクくらいになっても大丈夫かな?と思った上でなったのだから。
「嫌と言われてもこまめな依頼遂行も出来なくなりますし。」
「それでも構わない!お願いだから辞めないでくれ。」
両手で肩を掴まれてガクガク揺さ振られる。
不快なのですぐさま肩なね乗っている手を、無理矢理引き剥がす。
「そうは言われましても・・・・・・」
「お前のあの移動するやつがあれば、今までやっていた位とは言わないが、少し位依頼遂行する事も出来るだろう??」
「移動するやつ、って・・・転移魔法の事ですか?」
「それだよそれ!!
お願いだから辞めるなんて言わないでくれ。」
此処まで引き留められとは思ってもみなかった。
今までだって高ランカーが辞める事だってあっただろうし、その対処だってわかっているだろう。
「ん〜〜〜」
少し考えてみる。
まぁ、別に無理に辞める必要も無いのかな?と。
此処まで求められるのはやはり悪い気はしないし、それに定期的に暴れるのは良いストレス発散になるのではないかとも思う。
ギルドの依頼自体は嫌いな訳でもないし。
考えている間にもギルドマスターはお願いだからと、まるで平伏でもしそうな程に床の上で項垂れている。
「今まで以上には依頼はしませんよ?」
ガバッと音が鳴る勢いで床から顔を上げる。
「それで構わない!!
それでひとつやって貰いたい事があるんだが・・・・・・」
ーーーーーーー
何故要望を受け入れた側のマグリットが、更にお願い事をされるのかと疑問にも思うも、やはり気に入った人だからなのか拒否する事はしなかった。
「Sランクになってくれ、ねぇ。」
一人ダンジョンの入り口に立って中を覗き込む。
「Sランクになれば、権力も上がる!
今現状のランクならギルドマスターの命令に逆らう事は出来ないかもしれないが、Sランクになれば同等の権限がある。
だからこそ依頼を定期的に受けなくてよくなるし、好きに動く事も可能になる!」
そんな甘言に騙された訳では無いが、拒否し続けてしつこいくらいに勧誘され続けるのは面倒だったのも、理由のひとつかもしれない。
こちら側も条件は付けさせて貰ったし。
「素性を明かす気はありません。」
それを言うとギルドマスターはかなり悩んだが、それでも頷いてくれた。
それでいけると言う事は、おそらくメリアの街のこのギルドマスター、かなりの権限があるとみた。
つまりはSランク昇格試験としてこのダンジョンの淘汰をお願いされたのだが。
場所は帝国の国境ギリギリの森の中にあり、一番近い街でも此処から馬車で一日程の距離がある。
他の踏破されていないダンジョンに比べると街は近く、比較的万全の体制で挑むことが出来る。それなのに踏破されていないと言う事は、他に難しい理由があるのであろう。
「深いのかしら?
それとも純粋にSランク級の魔物でもいるのかしら?
余りダンジョンは好きではないのだけれど。」
ひとりごちながらも躊躇いもなく入り口に侵入する。
このダンジョンは上へと向かうものではなく、下へ下へと続くもものである。
だからこそ地下何階まであるかわからない。
初めのうちはすでに荒らされた様子の階数も多かったが、地下五階、十階と進むうちに人が荒らした形跡は無くなっていく。
マグリットは魔物を全滅させることよりも、早く進む事を優先する。
それでもどうしても避ける事の出来ない魔物を倒し、各階にいるボスを倒し、そして証拠になる部分を剥ぎ取っていく。
それだけでもやはり時間は掛かる。
どのくらい経ったのか、走り続けた事もあり汗だくで一度立ち止まる。
かなり広いし、深い。現状終わりがわからない。
マグリットの足元にはひとつ目の巨人、サイクロプスが三体転がっている。周りは争った形跡で荒れているが、マグリットには大きな怪我は無い。
しかし流石に地下三十階分を駆け抜けただけあり、疲れもみえてくる。
一度転移で戻って休む事もマグリットなら可能だが、時間も掛けたくない。少し休んでから再開しようと思い、空間魔法から冒険者らしくこう言う場で食べる硬いパンと干し肉を取り出して齧る。
