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取り敢えず大量発生です

 


 暗い暗い、洞窟を歩く。


 まだ外は明るいのに、この奥深い洞窟には光は届かない。



 そこを魔法で小さな灯りを灯し、黙々と目的地まで歩く。

 探索魔法など、使わなくても何処に居るのかわかる程、ザワザワとしていて、そしてそれ以上に腐敗臭が凄い。


 正直この依頼は、やりたく無かった。

 けれど有効な魔法を使える者も多くは無い中、大量発生した魔物を駆逐する実力を持つ者はそう多くない。


 つまりは仕方が無い。これを倒せそうな実力者の心当たりは、ギルドマスターしか知らない。と言うか、今世ではトコトン一人での行動を徹底している事もあり、他のギルド員の情報は入って来ない。


 つまり周りを把握していない、いや、把握するつもりがないだけに他にも出来る人が居るだろうと、依頼を突っ返す事が出来なかっただけなのだが。



 マグリットが公爵令嬢と知っていながらも、こんな依頼を渡してくるギルドマスターに、驚愕である。




 洞窟を進めば進む程、臭いはキツくなる。


 普通の貴族令嬢、いや女性でなくとも。男性であろうとも貴族であれば、この臭いを嗅いだだけで逃げ出すだろう、そんな臭い。




 もう直ぐで、相手のテリトリーに入る、と言う所で刀を抜き光属性で属性付与を施す。

 身体強化もして、その場から一気に駆け出す。


 そして出会い頭に、一閃。


 三体ほどの首が一気に飛ぶ。

 グール二体に、ミイラが一体。


 敵襲に気付いた相手が、マグリットへと襲い掛かる。

 洞窟内という事もあり、大きな魔法は使えない。


 刀で攻撃を仕掛けながらも、魔法を構築する。

 準備が出来た瞬間、少し後ろへと飛びすさり光の槍を穿つ。

 それにより、その直線上にいた数十体が光で焼き切れ、倒れ伏す。


 仲間が倒れた事など、気にもならないようで、マグリットへと襲い掛かるのを刀で切り伏せる。


 最初に会ったグールとミイラに始まり、スケルトンにゾンビなど多種多様のリビングデッド系、所謂光属性を持っていなければ倒せない不死系の魔物達。

 そういう括りにしてみれば、一緒に居るのに違和感を感事無いかもしれないが、実はそうでは無い。


 グール。

 食屍鬼とも呼ばれる事もある、死体を食べる魔物である。

 ミイラ。

 乾燥地帯に居る事が殆どで、全身包帯に巻かれた腐敗せずに乾燥した死体が動いている。その為、知能もあり中々の高レベルの魔物である。

 スケルトン。

 白骨化した遺体、つまりは骸骨が動いているのだが、状況によっては腐った肉が所々付いている奴もいる。

 ゾンビ。

 死体のまま動き回るのだが、当然死んでいる為腐敗は続いており腐敗した身体で襲ってくる為、見た目、臭い共にかなり近寄りたく無い魔物である。


 だからこそ。

 食屍鬼と呼ばれるグールが、ゾンビと共に行動する事は基本的には無いし、ミイラに至っては、乾燥地帯を好むのに湿気の多い洞窟に居るのがそもそも不自然極まりない。


 元は人だった者も多いようだが、それだけでは無い。

 魔物や、動物など様々な生き物がいる。

 洞窟内という事もあり、大型のものは今の所居ない。


 十体や二十体、なんて生易しいものではない。

 確かにこの洞窟かなり広いようだが、それでもこんな何百体と居る程では無い。

 何かしらの理由でこの洞窟に迷い込んだ結果、増え続けたのだろうか。それにしては腑に落ちない事が多い。


 しかもこの有象無象を倒したとて、奥に少しランクの高そうなモノも残っている。


 魔力の温存よりも、今回は早く終わらせる事を優先する事にする。

 一刻も早く、この場から去りたいと思っても致し方あるまい。

 鼻は疾うにバカになっているが、それでも不快感が凄い。


 先程と同様、光の槍を穿ち。光の矢を何十と放ち。

 魔法ばかりでは襲ってくるリビングデッド達を、捌き切る事は叶わない。

 攻撃を避け、避け切らないものは防御魔法を展開する。この手のタイプの嫌な所は、怪我をするだけで済まないところである。攻撃が当たれば、病気、場合によっては呪いを掛けられたりする。

