〜sideフレデリック 残り四ヶ月
「それで?いつになったらマグリット嬢は見つけられるのだ?」
そこは皇宮の中でも一際豪華絢爛の場所。
謁見の間。
そこの玉座に座り肘を肘置きに乗せながら、頬杖を付いて見下ろしてくるこの方こそが、この帝国を治める皇帝陛下である。
つまりはフレデリックとマクシミリアンの父である。
長い金髪を後ろで一つに結び、瞳はキリッとした赤眼。
髪はマクシミリアンに、瞳はフレデリックに遺伝したようで、二人によく似ている。
若いというのもあるが、二人の父親というだけあって見目麗しく昔は、というより今でも御令嬢達には大人気である。しかもそれは貴族だけに止まらず、市井で暮らす平民の女の子達からも良くキャーキャーと言われており、皇帝陛下よ姿絵等は今でも良く売れるそうだ。
そんな皇帝陛下に問いかけられたフレデリックは、相変わらずの皇子様然とした表情を貼り付けながら跪いている。
「申し訳、ございません。」
そう言いながらもフレデリックは探す気は無い。
それでも皇帝陛下には探しているフリをする。というか、周りは本気で探している。
下知しない訳にはいかなかった為、捜索隊は結成されマグリットは大勢の者達に行方を探されているが、全くもって誰も手掛かりさえ持ってはこない。
そりゃそうだろうな、と感じる。
何処の貴族令嬢が冒険者なんてやれると思うのか。
上がってくる報告を聞く限り、全くの見当違いの報告ばかりで安心している。
しかしフレデリックはそれをカケラも誰にも気付かれてはいけない。目の前の皇帝陛下であろうとも。
「本当に、無事であろうな?」
王の威厳か、凄みがあり何でも言ってしまう様な威圧がある。
「・・・・・・・・・」
しかしフレデリックもそれくらいでは口を割る訳にもいかず、かと言ってここで下手な事を言う訳にもいか無い為、無言になってしまう。
無事かどうかは正直わからないが、生きているのは間違い無い。しかしそれを伝える訳にはいかない。
フレデリックはこれに関しては、マグリットも悪いと思っている。
確かに家を出る際に手紙を置いて来たと、マグリットは言っていた。
言っていたが、あれを手紙と言うには無理がある。
何処かの紙を千切った様な小さな用紙にひと言。
「旅に出ます。」
それだけなのである。
そりゃ大騒ぎになるに決まっている。事情を知っているフレデリックでさえ、居なくなった当日に慌てる事は当然のことであった。
皇帝陛下は大袈裟に溜息を吐くも、フレデリックは身じろぎせずに頭を下げたままである。
本当なら皇帝陛下に対して嘘偽りは有り得ない。それが実の息子の皇子であろうとも。
皇帝陛下の言葉は絶対。バレれば不敬として捕まり場合によっては処刑だって有り得るのだ。
「絶対に、何がなんでも見つけ出せ。」
「承知致しました。」
息子といえど毎日皇帝陛下と会っている訳では無い。
マグリットに言われてから、皇帝陛下に会うたびに体調が問題無いかと確認している。
ジェシカが現れてからの方が怪しいが、今から様子見していても遅くはないであろう。
皇帝陛下が少しずつ弱っていって亡くなるという事は、そこに誰かしらの意図が隠されているのなら毒か。
おそらくはバレない様にかなり早い内から少しずつ少しずつ盛られて居たのではと、考えられる。
つまりは定期的にそうする事が出来る人物が近くに居ると言う事。疑問に思ってから皇族に毒を盛れそうな立ち位置に居る人物達を全て洗い直したが、現状では不審な点は見受けられなかった。
皇帝陛下に理由を言えば、なんとかなるかもしれない。
だがしかし、何度も世界をやり直しているなんて事を誰が、おいそれと信じてくれると言うのか。
溜息を吐きたいのを我慢する。皇帝陛下の目の前だ。
いくら父親といえど此処はプライベートな場所では無く、謁見の間である。此処では父と子ではなく皇帝陛下と臣下だ。
「フレデリック。」
名前を呼ばれただけで何の用事かわかる。
「はい、陛下。」
顔を上げないまま視線を逸らし続ける。
「いつになれば婚約者を決めるつもりだ?」
やはり又この話か、と思う。
正直聞き飽きるほど、何度も問い掛けられた話だ。
「何度聞かれても変わりません。
私は臣籍降下する身。しかし私はまだ皇族。
そんな立場で誰かを娶り子が出来た場合、それはいずれ私の意図せぬ所で火種となる事もありましょう。
それは私の臨む所ではございません。」
「皇帝陛下になりたいとは思わないのか?」
その言葉にフレデリックは驚き、思わず顔を上げ皇帝陛下の表情を伺うも、何を考えているのかはわからない。
今までこの様な事は過去、やり直し全てに置いて聞かれた事は無かった。
「滅相もございません。」
驚いたがフレデリックの答えは変わらない。
なりたく無いからこそ苦労しているのだ。
「何故そこまで否定する?」
「陛下こそ何故その様な事を仰られるのか。帝国法で決まっている事ではありませんか。」
フレデリックにとって、マクシミリアンが皇帝陛下になると帝国法で決まっているのが最大の援護である。
「・・・・・・・・・もうよい。」
諦めた顔で追い払うように手を振られる。
申し訳ございませんと言うのも何だか違う気がして、立ち上がり右手を左胸に当て礼をし、謁見の間を辞する。
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「皇帝陛下、ね。」
何が良いのかわからない。あんな窮屈そうな場所。
今でさえ窮屈で、もう充分だというのに。
マクシミリアンとも争いたくは無い。マクシミリアンは皇帝陛下になる事に固執している。それを押し退けてやりたい訳でも無い。
でも、とも思う。
マクシミリアンが皇帝陛下となって滅ぶ道以外有り得ないのであれば、もしかしたらそう言う道を選ぶのかもしれない。
そう思わないでもないが、それは今更ながら勝手な考えだな、と思い返す。何度もやり直して、やっぱり皇帝陛下になっても良いかな、なんて言えやしない。
相変わらずマグリットからの連絡は無い。
「君は今何をしているんだろうね。」
ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢が入学してくるまで後約四ヶ月ーーーー




