〜過去編四回目の始まり〜
「・・・・・・・・・・・・・・・」
これで四回目。
夜中にベッドで目を覚ます。
身体を起こし、カーテンを開ける。良い天気なのか、綺麗な月夜が浮かんでいるのを、呆然と眺める。
きっと三回目で自分は壊れてしまったのだと、マグリットは思う。
三回目のやり直しでは断罪後、やはり牢屋へと入れられた。
でも牢屋での時は余り覚えて居ない。
もうどうでも良かった。きっと何かあっても今世はこのまま殺されるんだとわかっていたから。
けれど誰もがマグリットをそのまま放っておいてはくれなかった。食事さえ自分でしようとしないマグリットに、過去一度も付いて居なかった侍女が世話役として付いた。
顔は覚えているが、名前は聞いてもいないからわからない。
優しい子だった。
それでもやり直しのこの世界では、誰もが全てをまた忘れている。
何度繰り返せば良いのかわからない。
もう限界。
でも終わり方もわからない。
呆然としたまま、少しずつ夜が明けるのをなんとはなしに眺める。
四回目のやり直しが始まって、数日が経過した。
けれどマグリットは呆けたまま、殆ど動かない。
ベッドに座ったまま、外をずっと眺めている。誰が話しかけても返事さえない。目も合わさない。
そんな状態にも関わらず、婚約が解消になったという話も聞かない。
こんな状態のマグリットに言っても無駄だと思われているのか、それともやっぱり婚約解消にはならないからなのか、それはわからない。
言葉を話さないマグリットにはそれを確かめる術は無いし、確かめる気力さえもなかった。
話せない事は無いが、話す気も無かった。
もう今はシンドイも辛いも悲しいも怖いも、何も感じない。
三回目の牢屋の時と同じ様に、マグリットは食事を取らない。
今回は名も知らない侍女では無く、公爵家に仕えてくれているソフィーとノクトが熱心に世話をしてくれている。
当然、父も母も兄も毎日様子を見て、優しく声を掛けてくれる。それでもマグリットの心は動かない。
そんな時一通の手紙が届いた。
封蝋を確認してみると皇族からだとわかるも、宛名はマグリット。
公爵家一同、マグリットに渡しても良いものかと悩むも、皇族からの手紙を無視する事は出来ない。
しかもそれが皇帝陛下からであれば尚のこと。
マグリットに渡した所で、間違いなく読まれることもなく、むしろ封さえ開けられずに終わってしまう。
マグリット宛の手紙を開けるには抵抗もあったが、そのままにしておく訳にもいかないと、兄のアレクが手紙をマグリットに読む事になった。耳が聞こえない訳では無いと、マグリットの毎日の反応からわかっている。
マグリットに手紙を開ける事に一応了承を得るものの返事は無い。
侍女のソフィーや従僕のノクトに内容を見られるのは流石に出来ない為人払いを済ませた後、アレクはマグリットに微笑う。
二人分のお茶をアレク自らの手で淹れる。
マグリットが普段から部屋に常備していたマグリットのお気に入りの紅茶。
「余り自分でお茶は入れないんだけど、今日は特別だよ。」
当然返事は無いが、アレクは気にしないでノンビリした雰囲気で淹れていく。
それでもマグリットは外を眺めて、アレクを見ない。
それに対し少し寂しくもなるも、それをおくびにも出さないように気をつける。
「どうぞ。」
淹れたお茶をベッドの横にあるサイドテーブルに置く。
それが飲まれないのは知っている。食事さえ食べないのにお茶は飲んでくれる、なんて事は無い。
それでもアレクはニコニコ微笑いながら自分で淹れたお茶を一口飲む。
「やっぱり侍女とかに淹れてもらった方が美味しいね。」
少し煮出し過ぎたお茶をマグリットのお茶が置いてあるサイドテールに一緒に置き、ベッドの側まで椅子を持ってきて座る。
「こんな風に話す時間も余り取れなくてゴメンね。」
こうして兄妹で一緒に過ごしたのはいつ以来なのかな、とアレクは呟く。
アレクは公爵家跡取りとして、マグリットは妃教育の為、お互い余りプライベートな時間は無かった。