 怪我でさえ専門外であるのに、病気。ましてや呪いともなれば、些か都合が悪い。


 そうして惜しみなく魔力を使った事もあり、有象無象はかなり数を減らした。代わりに、後ろで待機していた魔物が行動を起こそうとしている事に気付き、急ぎ魔法を発動させる。


 後ろに飛びすさりながら、多数の光の刃を展開、放つ。

 光魔法の中でも、かなりの発射スピードがある魔法である。

 しかし数を増やすと、威力が下がるのが難点。


 今回のこの場合は、向こうの攻撃魔法の発動時間を遅く出来れば、僥倖。


 洞窟内でなければ、最上級魔法でも使って終わらすものを、と舌打ちしたい気分になる。


 距離があれば、向こうも此方も魔法の展開に余裕が出来る。

 それを良しとしなかったのか、向こうから猛スピードで距離を縮めてくる。


 レイスとリッチの二体。


 この二体とも生前の知能、魔力を引き継ぐ事もあり中々に厄介なタイプである。しかもこうしてわざわざマグリットへと向かって来るという事は、余程自信があるのであろう。


 レイス。

 元魔術師で霊体となっている事もあり、普通の武器は当然通じない。つまりは幽霊に近い存在と言える。

 やはり此方も呪いを使ったりもするし、元魔術師だけあり協力な魔法を使う。触れた相手の生命力を奪う能力もある為、かなり厄介な魔物である。

 リッチ。

 此方もレイス同様元魔術師。しかし此方はレイスと違い肉体を持っている。やはり高い知能に魔力を有している。


 一体でさえ厄介なのに、二体同時にマグリットへと接近する。

 マグリットは先程まで使っていた防御魔法よりも高度な光の防御魔法を展開し、同時に別の魔法も構築する。


 マグリットが使った魔法に、何かを思ったのかリッチが魔法をキャンセルし、別の魔法に切り替える。レイスはそのまま魔法を放つも、防御魔法に阻まれる。


 マグリットとて魔法の展開の速さは負けやしない。

 問題は向こうが二体居ること。


 時間差で魔法を放たれれば、マグリットとて反撃の隙を掴むのが難しい。やはり此処でも、場所がもう少し広ければ、と思う。


 広ければ、やりようは幾らでもある。

 向こうも大きな魔法は使えない、という条件は同じ。

 流石に、洞窟内が崩れるのを良しとはしないと思われる。

 まだまだ相手側にも生き残っている、有象無象のリビングデッド達は居るのだ。


 つまりはこの二体の魔法と魔法の隙を突いたとて、他のリビングデッド達の攻撃で反撃出来ない状況になっている。


 さてどうするか、と思案する。

 その間にもレイスが魔法を放ってくる。リッチは少し魔法の構築に時間が掛かっているのか、隙無く魔法が襲ってきている訳では無いが、リビングデッド達も手を休めずに攻撃をして来る事もあり、マグリットもそれを迎撃する魔法で、現在は手一杯である。


 そうしている内に、当然リッチの魔法は完成する訳で。


 何の魔法か理解すると同時に、防御魔法と接触する。


 そして、爆発するーーーーー




 こんな洞窟内で使う魔法では無いだろうと、文句を言いたくなる。事実、先程までマグリットが居たところは天井が崩れ、退路は断たれている。


 マグリットは攻撃魔法と防御魔法との接触の瞬間に、魔法を瞬時に解除。そしてリッチ、レイスの後ろ。つまり洞窟内の更に奥に、転移して無事である。

 防御魔法を突破するには、些か物騒過ぎる魔法だなと呆れる。


 相手はアンデット達。

 酸素は必要としない。

 しかしマグリットは違う。


 洞窟内にどれ程の酸素があるかは、わからない。

 火系の魔法は酸素を使う為、自身は元より相手側にも使わせる訳にはいかない。

 酸素が無くなる前までには、決着させなければ。


 最悪、レイスとリッチを何とかすれば、有象無象を相手にしながらでも出口は作れるだろうと、当たりを付ける。


 面倒な時間制限が設けられたが、此方とて元々から長引かせるつもりはないのだ。

 爆発の土煙が消えぬ内にマグリットは背後から二体に近付く。

 転移の存在を知らない二体は、マグリットを見失っている。気配を察知するまでは出来ない様だ。前線で戦う剣士などの前衛職で無い事もあり、気配を読めないのはマグリットにとっては僥倖であった。


