取り敢えず仕事です
「これを届けて欲しい。」
そう言って差し出されたのは、封筒に入った書類の様なものだった。
「???
こんな物をわざわざ空間魔法で運べと?」
触った感じ本当にただの数枚の紙が入っただけの、特に変わった様子もないただの封筒の様だが。
「どうしても人目に触れて欲しくないんだ。」
怪しい。怪しいが、裏家業の依頼とかでは無く正真正銘ギルドからの依頼なので、犯罪等には関わらない、とは思う。
「・・・・・・・・・・・・」
凄く気が乗らない。
聞かなかった事にしたいが、きっとそうはいかないのもわかっている。
「誰に届けるのでしょうか?」
封筒に宛名が書いている訳でもない。
「聞いたらもう受けざるを得ないがそれでも良いか?」
「断れるなら今すぐにでもお断りしますが?」
マグリットがそう言うと、ギルドマスターは困った様に頭をガシガシと音が鳴りそうな程搔く。
「いや、正直断られると困る。」
「なら何方に?」
「帝国の第一皇子フレデリック・テンペスト=スタッフォード殿下に。」
何だか今まで関わり合いにならなかった割に最近よく聞く名前だな、なんて現実逃避したくなる。
「皇子殿下になんて、普通会えませんが?」
「内密に届けて欲しいんだ。
向こうから日にち指定されていてな、だから急いでるんだが相手が相手なだけに人目につくのは極力避けたい。
皇子殿下がギルドに依頼というのも機密事項ということで、その為その封筒が全く見えないように運べる空間魔法を使える人物を探していた。」
今度は隠さずに大きな溜息を吐く。
「これをフレデリック皇子殿下に渡ればそれでよろしいのですか?」
「そうだが?」
ギルドマスターは何となく言葉に違和感を感じるが、それが何かまではわからない。
『帝国の若き太陽フレデリック殿下。今お時間大丈夫でしょうか?』
何を好き好んでフレデリックと頻繁に連絡をしなければいけないのかと、ブチブチと文句を言いたくなる。
『マグリットからの連絡は珍しいな。
しかも連絡も取り合ったばかりだと言うのに、随分と早い定期連絡だな。』
皇子殿下でもあり、しかもご多忙なのも知っている為マグリットからの連絡は不敬だと思っていた、が念話自体が然程日々の忙しさの中でも問題無く熟せる事を知ってしまっただけに遠慮は少し無くなったのは間違いない。
『ギルドを通して機密の書類というのは何か心当たりはございますか?』
ギルドマスターは何か言いたそうにしているが、目線を向けるだけで意思を汲んで黙っていてくれる様だ。
『何故マグリットがその様な事を聞く?』
『ギルドに登録しに来ましたらそれを届けて欲しいと依頼されてまして。』
『登録をしに来ただけで、その様な重要書類でありそうな物を渡されるのか?』
確かにそこだけ聞くと、ギルドの信用問題が地に落ちそうである。
しかしながらマグリットにはその信用を払拭してあげる義理もない。
『そうですね。事情はあるみたいですが。』
『それは後でギルドの方に問い合わせしてみよう。
まぁ、確かに書類は頼んでるな。』
ギルドマスターを通しているだけあって嘘ではないとは思っていたが、これでこの書類をフレデリックに届けないといけないのは確定事項だ。
しかしながら今は家を黙って出て来た身。
帝都へ戻るなど愚策である。
『フレデリック殿下、今周りに誰か居ますか?』
『ん??
いや、誰も居ない。この時間は授業が無いからな。
専用の個室に居る。』
こんな事までしてあげる義理は無いような気もするが、いちギルド員としてはギルドマスターからの直々の依頼は断りにくいし、それ以上に機密文書をフレデリック殿下に届けるなんて事を聞いてしまったのは、明らかに後には引けない事項である。
はぁ、と大きな大きな溜息を吐く。
「マスターこの仕事をやった際の見返りは?」
依頼には報酬が当然である。
「依頼料は当然上乗せさせてもらう。
後は、ランクを上げるのはどうだ?