「マグリットがこんな風になってしまったのは、僕達家族も悪かったのかな?こんな事ならもっと一緒に色んな事すれば良かった。
今まで君の気持ちはわかるつもりだったけれど、今は全然わからないや。」
マグリットの片手を持ち、アレクは両手でもって包み込む様に握る。
ポツポツとゆっくりと今までの思い出話を話し続けるも、マグリットからの反応は無い。
それに寂しさを感じるものの何がマグリットをこうしたのかわからない以上、色んな事話をして反応を見るしか無い。
何の反応も無いのに対して溜息を吐きたいのは山々だが、それをすれば又マグリットが傷付いてしまうかもしれないと思うと、容易にする事は出来なかった。
「そうそう。僕がこうしてマグリットと二人で話に来たのは皇室から手紙が来たからなんだ。」
アレクはポケットから手紙を取り出して、開けるよ?と問い掛けてペーパーナイフで手紙を開ける。
手紙を開けてから、フッとマグリットを見ると何をしても何を話しても窓から目を離さなかったマグリットがアレクへと顔を向けて居た。
「やっぱりマグリット、君がこうなってしまったのには皇室が関係あるんだね。
それがわかっていても何も出来なくてゴメンね。」
マグリットに読む前にアレクが先に読むと、顔を顰める。
「・・・・・・これを読む事によってマグリットはガッカリするかもしれない。それでも読むかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
返事は無いが、読んでは貰いたいのかアレクから目を離さない。
「そうだね。伝えない訳にはいかないもんね。
簡単に伝えると、ギリギリまで待つと。今はまだ婚約はそのままにして欲しいと。そう、書いているよ。」
それだけ聞くとマグリットは目を伏せ、又窓際へと顔を向けてしまう。
「婚約が此処まで強固な理由がある、らしい。」
ポツリと聞こえるか聞こえないかのギリギリの声量でアレクが呟く。
しかしマグリットには聞こえていた様で、この四回目のやり直しで初めて表情が動き驚きを露わにして再度アレクを見る。
「り、ゆ、、、ぅ、?」
長い事話す事も無かったせいか、掠れた声しか出ないもののアレクには通じたようでアレクは頷く。
「でもね、父上も母上も、当然僕も。
探ったんだけど、理由は全くわからなかったんだ。
理由がある、というのも以前皇帝陛下がポロッと口を滑らせただけだから、そこにどんな意図があるのかも正直わかってない。
ゴメンね。こんな風になるまで嫌だなんて思ってもみなかった。君の事ならわかると思ってたんだけどな。」
公爵家の情報網でさえ一欠片でさえ掴めない理由。それを知りたくも、わからないのであればきっとこのまま又同じ事を繰り返す。
どうして、何故と、何度も何度も考えたけれどわからない。
ーーーーーーー
今まで受けた教育の中で、魔力のコントロールもあった。
高貴族になればなる程、魔力も多い事が多く自身で魔力制御する為だ。
騎士団を統括するカンバーラント公爵家であったとしても女である公爵令嬢のマグリットには必要がないとされ、コントロールこそ教えては貰えたが簡単な攻撃魔法一つ使う事は許されなかった。
けれど牢屋で過ごした勉強の日々がマグリットにはある。
カンバーラント公爵家にある本には攻撃魔法を使う術が載っているものは無かった。
しかし牢屋に入った際に魔力を使えなくする魔道具を付けられた事もあり、読む本に関しては制限が設けられていなかった。
つまりは卓上の理論だけではあるが、マグリットには攻撃魔法が使える知識がある。
しかしそれは誰も知らずにいる事で、だからこそマグリットの部屋には監視がない。
マグリットは立ち上がり、窓を開ける。
今日は満月。眩いばかりの月夜が降り注ぐのを見上げる。
その手には魔法で作った氷の刃が握られている。
処刑をされて又繰り返しが起こるのであればーーーーーー
氷の刃を自身に向ける。
自死であればーーーーー
躊躇いひとつなく、マグリットは心臓目掛けて突き刺す。




