取り敢えず合格です
あれからドラゴンは空間魔法に仕舞い、直ぐ様メリアの街に戻る。
転移魔法があるからこそ移動に殆ど時間は掛からないが、中々の辺境にあるだけあって普通に冒険者として馬車や歩きで向かったとしたら一週間は掛かる距離である。
報告の為ギルドに入ると、パチっと受付嬢と目が合う。
すると仕事で座っていたカウンターからガバッと音がなりそうな勢いで立ち上がり、バタバタギルドマスターが居るであろう場所へと走っていく。
「????」
そんなに急がなくても、とも思うが用事が早く済むのは助かるので敢えて言及はしない。
直ぐに受付嬢は戻ってきてマグリットを上へと案内してくれる。
何故こんな扱いなのかはわからないが、考えたってわからないものはわからないので、気にしない事にする。
ノックをすると直ぐに返事があり、中へと誘われる。
「んで?何の用だ?
まだ依頼には向かってなかったのか?」
忙しいのか書類から目を離さず、マグリットへと問い掛ける。
「終わりました。」
その言葉に書類を見て何かを書いていた手がピタリと止まる。
少し待ってみるも動かない。
何か言うべきか逡巡するも、先にギルドマスターの方が動く。
「はぁ。」
何とも気の抜けた答えだ。いや、これは疑問形なのだろうか。
どう返事をしたら良いのかわからず、今度はマグリットが黙ってしまう。
「終わった?終わった??
ちょっと何が終わったかわからん。」
混乱が伝わってくるのが、少し面白くマグリットは思わずクスクスと笑ってしまう。
「いやいやいや、笑ってる場合じゃない。
報告が足りん!
出掛ける前の準備が終わった報告か?
ってかただ出掛ける前の報告なんかしてくるか??」
「わざわざそのような報告は致しません。」
そこまで親しい間柄ではない。
むしろ親しくても一緒に旅をする訳でもあるまいに、そんな事は言う必要は無い。
「言葉が足りん!
何が終わったんだ!!」
そう言うと目の前の執務机をバンバン叩く。
正直ギルドマスターは何が終わったか、本当はわかってるんじゃないかと思う。
が、ここはちゃんと報告する義務もある訳で、空間魔法に入れておいた逆鱗を取り出してギルドマスターの机の上に置く。
「・・・・・・・・・・・・」
ギルドマスターは机に置かれた逆鱗に対して何も言わず、言えず(?)ただ眺めている。
転移魔法を使える事も知っているのにそこまで驚かなくても、とは思うが転移魔法が他の人も使えた過去のやり直しの世界ではないだけに、衝撃は凄いのかもしれない。
その時も転移魔法を新しい魔法として発表した時には、魔法を使う職業の者達に激震が走ったのは強く印象に残る出来事であった。
特に貴族や冒険者、騎士等の帝都の外にも用事がある人物達にはこぞって歓迎されたものだ。
はぁ、と何の溜息かは不明だがギルドマスターが動き出した。
落ち着く為か、いつ淹れたかもわからない、冷めてそうな紅茶を一口。
「それで?素材はこれだけか?」
何だか色々飲み込んだ様な雰囲気で依頼の具合を聞いてくる。
「いえ、まだありますが・・・
ここで血みどろのドラゴンを出す訳にもいかないと思いまして。」
「血みどろ・・・・・・」
「はい、ドラゴンは捨てる所が殆ど無いと聞いた事がありまして。
血も要るんですよね?」
コテンと首を傾げる。
確か血もドラゴンの種族、幼体成体、住んでる場所の違い等で使い道も変わるが、薬用、魔法薬、研究や果ては錬金術にまで幅広く使える。
しかし中々ドラゴンの血と言うのは手に入らない。
身体に傷を付けていくだけで血は流れていくし、血液凝固も進んでしまう。
その点、空間魔法の中は時が止まったかのようにありのままを保存してくれる。
ドラゴンの身体にしても保存が殆ど効かないドラゴンの肉を食べれるのはその場で倒した冒険者か、どうにかこうにかして手に入れた者だけである。
外皮に関しては人数がいれば運べるので、それだけで充分な成果である。
ただしパーティーの人数が増えれば増える程、自身の取り分が少なくなるので大人数でのパーティーはあまり居ない。
三人から五人位がパーティーとしての平均であろうか。
しかしそれだけだと、馬車でも無い限り然程素材も持ち帰れないので、やはりドラゴンや他の大型希少魔物は総じて貴重となる。
今回マグリットが倒したのは小型のドラゴン。
それでも素材はドラゴンというだけで充分貴重である。
「要るが血もあるのか?」
「はい。むしろ全身あります。」
小型とはいえドラゴンである。
マグリットの倍はあるサイズだったのだが。
「何処に?」
「空間魔法に。」
何を分かり切った事を聞くのかと胡乱げな顔でギルドマスターを見てしまう。
「お前の空間魔法はそんなにも広いのか。」
空間魔法は、使える者が殆ど居ない程の難易度の魔法である。
しかも適性があるかどうかにもよる。
その上、空間魔法は魔力量によっても保管出来る量も変わるのだ。
空間魔法を使えてもあまり量は持ち運べないのが、一般的である。
「血抜きせずに持って来ていますので、出したその場から血は垂れ流しになりますが。」
「本当お前って規格外だな。
AじゃなくてSになれば?」
実は今回の依頼はAランク昇任試験であった。
「いえいえこんな新参者には、Aランクでさえも過ぎたるものでございます。」
実力はあれど、本音を言うとSランクになった時の義務は勘弁願いたい。
Sランクともなれば貴族との付き合いが大幅に増える。
社交界にも出ないといけなかったりで、顔見知りに会ってしまう確率がぐんと上がる。
今はそれでは困るのだ。
それに貴族の依頼ばかり受けるのも嫌。
緊急性のある者なら誰からの依頼でも良いのだが、今回の依頼の様に必要性の無い依頼はあまり好きでは無い。
本を買う程の稼ぎがあり、貴族との付き合いも少ないAランク位が丁度良い。




