取り敢えず皇帝にはなりたくないそうです
多少マグリットの相槌あれど、長い時間を掛けてフレデリックは話を続けた。
やはり天才というか、ここまで来ると化物レベルである。
この説明を頭の中でしながら魔法学の授業をして、日常会話も普通にこなし、いつも通りに過ごしている。誰にも違和感さえ覚えさせないとは恐れ入る。
『殿下は今でもマクシミリアン皇太子殿下が更生すると、お思いですか?』
マグリットは最近の日課。授業終わりの図書館に居ながらフレデリックの話を聞いていた。
図書館に居る他の人に不審に思われない程度に本棚の間を歩き、本を選んでいるかの様に装う。
『・・・・・・・・・・・・
きっと最初から有り得ないと、知っていた。』
その声は泣いているようだと、そう感じる。
『俺は、俺の為にマクシミリアンを糾弾したく無いんだ。
俺の弟だからとか言い訳の様に並べ立てて・・・』
何度も何度も死ぬ体験をして殺して欲しいとまで思う様になってしまった傷付いたマグリットとは又違い、心から愛しているこの帝国が滅ぶのを何度も何度も見ているフレデリック。きっとそれはそれで傷付いている。
『どうしてそこまでして・・・』
マクシミリアンを皇帝としたいのかがわからない。
『俺は俺の事情だな。
マクシミリアンが皇太子の座から下ろされたら、どうなると思う?』
そんな物考えなくてもこの国の人間なら子供でもわかる。
だって皇位継承権を持っている人物はマクシミリアン皇太子殿下とフレデリック殿下の2人だけなのだから。
『成る程。フレデリック殿下は皇帝陛下とは成りたくない訳ですね。』
『責めないんだな・・・』
案外あっさりと納得したマグリットにフレデリックの方が驚いてしまう。
『責める?何故ですか??』
本気でわからない。
思わず不自然に通路の途中で立ち止まってしまう。
『子供の頃からずっと皇太子となれと、それはもう色んな人に言われ続けたんだよ。
マクシミリアンでは務まらないと。
正直父である現皇帝陛下もそう思われているようだが、俺がなりたく無いのもわかっているのか、特に何も言われはしないがな。
帝国法でも決まってるのもあるだろうが。
他に皇位継承権を持ってる奴がいないから仕方ないんだが、それでも皇帝陛下になりたいと思った事は1度も無いんだ。
むしろ俺にはこんな大国を支えて行く自信も無い。』
マグリットはそのまま立ち尽くす訳にもいかないので、又本棚の間を歩き出す。
『自信が無い!?それはちょっと過小評価過ぎませんか?』
今現在皇太子殿下と自分の公務さえも完璧にこなし、他の事さえもこなしているにも関わらず、まさかの自信が無い。
『自信なんかあるものか。
支えて行く自信も度胸も覚悟も、俺には何もかも足りない。』
確かにと、マグリットも納得する。
公務が問題無く出来たとて、皇帝陛下として国を守っていくのとは又違った重圧であろう事は想像に固く無い。
『取り敢えず更生しないのはもう確定事項として、このまま婚約者としてあるべきなのでしょうか?』
それはそれは嫌そうに、誰も見ていないのをいいことに表情に出てしまう。
『婚約解消は現状ではそもそも難しいだろう。
現皇帝陛下が絶対に許しはしないだろうからな。』
『と言うか、皇帝陛下が崩御される事の方が、信じ難いのですが・・・』
皇帝陛下は若い内に皇后と皇妃を迎え、比較的すぐにどちらも身籠った為現在でもまだ30代という若さである。
つまり崩御する時でもまだ、40代前半程である。
しかも現在病気がある訳でも無く健康そのものに見える。
『いつからか少しずつ体調を崩されるんだ。
目眩頭痛から始まり、だんだんと腹痛吐気となっていき最終的には立ち上がる事も出来なくなっていく。』
『あんなにお元気なのに・・・?
その崩御されるまでの様子を見てないからでしょうか??
何だか違和感が拭えないのですが・・・』
歩き続けるのも良い加減見られでもしたら怪しいかと、適当に近くにある本を取り出し、入り口から程遠い閲覧用の椅子に座る。
『違和感・・・?』
皇帝陛下と普段から付き合いがない為なのか何なのか、全く考えた事も無かったと言わんばかりの困惑した様子の声だ。
『むしろあの皇帝陛下が病死なされるなんて想像もつきません。』
若いだけでなく、本当に元気な人なのにと不思議でたまらない。
『そう言われればそうかもしれない。
今まで考えてもみなかったな。
初めは倒れたと聞いて冷静でいられなかったのだろうか?
2度目からは倒れる事を知っていたからこそ、逆に何も思わなかった。』
こうして過去の出来事をマグリットに伝えるだけで、フレデリック1人では気付かなかった違和感。
もしそうならば、誰が画角したのか。
マクシミリアンが一枚噛んでいるのは間違いない。
ただ黒幕かと言うと、違うのではと感じる。
マクシミリアンにそこまで講じる事は恐らく出来はしない。
むしろ策がバレるからと、もしかしたら本人にさえ知らせていない可能性さえある。
『誰だと思う?』
『・・・・・・ジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢。』
そう言いながらもたかが男爵令嬢が、そこまでの事を考え実行する事など出来るのだろうか。
ただ現状、一番きな臭い人物ではある。
『それなら・・・・・・・・・』




