取り敢えず脅されます
「これで確認が取れ次第、お役御免ですね。」
マグリットは他に用事も無いと立ち上がる。
が、ギルドマスターはそれを視線だけで止めてくる。
気付かないフリをするのは簡単だが、そうした所で別の日に止められるのは目に見えている。
「まだ何か?」
これ以上長居する気もなく、立ったまま話を聞く姿勢を向ける。
それに対してギルドマスターは何か言いたそうにはするものの、そこには触れずにいる事にした様だ。
「さっきの魔法は何だ?」
ともすれば殺気と思われる様な鋭い視線でマグリットを射抜く。
「それをお伝えする義務はございません。」
されどマグリットはサラッと流す。
「場合に寄ってはギルドランクの大幅アップも検討しても良いんだぞ。」
「それは結構です。」
マグリットがあまりにも即答するので、ギルドマスターは呆気に取られる。
「何故だ。ランクを上げたかったのでは無いのか?」
「C程度で結構です。
なので先程の依頼料に含まれてるのでは?」
今回ばかりは冒険者として過ごす訳ではないので、適度な依頼料が入ってくるランクで良いのだ。
しかもランクも上げすぎると指名依頼の様な物もある為、その様な物に時間を取られる訳にはいかない。
「言う気は無いっていうのか。」
「必要を感じませんので。」
まるでバチバチという音がなりそうな程の睨み合いが続く。
「実力行使をしても良いんだぞ。」
その言葉にシンと冷たい視線になるのを止められない。
「出来るものなら、お好きに。」
ギルドマスターとしては軽く脅した程度だったが、マグリットの姿勢を見て藪蛇だったと気付く。
ギルドマスターとなるにはギルド員をまとめ上げなければいけない事もあり、低ランカーではなれない職業である。
つまりはSランクにでもならない限りギルドマスターにはなれない。
つまりはこのギルドマスターも、それ相応の実力があると言う事。
「すまん。馬鹿な事を言った。」
冷や汗が出るのを止められない。
それ程マグリットから感じる威圧感が凄まじいのだ。
「分かればよろしいのです。
高ランカーでも無いですし、生活費のためにギルドに登録しただけの人物にあまり変な事を言わないで下さいませ。」
つまりはこちらの事情に踏み込むな、と暗に伝える。
実際問題ギルドにはそこまでの権限はない。
簡単に登録出来る事もあり、基本的には個人の素性を無理に暴く事はしてはいけない暗黙のルールがある。
後ろ暗い過去を持つ者も多くいる。話したくない過去を持つ者だって。
そう言う人物全てをまとめるのがギルドの役割である。
だからこそ暗黙とは言え重要なルールを、ギルドマスター自らが破ってはいけないのである。
それを破ろうとしてまでマグリットの使う魔法に興味が惹かれたのも事実で。
ギルドマスター以前にSランク冒険者としての本能のようなものが、見た事も無い魔法にウズウズするのを止められなかった。
「そこまでの実力がありながらランクを上げる気は無いのか・・・」
ともすれば独り言になりそうな程の声で呟く。
「強いからと言ってランクが上がる訳でも無し、面倒事は御免だわ。」
もう良いだろうと言わんばかりに扉に向かって歩いて出て行こうとする。
「違いない。」
引き止めもせずそう言ってギルドマスターは笑う。
(案外悪い人ではないのでしょうね。)




