取り敢えず壊れたようです
気配を読み、回避する。
本来ならばある程度、出会った方が違和感が無いのかもしれないが。
それでも、マクシミリアンとジェシカの安い芝居を見たい訳も無く、思わず回避してしまう。
どうせ座り込んでハラハラと涙を流して、マグリットに何かされたとマクシミリアンに言う、いつも通りの代わり映えのしないつまらない観劇。
しかも、回数も多い。
やり直しの中、学園に通った回数は然程多くは無い。
無いが、こう毎日のようにジェシカが目の前に現れては、泣くを繰り返す事は無かった筈なのだ。
余程マクシミリアンが魅力に抵抗していた事が、ジェシカにとって癪だったのか。
毎回回避出来れば良いのだが、やはりそうはいかない。
待ち伏せは些か効率が悪いと感じたのか、マグリットが居る場所へとわざわざやって来るようになった。
生徒が学園内に多く居る時間、マグリットは一人の時などは殆ど無い。
基本的には他の御令嬢との交流等もある為、誰かと居る事が多い。
ジェシカが走ってこようとも、貴族令嬢らしからぬ行動は出来やしない。つまりは走って逃げるなんて事などは叶わない。いや、学園内でそんな事はしないが。
今日も今日とて、目の前で転ける。
本当、芸の無い事。
マグリットは又か、と一瞥してそのまま歩き出そうとするも。
「きゃーーーーーー。」
は淑女らしくない大声で、思わずマグリットはキーンとした耳を押さえる。
泣く事は多くあるものの、叫ぶまでは無かったのだが。
チラッと視線を向けると、座り込み泣きながら何かを持っている。
「どうした!ジェシカ!!」
此方も変わり映えの無い登場である。
「こ、壊れちゃっ・・・・・・」
そう言ってマクシミリアンに、手の中にある物を見せている。
はぁ、と小さく溜息を吐く。
逃げられなかった・・・・・・
後悔しても、時は戻らない。
「これは?」
「お、お父様が学園に入る時に、買ってくれた、羽根ペン、です。」
それはパッキリと半分に割れている。
それを見た、マクシミリアンはグッと眉間に皺を寄せる。
「入学祝いに、ってお父様が少し良い物を、買って、くれたんだけど。」
貴族が使うには、そこまで良い物という感じでも無いが。それを然も大切そうに手のひらで包み込んで、胸元に持っていきハラハラと泣く。
「高価な物なのか?」
「そりゃ皇太子のマックスから見たら、そうじゃないかもしれないけど、私のところではこれでも高価なの!!」
マグリットはその言葉に、思わず首を傾げる。
高価。
高価とはこれ如何に。
あれだけ男爵領で民から搾取しておいて、あれが高価??と首を傾げるのも致し方あるまい。
ジェシカが持っている物は、平民でも頑張れば買える程度の物で。男爵領で散財していたジェシカが、普段であれば使わなさそうな物である。
識字率が低い平民が羽根ペンを買う事は殆ど無い事もあり、余り売っていないそれを手に入れる方が、逆に手間だったであろうに。
よくやるな、と逆に感心する。
首を傾げたのをめざとく見たのか、射殺さんばかりにキッとマクシミリアンはマグリットを睨み付ける。
扇で目元近くまで隠す。
相手側からは睨み付けられた事が怖くて隠した様に見えるだろうが、マグリット的には呆れた目線を隠すためのものである。
「マグリット!!何故ジェシカの持ち物を壊した!!!」
「壊してなどいませんが・・・・・・」
チラリと羽根ペンを見る。
そもそも、羽根ペンである。
何故、持ち歩いているのか。持ち歩くような物でも無い。
「壊れているではないか!!」
「そうですね?」
だから何だと言うのか。
「お前がジェシカを転ばせて、壊したのだろうが!!」
そんなにずっと怒鳴らなくても聞こえるのに、怒りで怒鳴り続ける。
「そう思われるのであれば、お好きにどうぞ。
私が何を言ったところで、栓なき事ですから。」
ジェシカに走るな、などと苦言を申したところで走るのを止める気は無いし。マクシミリアンにやっていないと伝えたところで、無駄だと知っている。
文句を甘んじて受けなければいけないこの状況は、中々にストレスも溜まる。
その上この毎日のように起こるジェシカの行動は、少しずつ少しずつ学園内で噂となっていく。
マグリットの側に居る者は、マグリットが何もしていないのを知っている。けれど学園内では公爵令嬢である、マグリットの側に立てない者の方が圧倒的に多い。
貴族は噂話、特に醜聞は大好きだ。
つまりはこう言った不名誉な噂は、どうあったって広まるのだ。
マグリットも多少ならば気にもならないが、話が大きくなればなる程、マグリットの耳にも話は入って来る。
気付けば、誰もがマグリットがジェシカを虐めているのでは、と思い出す頃には、断罪が行われる歳、マクシミリアンとマグリットは三年生、ジェシカは二年生となっていた。




