取り敢えず戻ります
あれから同じ人物が何度か屋敷に出入りしているのを全て確認した。
そして会話も全て聞いて記録もした。
これで此処での用事は終わりだ。
この時点で家を出て半年程経っていた。
(ギルドランク上げてみようかしら?)
刀を実践で使いこなせる程依頼は今まで受けれなかった。
目立たずに過ごす必要が取り敢えず無くなったので、此処からは自由だ。
しかし然程高ランクの依頼が入ってくる訳でも無いこのウェルズリー男爵領に居るのはあまりにも効率が悪い。
(何処に行こうかしら?)
あまり帝都から離れ過ぎも依頼の偏りがあり、ランクを上げれる様な依頼は余り無いかもしれない。
やはり帝都が一番依頼が集まる様になっている。
けれど家出中の身で帝都を拠点にはしたくない。
(やっぱりメリアの街に戻るのが一番効率が良いかしら。
ギルドマスターとの繋がりもあるし、ランクが上がりやすくなるかもしれないわね。)
Bランクからは強さだけでは評価されない。
ギルドの上層部に目を付けてもらい、評価を貰わなければそもそもランクが上がらない。
その点メリアの街ではギルドマスターに覚えてもらっているだろう事は想像に固く無いので、条件としては悪くない。
ただ指名依頼を余り受ける気にならないのと、それ以上にランクを上げた所で期間限定でしか活動も出来ない。
しかも依頼中には顔も晒せない。
それを踏まえてランクを上げてもらえるのかが正直な所疑問である。
(実際には無理にランクを上げる必要も無いのだけれど。
それでも無為に時間を潰す必要も無いし、それにCランクの稼ぎじゃ碌に本も買えない。
それ以上に今回は魔導具の研究をしたいのに必要な材料が何も買えない。)
マグリットにとってそこが一番今は重要なのである。
(そうと決まればメリアに戻りましょうか。)
マグリットがパチンと指を鳴らすと、その場からパッと消えてしまう。
ーーーーーーーーー
マグリットが転移出来るのは書類だけで無く、実の所自身でさえも一瞬で移動可能なのである。
指を鳴らした瞬間には以前ギルドマスターと来た町外れに立っていた。
その足でギルドへと向かおうとして振り向いた瞬間。
「おいおいおい。どう言う事だ。」
聞き覚えのある声で凄まれる。
「あら、ギルドマスターではありませんか。」
こういうのはスルーに限る。
頬に手を当ててニコリと微笑む。
「お前書類の時にも思ったが、一瞬で移動する手段があるんだな。」
「・・・・・・
物だけの移動だと勘違いして頂いた方が都合が良かったもので。」
当たり前だが、誤魔化させてはくれないようだ。
「その方法を公表する気は?」
鬼気迫る感じで迫ってくるがマグリットは一瞥するだけだ。
まさかこんな外れにギルドマスターが居るとは思わなかった。
以前此処に来た際もギルドマスターが連れて来たこともあり、もしかしたら此処はギルドマスターがよく来る場所なのかもしれない。
気にはなるが、今これを聞いた所で答えてくれはしないだろう。
「公表する気は今はありません。」
今はあくまでも普通のギルド員であり、退学とかしている訳ではないのでただの貴族学校の学生だ。
目立ちたくはない。
「何故だ!?その魔法を公表するだけで遊んで暮らせる程の金が入って来ることさえ可能なんだぞ!!」
まるで掴み掛からんとする勢いだ。
「お金に然程興味はありません。
それに何より目立ちたくありませんので、公表なんか以ての外ですわ。」
マグリットが魔法を極めているといっても良いのは、やり直しの時に魔法学者になった事があるからだ。
魔法学者だった時ならまだしも、ただの一学生がこんな高度な魔法を発表して要らぬ軋轢をうまないとも限らない。
ギルドマスターとしてこんな魔法を見て見ぬ振りは出来ないのであろう事は想像に固くない。
しかもここは帝都に程近い街なだけあって、他のギルドマスターに比べて地位も低くはないのではと思われる。
「どうしてもか?」
「どうしてもです。」
それでもマグリットは譲らない。
怒っているのか悔しいのか複雑そうな表情で歯噛みしているのをただ眺める。
此処でギルドマスターの相手をしてあげる義理は無いんだけどな、とも思うが勝手に何処かへ行くのを許してくれる気は無さそうである。
「これからどうするつもりだ。」
これから?と不思議そうにギルドマスターを見る。
「もうすぐお昼なので御飯でも食べようかと思っています。」
それが何か?とでも言いそうな顔である。
「違う!そう言う意味じゃない。
今後のギルドでの活動を聞いてるんだ!」