座って休むのも良いが、少し急いたのもあり周りを見る事さえもしなかった為、少しだけ見て回ることにする。
夜目も効くため余り気にはならなかったが、至る所に岩肌の隙間に淡く弱いながらも小さく光る苔が生えている。
これならば他の冒険者が来る事があったとしても、問題無さそうである。
ダンジョンは誰がどう言う意味で作ったのかわかっていない。
最下層、最上階などのダンジョンの最深部では必ず秘宝があるとされており、ダンジョンの難易度によって秘宝も希少な物である場合が殆ど。
だからこそダンジョン攻略を目標としている冒険者は、かなり多くいる。
秘宝ひとつでも、莫大な財となるからだ。
研究者からの立場であってもダンジョンがどうやって出来たかの経緯を研究している者も多く、過去に最深部でその資料が見つかった事もあるらしい。
やはり中層であるこの場所には特に何かあるような様子は無い。
水を飲んでから、先程倒したサイクロプスの採取をして、そのまま次の部屋へと向かうため階段を降りる。
やはり少しずつ敵も強くなる為、一階に掛かる時間が長くなってくる。必要最低限しか戦ってはいないが向こうはマグリットを見逃してくれる訳ではないのだ。
それでも四十階まで到達すると、流石に疲れてその場に座り込む。
「はぁぁぁぁぁ。
こういう依頼は一人でするものでは無いわね。」
それはそうだろう。
ダンジョン攻略は一人でやるには過酷過ぎる。ギルドマスターもなかなか鬼畜なお願いをしたもんだ。
ギルドマスター的には転移で行ったり来たりしながら何日も掛けてやるものだと思っている為、そこまで酷い事を言ったつもりはない。
しかしマグリットはそれを気付きながらも、無視して他の冒険者と同じように踏破しようとしている。
しかし流石に魔力もかなり減ってしまった。
ドライフルーツとクッキーを食べながら、ここで休むのもアリかな、なんて考える。
腰に付けている懐中時計を開くと野営の準備をするのさえ遅い時間となっていた。
「まさかここまで深いとは思わなかったわ。
お風呂入りたかったけど仕方ないわね。」
指をパチンとならすと、マグリットの周りがキラキラと光る。浄化魔法である。
綺麗にはなるが、お風呂に入った時のような疲れが取れる感覚は全く無いので、マグリットはこれは余り好きではない。が、清潔にしておくのも必要な事と割り切る。
空間魔法からテントを取り出し慣れた様子で設置すると、その周りに棒を挿していく。
これは魔道具で簡易的な結界を張ってくれる。強過ぎる魔物には余り効果は無いが、弱い魔物であれば近づいてはこない。
冒険者には必須のアイテムだ。
先程ドライフルーツとクッキーは食べたが、それだけでは体力も魔力も回復しない。
火を魔法で起こし鍋とまな板、包丁を取り出す。
念の為それらにも浄化魔法を掛ける。
それから野菜に鳥型魔獣の肉と骨も空間魔法から出す。
まずは鳥型魔獣の骨と水を鍋に入れ、弱めの火の場所でコトコトと出汁を取る。
そうしている間に玉葱人参キャベツに大根を賽の目に切り、お肉も一口大に切る。
出汁が取れたようなので骨を取り出し、出汁の中に野菜もお肉もそのまま入れる。先に炒めても美味しいが、炒めずに初めから煮ても大根が良い味になり、これはこれで優しい味わいで美味しいのだ。
スープを煮ている間に硬いパンを切り、火で炙りその上にチーズを乗せる。もう一品とも考えるが、早めに寝たいのもあり今日はこの二つで我慢する。
張り詰めていたから気付かなかったが、お腹が空いていたようであっという間に食べ切ってしまう。
足りなかったかな、とも思うも明日の朝も食べるしとそのまま寝る準備を進めテントの中で寝転ぶ。
こうして外で寝るのは本当に久しぶり。
転移魔法を覚えてからはやらなくなった事のひとつだ。
いつ魔物が襲ってくるかもわからない場所ではあるが、少し物懐かしさを感じる。
「明日には終われば良いのだけれど・・・・・・」
此処まで読んでくださってありがとうございます。
少し長くなったので二つにわけてます。




