〜過去編三回目の始まり〜
またやり直しなのかと、起きた瞬間に絶望を感じた。
何故マクシミリアンの婚約者、というだけで殺されなくてはならないのか。好きでもない、ただの政略結婚の相手。契約として交わされているだけの、相手。
本当の最初の最初、婚約したての頃。
私はこれでもマクシミリアンと仲良くしていこうと思っていた。
にも関わらずマクシミリアンは会えば傲慢な態度を崩さず、マグリットを見下す発言ばかりを繰り返す。そもそも会おうと思ってもマクシミリアンが避けているのか中々会えない。
そんな状況が何年も続けば、もうマグリットからどうにかしようなどと思う事は無くなった。
それでも皇帝陛下からの命令には逆らえない。
毎日毎日、どんなに辛くてもしんどくても妃教育からは逃れられなかった。
何故マクシミリアンは自由奔放に毎日過ごしているのに、マグリットは休みなく貴族としての教育から妃教育、政治経済、語学、しまいには魔法に至るまで全てを朝早くから夜遅くまで詰め込まれなければいけないのか。
場合に寄っては出来なくて打たれた事は一度や二度では無い。
その一方でマクシミリアンも勉強時間はあるものの、そもそもマグリットと比べるまでもなく時間は午前中くらいしか無い。それさえもよく抜け出していると聞く。
それが許されているのは何故なのか。
マグリットは少しの休みでさえ無いのに。
皇太子と言うだけで誰もが注意出来ないからか、産まれながらに決まっている未来の皇帝陛下だからか、現皇帝陛下の正妻マクシミリアンの母である皇后陛下が許しているのか。
皇位継承を争う必要が無いからと、勉強もせずに皇帝陛下となった所で大丈夫だとでも思っているのか。
一番勉強しなければいけない立場だと何故気付かない。
ろくに勉強もしないくせにマクシミリアンは、自分よりも何もかも出来るマグリットが気に入らない。
この帝国の為、何でも我慢してきた。
それなのにもう、二回殺された。
そこまでする程、何故マクシミリアンに嫌われなければいけないのか。それとも本当に嫉妬してジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢を虐めたと、本気で思っているのか。
マグリットは死にたい訳ではない。
確かに断頭台は一瞬で終わる。
それでもそこに向かうまでの恐怖は味わいたい物ではない。
むしろ死を体験している分、死んだ事が無かった頃に比べると格段に恐怖心は上がった。
それでも恐怖心は見せない。悪い事をしている訳では無いという意地、もあった。でもそれ以上にマクシミリアンとジェシカに嗤われたくは無かったからだ。
でもやり直しが始まった今、体の震えが止まらない。
正直もう限界。
又学園に通い続けて同じ授業を受け、同じ景色を見て、同じ様に二人が仲良くなって行くのを見て。
仲良くなるのを見た所で傷付いたりする訳では無い。だが仲良くなっていくのを見るのは、死ぬまでのカウントダウンの様で辛い。
そしてまた何もしていないのに断罪されるなんて、耐えられない。
そんなマグリットを見て家族や使用人一同、全員が異常事態だと気付くもマグリットは何も言わない為、何も出来なく歯痒さを覚える。
そんな状態で当然学園なんて行ける訳もなく、いや学園どころか屋敷の庭にさえマグリットは出れない。
外に足を踏み入れようとするだけで震えが止まらなくなるのだ。
マグリット自身も学園に行きたくないとは思っていたが、まさか外にさえ出れなくなっているなんて予想外であった。
皇帝陛下にもマグリットの状態は伝えているが、それでも婚約解消にはならないと言われた。
マグリットの事情を知っている者全てに箝口令が敷かれており、対外的にはマグリットが姿を見せない理由としては、他国へ留学していると言っている様だ。
正直そこまでマグリットに固執する皇帝陛下に疑問を覚えるも、そんな事は皇帝陛下に対して聞く事は叶わない。
しかし外へと一歩も出れもしない令嬢に皇后陛下なんて務まらない事は、子供にだってわかる。
このまま居れば婚約解消となるかもしれない。
そう期待するしか出来なかった。
どちらにしろ外には出れないのだ。家の中で出来る事など然程無い。
マグリットは起きている時間殆どを勉強に費やした。
今の今まで家で、皇宮でと、全ての場所で全ての時間を勉強に充ててきた為、マグリットには他にする事が全く思いつかなかった。
かと言って何もしない時間は恐怖を呼び起こす。
恐怖を少しでも忘れるには何かをやっている時だけで・・・寝ることでさえ悪夢にうなされてあまり眠れない。
毎日限界が来るまで勉強して気絶する様に眠り、殆ど眠れぬまま悪夢で起きる。これを毎日繰り返す。
屋敷に居る全ての人達が心配しているのは良くわかっていた。
それでもそれ以外に恐怖心を誤魔化す方法を知らなくて。
日付も時間も何もかもわからないまま、ただずっと机に向かう日々。
だから気付かなかったのよ。
こんなに時間が経っているだなんて。
やはり今回も何もしていない。
学園に通っていないばかりか、外にさえ出ていない。
むしろ殆ど人とも会っていない。
家族からさえ、どうすれば良いのかわからないのか腫れ物に触るような扱いだった。
それなのに、それなのに・・・・・・




