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取り敢えず慌てていらっしゃいます

 


『マグリット!何処にいる!?』

 まだまだ早朝といっても良い時間に頭に響くフレデリック殿下の声。

 そろそろ街に着くからと速度を落として歩いている時の事だった。


『帝国の若き太陽、フレデリック殿下。

 おはようございます。』

 焦っているのも何のその、マグリットは落ち着いた様子で挨拶をする。


『そんな場合か!!

 何処に居るんだ!?』

『何処と言われましても?

 何故そんな慌てていらっしゃるのでしょうか?』

 本気でわからない様にコテンと頭を傾ける。


『マグリットが失踪したと早朝から大騒ぎだぞ!!』

 何を言っているのかと目をパチパチして不思議そうな顔をしてしまう。


『失踪・・・と言えばそうかもしれませんが、フレデリック殿下は私が何処へ行くかご存知の筈ですが?』

『そんなすぐに行くと思うか!!

 用意とか!むしろ一人とか!

 突っ込むとこ多すぎてどうしたらいいかわからんわ!』

 相当慌ててるのかキャラが崩壊してる。


『一応公爵家にはお手紙をおいてきましたが・・・


 それに今まで1人で生きてきましたので、特に問題ありません。』

 公爵令嬢が一人で市井に出る時点で、問題だらけである。


『居なくなった理由はわかるが、資金の援助とかもいるだろう!!』

『落ち着いて下さい、殿下。』

 マグリットは話が長くなりそうだと、内心溜息を飲み込む。

 街道を逸れて近くにある川辺へ向かい、川に足を付けて少し休憩する事にする。


『落ち着けるか!?』

『まぁまぁ、むしろ殿下は私が一人で行動するとは思っていなかったんですね?』

 ずっと走り通しの熱を持った足が、冷たい川の水で気持ち良く少し気分が上昇する。


『当たり前だろ!君はカンバーラント公爵令嬢だぞ!』

『殿下、考えてもみて下さい。

 いきなり学園を休んで、例えば旅に行きたいんですと言っても聞いてもらえる訳が無いではないですか。』

 確かに昨日の段階でマグリットが提案した案をどう実行するのかと、疑問には思ったフレデリックは思わず黙り込んでしまう。


『仕方ありませんので疑問には全てお答えしますので、殿下は一度落ち着いて下さいませ。』

 何度もこうして面倒な連絡があるのはマグリットとしても勘弁してもらいたいのだ。


『・・・なら何故相談も無くすぐに出て行った?』

『善は急げと、申すではありませんか。

 それに、相談?しなければいけませんでしたか?』

 地面に落ちている手頃な石を川に投げ続ける。


『相談する気も無かったのか・・・』

 フレデリックが何だか寂しそうである。


『お金は!?

 何も考えずに出掛けても金銭など無いだろう?』

『宝石が付いたネックレスをひとつ、持ち出しましたわ。』

 まるでマグリットが常識知らずのように感じてしまう。

 いくらその宝石が高かろうが、売ってしまえばすぐに尽きる事は想像に固く無い。


『それだけでどうするつもりだ!?

 金銭の工面は俺が面倒見るつもりだったんだぞ!!

 何のための協力者だ!!』

 思わずピタッと川に石を投げる行為が止まってしまう。


『えっ!?

 生活費を出してくれる予定だった、とおっしゃってるんですか?』

『当たり前だろ!!』

 全くこれっぽっちも考えもしなかった事である。


『それは考えもしなかったものですから。

 でもお金は特に要りません。』

『いやいや、それだけではどうも出来んだろう!!』

 本気で心配してくれてるフレデリックに、マグリットは笑ってしまう。

 こんな事がなければ付き合いの全く無かった人物なのに、と。


『服と武器が何とかなれば大丈夫ですわ。』

『・・・武器!?』

 公爵令嬢が、武器!!と驚愕が念話とは言え伝わってくる。


『殿下、何度も何度もやり直してる中で、私が市井に出なかったとでも思っていらっしゃるのですか?』

『確かに興味が無かったのは間違いでは無いが、マグリットが学園に通って無かった時もあるのは知ってるし、むしろ公爵家から居なくなった事があるのも知ってる。』

 つまりは市井で生活していた事くらいはフレデリックも理解はしている様だ。


 だがしかし。

『私はただただ平民として過ごしていた訳ではございません。』


『平民として過ごしていなかった?』

 それ以外に何があるのかさっぱりと見当もつかない様で戸惑った雰囲気が伝わってくる。


『むしろただ市井で平民として同じ所にずっと住んでいれば、すぐに見つかってしまうではありませんか。

 それでは全く意味はございません。』

 良い天気の中、魔力を行使して走り続けて少しの疲労感。

 寝るには最適だな、なんて全く違うことを考えてしまう。


『ならどうやって身を隠していた?』

『公爵令嬢が戦えるなんて誰が思うでしょう。』

 薄らと笑みを浮かべる。


『私は戦いに身を置く職業に就いている事が多かったので、むしろ1人でいる方が良いのです。

 下手に庇われたりする方が危険ですので。

 私の実力を知った方であれば話は別なんですが。』

 流石にずっと一人で過ごして来た訳では無い。

 それなりに過去には仲間と呼べる人も居たし、助けてくれたりする人も居た。


『戦う・・・・・・のか?

 マグリットが?

 あの社交界の花と言われる完璧令嬢と名高いマグリット嬢が戦うだと?』

 想像さえも出来ないのか驚愕を露わにする。


『そこまで驚く事でしょうか?


 貴族たる者、魔力が扱える様にと授業にもあるではありませんか。』

 実際フレデリックも魔法学の授業を担当している訳で。


『それはそうだが。

 実際に戦える人物など、どれ程いると言うのか。

 それに貴族は戦場に出たとて、司令官の役割でしかあるまい。


 むしろ令嬢は戦場に出る事さえ無いだろう。』

『確かにそうですが、公爵家を出てすぐに自立するには冒険者となった方が早いですし。

 我がカンバーラント公爵家は武官ですよ?』

 全くもって有り得ない話では無いとマグリットは感じるが、世間ではそうはいかないのも知っている。


 女性が働いて行くにはキツいのは身を持って知っている。

 冒険者としてギルドに登録した事もあるが、女というだけで軽んじられる事も過去一度や二度では無い。


『危ないだろ!』

 そこまで心配される程の関係を築いているのかと気にはなるが、そこはあえて突っ込んで聞く事はしない。



『フレデリック殿下は知らないでしょうが、これでも私強いですのよ?』

 仮にも今まで一人でやってきてはいない。

 揶揄う様な声で笑う。







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