〜過去編二回目の始まり〜
「!!!!!」
ガバッと勢いよく起き上がる。
そして周りを見渡し、そして自身の体をペタペタ触る。
「!!!!
どう言う事!!私は!!!」
夜中だと言うのに騒がしかったのか専属の従者がノックもそこそこに扉を開けて入ってくる。
「どうされましたか!?お嬢様!!」
しかしそこにはベッドに座りながら頭を抱えている自身の主しかいない事に、取り敢えずのところ危険は無いと安心する。
が、それどころでは無い事にすぐに気付く。
主の様子が、嫌な夢を見ただけの様には見えないからだ。
「私は一体・・・・・・!?
公爵家は!?無事なの!?
お父様お母様は?お兄様は??」
錯乱状態と言って良い位に取り乱した様子で、部屋に入ってきた従者であるノクトに詰め寄る。
「マグリットお嬢様!
何の話かわかりませんが、特に変わった事は何も御座いません!」
それを聞くとピタッとマグリットの動きが止まる。
「・・・・・・変わった事が、無い?」
そんな事は有り得ないとキョロキョロと部屋を見渡す。
ノクトが言う変わった事が無いなんて有り得ない事に気付く。
今マグリットが居るのは、カンバーラント公爵家の自室のベッドの上。
それこそが有り得ない。
マグリットは処刑された。
そしてその前は何年も牢屋に入れられていたのだ。
夢というには生々し過ぎる。
「・・・ねぇノクト。私は今何歳?」
その言葉にノクトは微かに眉を顰める。
「十六歳で御座います。
そして明日の朝からは学園に通われるのです。
お嬢様、楽しみにしていたではありませんか。」
マグリットは絶句して何も言えなくなる。
「十六歳、ですって?」
暗闇の中カーテンの隙間から窓に映った自身を見る。
鏡でさえないそんなボヤッとした窓にさえわかる、牢屋に入ってたとは思えない汚れ一つ付いていない髪に肌。
視線を下ろし自身の手のひらをも見つめる。そこには手入れがキッチリされた滑らかな手がある。
「・・・・・・・・・・・・
ノクト、もう大丈夫だから一人にしてくれないかしら?」
それに対し心配だが主の言葉に否と言えない。
礼を以って静かに出て行く。
「どういう事・・・?
今この瞬間が夢だと言うの?
それとも処刑されるのが夢だとでも言うの?」
小さな小さな声で一人呟く。
しかしその疑問には誰からも答えは帰ってはこない。
「あの処刑が夢?
あんなに長く苦しかった長い日々がただの夢??」
今の今まで断罪されても牢屋に入れられても、むしろ入れられてからもずっと気を張っていた。
その緊張の糸が、切れる。
さまざまな感情が心の中で渦巻いて、ポロポロを通り越してボロボロと止めどなく涙が溢れる。
マグリット自身その涙の止め方さえもわからない。
涙腺が壊れたかの様に、朝まで涙は止まらなかった。
ーーーーーー
涙が止めどなく出ていた為、当然ながら目が凄い事になっている。
朝起こしに来たノクトとソフィーには大層心配されてしまう。
ソフィーには冷やされたタオルを渡され、ずっと目に当てているが腫れは引く気配さえ感じさせない。
夜中に引き続き朝起きてからの事は全て、父である公爵の耳に入っている。
マグリットの只事では無い様子に、流石に学園初日は必ず登校しろと言いたい所ではあったが、無理だとの判断から休む許可は取れている。
定期的に侍女が目を冷やす冷たいタオルを替えに来てくれはするが、マグリットの様子から一人にする方がいいのではと放っておいてくれているようだ。
部屋で呆然としながら何も考えれず、目を冷やしながらウトウトする。
ずっと泣いていたせいか疲れて眠い。
それでも何だか眠れない。
何がどうなっているのかマグリットには全くわからない。
謂れのない罪で断罪され牢屋に入れられて、そして処刑までが全て夢だなんて思えない。
むしろ今こうしている事こそが夢と、言われた方が余程納得出来る。
もし寝ていたらと気遣ったかのような小さなノックの音が聞こえる。
それに対しマグリットは入室の許可する。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
普段殆ど感情を表情に出したりしないノクトが、心配そうにベッドに寝転んでいるマグリットに近づいて来る。
タオルの替えと飲み物を持ってきてくれた様で、ベッドの側で温かい紅茶を手際良く入れている。
身体を起こし、どうぞと渡された紅茶を飲む。
マグリットが好きな茶葉だった。
もう何年も口にしていなかった好みの温かい紅茶。
又涙が溢れる。
いくら何でも様子のおかしい自分の主にノクトは困った顔をする。
普段のマグリットは貴族としての教育、未来の国母としての王妃教育とこなしている事もあり、この様に取り乱したりはする事はない。
間違いなく異常事態なんだとわかる。
それでもよくわからない。
ノクト、いや、マグリット以外にはわからない。
昨日までは特に変わった様子はなかったと間違いなく言える。
それが夜中に起きてから別人の様になってしまった。
何かがあった訳ではない、と思う。
悪夢を見ただけでは幾ら何でも此処までなるのだろうか。
ノクトは自分が使えると決めた主の為に、何が出来るのかと悩むもマグリットが何も言わないのでどうして良いのかわからない。
「お嬢様、マグリットお嬢様。」
こちらの問いかけには一応の反応はあり、呼び掛けたノクトの方を向く。
しかし涙が止めどなく出ていて、とてもじゃないが話せるとは思えない。
「何があったか教えてはくれませんか?
私に言いたくなければ、私以外でも構いません。
どうか一人で泣き続けないで下さい。
公爵ご夫妻も若旦那様も、私達使用人もみんなお嬢様を心配しております。」
落ち着く様に優しくゆっくりと伝える。
その優しい言葉に、元よりノクトの事を信用していたマグリットは最初の断罪から処刑までの事を話す事に決める。
ーーーーーーー
相談した事でマグリットは気持ちは軽くなった。
ただその後繰り返しているのを見てもわかる様に何も変わらなかった。
その上相談した事さえも無かった事になり、三回目のやり直しが始まる。
そしてマグリットは決める。
処刑される事を誰にも相談はしないでおこう、と。




