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取り敢えず残り三ヶ月です

 

 Aランクになってからは受ける依頼の自由度は上がったが、逆に指名依頼が少し入ってくる様になってしまい、不自由なところも出てきた。

 それでも読みたい本を買う方が重要だったからこそAランクになったのは間違いないが、少しばかりそういった依頼が多いような気がする。


 Aランクだって充分凄いが、世にはSランクというのも存在している訳で、そちらに指名依頼が集中しているのが普通なのだ。

 例え依頼料が高くとも。


 そもそも指名依頼なんて出せるような人物が、わざわざAランクに頼むよりSランクに頼む方が圧倒的に多い。


 にも関わらず、何故か指名依頼が多いような気がするのは何故なのか。


 基本的にはフード付きのローブを羽織りそれを被っている為、依頼中顔は見せてはいない。

 高位貴族の中には顔を見せないとは不敬だと喚く人なんかも居るが、冒険者で顔を隠しているのは案外珍しくは無いので、無理矢理顔を見せろと言ってくる者は比較的少ない。


 それでも立場上、あまり貴族からの依頼は受けたくないのに何故か指名依頼が多い。貴族以外からの指名依頼が無いわけではないが。

 辛うじてAランクという立場のおかげか、侯爵や公爵、皇族なんかの依頼が無いのが救いである。


 公爵令嬢ではあったが、知り合い程度であれば冒険者の格好でフードなんか被っていれば正体に気付かれる事はまず無い。

 公爵令嬢が冒険者なんてしない!という先入観も大いにあるのであろう。



 ーーーーーーーー



 ギルドマスターに呼ばれて部屋まで来た後、受付の子が紅茶を出し退室後、すぐに本題に入る。

「また指名依頼ですか?」

 断る事も場合によっては出来ない事は無いが、何度も使える手ではない。仕事が無くなるのは本末転倒である。


「やりたくないのは知っているが・・・」

 そう言葉を濁すも、確実に受けろと言っているのがわかる。


「指名依頼多くないですか?」

 渡された依頼書を受け取りながら顔を顰めてしまう。


「そりゃそうだろ。」

 ん?と思わずマグリットはギルドマスターを見る。

「そこまで、ですか?」

「そこまでだろ。」


 あまりやり過ぎないようにと気を付けてはいたが、ダメだったらしい。

「余り頻繁に依頼を受けている訳では無いのですが。」

「そりゃ、お前の感覚で、だろ?」

 マグリットは依頼を一度終わらすと数日は確実に仕事しない。依頼の数を熟せば目立つし、一度の依頼料が多い事もあって、わざわざ多くの依頼を受ける必要が無いからだ。


「私の感覚??」

 むしろマグリット的にはかなり休んでいる。


「お前は転移魔法があるからそういう感覚になるんだろうが、普通は一つの依頼に何日も、何週間も掛かるのが当たり前なんだぞ。

 それを依頼を受けてから一日で達成して帰ってくるんだ。

 否が応でも名は上がる。」

 ギルドマスターは呆れた様な溜息をこぼしながら、もう冷めてしまった紅茶を飲むと立ち上がり書類が置いてある棚に向かう。

「それは、そうかもしれませんが・・・」


 棚の中から一つのファイルを取り出してそれをマグリットへと渡す。

「???」

 見ても?と視線で問い掛けると頷きが返ってくる。


 パラパラと捲るとそれは多くの依頼書であった。

「え〜〜〜」

 なんと言っていいのかわからない。思わず間延びした言葉が出る。



「だからこれでもお前まで声が掛かる依頼は厳選されてんだ。」

 依頼達成まで早いのも勿論理由の一つだが、素材を持ち帰る事に関しても余す事なく持って帰ってくる事も噂になっている様で、それもありマグリットへの指名依頼はAランクとしては異例な程多い。


「私が居なくなったらどうするんですか。」

 ポツリと頬杖をつきながら呟くと、ギルドマスターが凄い顔で迫ってくる。

「居なくなるのか!?」

 ガチャンと紅茶の入ったカップが揺れる。


「ギルドに登録に来たのはあくまで当面の生活費の為ですから、もともとずっと居るつもりはありません。」

 溢れなかった紅茶にホッとして、マグリットが紅茶を飲み干す。


「Sランク打診の話だってあるんだぞ!!」

「今のところなりたくありません。」

「こんな短期間でなれるなんて、Sランク昇格最短記録として名も残るんだぞ!!」

「名を残す事に全く興味ありません。むしろ名をあげる事を避けたいくらいです。」

「金も稼げるぞ!!」

「それこそ必要ありません。」

 どうしてもギルド所属として引き留めたいギルドマスターは説得しようとするも言っても無駄なんだろうな、とは感じている。



 ギルドは基本的に誰でも登録する事が可能である。しかしBランク以上ともなればランク昇格に対して審査がある。

 人柄だけでなく、素性も調べられたりもする。

 しかしそれは実は言うと必ずでは無い。


 登録して実力があればAランクくらいまでなら上がったりする場合もある。人柄、素性を確認するのはギルド登録では無く、ギルドに所属という扱いに変わる場合にそういった確認がされる。ギルド所属の人物がどうしようも無い人物だった場合ギルドの信用問題になるからだ。

 つまり現状Aランクにはなったが、マグリットは素性を確認された事が無いギルド登録者という扱いである。

 ただしSランクからはそうではない。ギルド所属は絶対となる。


 つまりギルドマスターはマグリットにSランクとなりギルド所属としてずっと居て欲しいと思っている事になる。

 しかし今まで接してきた中でマグリットがギルド所属を良しとするようには思えなかったのでダメ元、というより言ってみただけのようになってしまった。


 素性は兎も角、人柄に関しては問題無いだろうし、実力は申し分無いとギルドマスターは感じている。だからこそギルドマスターとしてマグリットは離したくない逸材なのである。


 しかしながら引き留めることが出来る手札もギルド側には無い。


 無理なのかと項垂れるも良い案が思い付く訳もない。


 仕方ないのかとマグリットを見ると、殆ど笑う事のなかったマグリットがギルドマスターに向かって微笑んでいる。

 悪い事をしている訳でも無いのにビクッと身体が強張り、マグリットを凝視してしまう。


「ギルドマスター。貴方が思っている以上に私、貴方の事が好きですよ。」

 フフフと笑って依頼書を何枚かピックアップしたものを持って部屋を出て行く。


 ギルドマスターは手の甲を口に当てて、顔を真っ赤にしながらその場にしゃがみ込んでしまう。



「ありゃ、反則だろ・・・・・・」




 ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢が入学してくるまで後約三ヶ月ーーーー





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