空間魔法使える事だし、お前はそこそこ強そうだ。」
それはアリかな、と感じる。
ノンビリランク上げをするつもりはないのだ。
「では交渉成立ですね。」
『フレデリック殿下、今からその機密文書をお届けしますわ。』
ギルドマスターとフレデリックにそう伝えると、おもむろに持っていたその書類を上に放り投げる。
「何してんだ!?」
流石はギルドマスター。反応が抜群に良かった。
しかしながら散らかると思っていた書類は跡形もなく消えている。
「フレデリック殿下にお届けしたまでです。」
『これはこれは。
君はこんな事まで出来るのか。』
マグリットがギルドマスターに答えたのと同時に頭の中にフレデリックの驚いた声が聞こえる。
そう、消えた書類はマグリットが言った通り消えた瞬間にはフレデリック殿下の座っている目の前に現れたのだ。
「いやいや、消えた書類どこやった!?
フレデリック皇子殿下に届けたって証拠は!?」
普通なら依頼人にはサインを貰うものだが、今回は一方的に書類を送りつけただけなのでそんなものは無い。
「証拠・・・はありませんね。
でもどうせ待ち合わせしてるのであればそこでサインをもらって下さいませ。
サインを貰いに行くだけなら誰でも良いでしょうから。
フレデリック皇子殿下に会いたい訳でも無いですし、帝都に行く訳にはいかない事情があるもので。」
「どこに信じる要素があるんだ!?」
激怒とまではいかないがそれでもギルドマスターは立ち上がって怒鳴っている。
「そんな信用出来るかどうかわからない者に重要書類を渡したのはギルドマスター、貴方です。
いくら私が空間魔法を使うからといって、先程ギルドに登録をした人物においそれとそんな物を渡す方が悪いとは思いませんか?
いくら緊急を要するとは言え軽率です。」
書類を消したマグリットが、逆にギルドマスターに説教すると言う不思議な図となってしまう。
「それはそうなんだが・・・」
ギルドマスターもまだまだ信用の無い人物に任せてしまった負い目がある。
「仕方ないので届いたかの確認が出来る迄は、このギルドでの依頼を受けますので確認出来たら教えて下さい。」
『マグリット!確認のサインはどうしたら良い?』
元々フレデリックは書類受け渡しの日として予定を組んでいる訳でその日にでもサインして貰えばいいと思っていたが、早く終わるのに越した事はない。
『逆に殿下はいつなら大丈夫なんですか?
全く見知らぬ方がサインを求めに行くかと思いますが。』
『えっ!マグリットが来るんじゃないのか?』
『行きません。』
確かに届けたとされる人物がサインを貰うのが当たり前だろうが、それならわざわざ書類だけ移転させたりしない。
「フレデリック皇子殿下にどうやって書類が届いたとか!サインどうするとか!連絡出来ないじゃないか!!」
ギルドマスターはマグリットとフレデリックの念話が聞こえる訳ではないのでどうしたら良いのかと慌てている。
「落ち着いて下さい、ギルドマスター。
フレデリック皇子殿下にはお伝え出来ております。
その上で、あちらからサインどうするかと問い合わせを貰っておりますが、どうしますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・いや、なんだ、えっと。
いやいや、すまん。
此方からは急いで人を送るにしろ最短でも明日にはなるからそれ以降であれば大丈夫だ。」
たっぷりと絶句した後に盛大に取り乱し、それでも立て直す事が出来たのはギルドマスターだからこそか。
『明日以降にサインを頂ける時間をもらえれば、とギルドマスターが仰っております。』
『なら明日学園近くであれば時間を見つけて行く事は可能だろう。』
そんなこんなでマグリットを間に置いた話し合いは無事に終わる。