 土煙に隠れ、マグリットを探している二体の内の一体。レイスを光魔法を付与した刀で、背後から斬りつける。


 元魔道士にしては反射神経は悪く無かったのか、背中を斬りつけた瞬間、マグリットへと猛スピードで接近した時と同様、前方へと飛び退る。

 けれどやはり背中に付いた傷は、浅くは無さそうで。


 光属性の付与で付いた傷は治る気配は無く、魔法構築の集中の妨げになっているのは間違いなさそうである。


 しかしこの攻撃で、一体は始末出来ると踏んでいたのだが、甘かったかと舌打ちする。

 仕方無いかと、再度気合を入れ直す。



 傷ひとつ負って居ないリッチが、マグリットへと怒涛の魔法攻撃を浴びせる。周りのリビングデッド達はやはりこの二体をリーダーとしているのか、操られているのか、そこは定かでは無いがリッチの攻撃が自分達に当たるのさえも厭わず、マグリットへと肉薄する。


 いよいよ後がない、とでも感じているのであろうか。

 切迫した雰囲気で、先程以上の気迫で攻撃して来る。


 余り使いたく無い手ではあるのだけれど、と思いながら指をパチンと鳴らす。


 リッチからの魔法を交わした瞬間、光の槍がマグリットの側を突き抜けて行く。



 魔法を行使する為には、手や杖。そうで無くとも魔法発動者の近くからしか発動出来ないのが常識である。

 マグリットは必ず手や杖を媒体にしている訳では無いが、それでも近辺なのは間違い無い。

 遠く離れた所に魔法を発動させるのは、普通出来ることでは無い。


 つまり。

 レイスの背後に光の槍を出現、攻撃は普通なら夢物語なのである。


 マグリットとて。

 そんな魔法を、代償もなく出来る訳も無く。


 レイスはそうした非現実的な魔法で倒れたが、マグリットはその代償に激しい頭痛に襲われる。おそらくは魔法構築に脳が酷使した為だと思われる。


 本来であれば、気絶する程の痛み。

 だがこんな所で、気絶する訳にもいかない。

 かと言って後日また来るとなると、その時この洞窟内のリビングデッド達がどうなっているのかも想像付かない。

 この洞窟内で大人しくしてれば良いのだが、襲撃された後、呑気に洞窟内に篭っているとも考え難いのだ。


 右手で刀。

 左手で魔法を放つ。


 痛む頭を抑えることさえ叶わない。


 わかっていた事だが、キツイ。

 マグリットはグッと眉間に皺を寄せてしまう。



 けれどやはりいつかは終わりが来るもので。

 有象無象のリビングデッド達は当初に比べると目に見える程、少なくなった。

 そしてリッチの方も魔力を使い過ぎたようで、威力の弱い魔法が増えた。マグリットの方も此処まで魔力を使う事は珍しいが、まだ残量はある。


 今だと、判断。

 リッチの真上へと転移し、そのまま刀を振り抜く。


 魔力も殆ど無いリッチには成す術もなく、そのままマグリットに斬られ、事切れる。

 二体を倒したとて、まだリビングデッドは居る。

 一息吐きたいところだが、刀を握り直し一閃する。




 全てを倒し終えた時には、想像以上に時間が掛かってしまったと独り言つ。

 確かに魔物が大量発生しているとは、聞いていた。

 聞いていたが、こんな特別大きい訳でも無い洞窟に何故あんなにも居たのか。


 そもそも湿気の多い洞窟内には居ない筈の、ミイラが一体でも居る時点で既におかしいのだ。それをあんな大量に。



 しかしマグリットの思考は、余り長くは続かない。


 頭痛は酷くなる一方で。

 片手でで頭を抱えるものの、気休めにもなりやしない。


 魔法を使うのはかなり億劫だが、そういう訳にもいかない。

 パチンと指を鳴らす。

 浄化魔法で全身を綺麗にする。

 するものの・・・

「お風呂に、入りたいわね・・・・・・」


 魔法では物足りなく感じてしまう。

 普通に体を流したい。

 湯船に浸かって、疲れを取りたい。


 此処まで戦いで疲れ切ったのは久々だ。

 気休めにしかならないが、痛み止めを飲み転移でその場から消える。



 大量発生なんてものは、一人でやる依頼じゃないな、と大きな溜息を吐く。






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