「ランクを上げてみようかと思っております。」
お昼御飯の話をしてしまったから急にお腹が空いてきた様な気がするも、ギルドマスターが見逃してくれる事も無さそうだ。
「C程度で良いと言ってなかったか?」
「まぁ用事が終わりましたので、次の予定までは少し時間があるのでランクでも上げてみようかと。」
随分と適当だな、とギルドマスターは思うも確実にそれを成し遂げる実力があるのは間違いないとも感じる。
「Bランクからはそう簡単には上がらんぞ。」
「そうですね。
ギルドマスターの承認がそもそも要るでしょうから。」
マグリットはクスクスと笑う。
このギルドマスターが自分を簡単に手放したりしかない事をマグリットはよく知っている。
「俺が上げると言わない限りはこの街では確実に上がらないんだぞ。」
まるで悪足掻きである。
「他の街に行っても良いですし、それ以上に別に無理に上げたい訳では御座いませんので。」
そう言うと街の中心部に向かおうと背中を向けて歩き出そうとする。
「俺が悪かった!待ってくれ。
ランク上げるからどっか行かないでくれ。」
「そこまでして引き留めなくても。私の実力を知っている訳でもあるまいし。」
呆れた様に振り返る。
正直なところ、マグリットはギルドマスターに実力を悟らせてはいない。
強いだろうな、と思われる程度で留めているつもりである。
「俺に実力の底を悟らせもしない奴が強くない訳あるか。」
その呟きの様な言葉に思わず目を瞠る。
よく観察されてるんだな、と言うのが第一印象に上がる。
しかも適度に強い程度には悟らせている訳で、そこが上限では無い事にも気付いている。
想像以上に実力もあるし、人を見る目があるのだろう。
「あら、ならギルドマスターは私をどうなさりたいのでしょうか?」
貴族のように内心を悟らせない様に、華麗に微笑む。
「どちらかと言うと、俺に選択肢はあるのか?と聞きたいな。
お前はどうなりたいんだ?」
思った以上に評価は高い。
パチパチと目を瞬かせてギルドマスターを見ると、逆も驚いた顔でマグリットを見る。
「すみません。そこまで評価されてるとは思っておらず。」
あそこまでしておいてか?とも思うがギルドマスターはそれを口にはしなかった。
しかし話もまだあるし、と言う事でギルドマスターが芝生の上に座り込む。
そのまま横をポンポンと叩く。
以前も同じ様な事があったな、と思いながら又も同じ様に少し離れて同じ様に座り込む。
「そんなに離れんでも。」
前回は特に言われなかった突っ込みを今回は口にするらしい。
「どうなりたいか、でしたか?
そうですね。目立たずランク上げをしたい位しかギルドマスターに求めておりませんが。」
ギルドマスターの言葉にスルーして、取り敢えず答えてみる。
「目立たず?
やることなす事目立ちそうなお前が、目立たず??」
それに対して不満そうにギルドマスターを見るも当たり前だろ、と言わんばかりの顔をされる。
「ローブは被りっぱなしにはしますけど。」
「そもそも今まで何の実績の報告も無かった奴がいきなりBランクに昇格する時点で目立たないとでも思ってんのか。」
呆れた様に言われたが確かにそうだろうな、とも思う。
恐らくマグリットのランクを上げて仕舞えば、このギルドマスターは周りからの批判を受けるのは間違いない。
ギルドマスターが言った通り実績が無いのだから。
普通はBランクに上がるなんて中々難しい。
帝都でさえ、二十人程度であろう。
それ程なるのは難しい。
「まぁ無理にとは言いませんし、実績が必要ならば依頼を受けるまで。
私にはギルドマスターが知っている様に、転移魔法がありますから数をこなすのは問題ありません。」
大量の依頼を受けては直ぐ様こなしていく奴なんか居れば、間違いなく目立つ。
目立ちたくは無いが、最悪顔バレしなければ良いのだ。
「そんな事すれば何かしらの移動方法があると判るぞ。」
「構いません。
今の所誰にも教える気は有りませんが、バレるのは気にしませんから。
でもそれについての諸々の煩わしい事は無視します。」
そんな人間関係に時間など取られたくは無い。
「私は私のしたい様にやりますので。」
「・・・・・・自由だな。」
少し、少しだけだけれど羨ましそうな顔でマグリットを見つめる。
「それで、どうしますか?」
羨ましいのですか?と聞こうと思ったけれど、辞めておく。
少し考えてから、頭をガシガシ掻くと、
「妥協案にするか。」
そういうと立ち上がり、ギルドまで着いてこいと促す。




