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〜過去編六回目断罪〜



 魔法を覚えるのが、新しい魔法を開発するのが。

 楽しくて楽しくて、堪らなかった。


 貴族令嬢として過ごして来たなかでも、此処まで楽しかった事は無い。

 いや正直貴族令嬢として過ごしていた時に、楽しかった事があるのかと聞かれると、答えを窮するのだが。



 時期皇后として、勉強ばかりであった。

 楽しさなどカケラも無く。

 ただ淡々と本を読み、理解し、書いては、覚えて。

 勉強が好きかと聞かれた所で、好きでは無かった。

 ただ、嫌いでも無かった。


 それが洗脳のせいなのかは、わからないけれど。



 それが、マグリットにとっての普通。



 けれど、この場所に来て。

 私は勉強が好きだったのかもしれないと、考えを改める。

 知る事が、楽しいと。

 勉学から離れたからこそ、気付けた。



 そして何よりも面白いと感じたのは、魔法に関する物であった。


 魔法学者であるイザベラに拾われたのは、僥倖であった。

 手に入れるどころか、読む事さえも叶わない魔法に関する蔵書。

 それを惜しげもなく読める。



 それを見、それを実践し。

 マグリットはこれでもかという程の速さで、魔法を習得していく。


 確かに元々、魔力コントロールは上手かった。

 しかしそれを差し置いても、驚異的なスピードであった。 



 マグリット自身、才能など無いと思っていた。

 しかし、魔法方面に関しては、他の追順を許さない程の才能を発揮する。


 魔法を一通り覚えてから、発動まで熟し、アレンジまで付け加え。

 無詠唱が難しいとされているなか、最上級までの魔法でさえ無詠唱での発動を成功させる。

 そしてその後は、様々な魔法を作り出す。

 流石に実用にまで至ったものは多くはなかったが、それでも異例の数の魔法を作り出し、その筋では知らない者が居ない程にまで、マグリットの名は広まる。


 しかしマグリットは名が広まるのを良しとしなかったのは有名であった為、逆を言えばその筋の者しか知られては居なかった。




 そうしている内に、当然時は経つ訳で。

 流石の六回目ともなれば、そろそろでは無いか、と予測くらいは付く。


 牢屋の中では、日付感覚は全くと言って良い程無かった。

 常に薄暗く、時計さえ無い。

 あるのは辛うじて本が読める程度の、光量を絞りに絞った灯りのみ。

 本は与えられはしたけれど、魔力の使い方を知らない私にさえ魔封じの枷をつけられ、時勢を読めないようにと新聞のような物は与えられはしなかった。

 外の光さえも入って来ない牢屋では、今が朝なのか夜なのか、それさえも不明瞭で。

 食事の度に数えていた日数も、長くなればなる程、数えなくなってしまう。

 どうせ殺されるのだと、日数を数えたとて栓なき事。

 二回目三回目に牢屋に入った時などは、初日から数える気さえ起きなかった。


 そして自殺もしてみた。


 だから実は言うとしっかり日付を認識したのは、前回の五回目が初めてであった。

 だからと言って、人の生き死に決まった日付があるのであろうかと疑問にも思うのだ。

 ただしその付近であるのは多分、間違いでは無いのだろうとそう認識している。


 だからこそ。

 働く身としては、やってはいけない事くらい認識しているけれど。

 黙って姿を消した。



 見つからない、なんて短絡的には考えられない。



 何処へ向かおうかと自身が作った転移で移動し、帝国内ではあるが、帝都からはかなり離れた街へと降り立つ。



 楽しかったな、とポツリと誰にも聞こえないように喧騒に紛れて呟く。

 死にたい訳では、無い。

 けれど、既にマグリットは生を諦めている。


 転移があろうとも、それはマグリットだけでは無いのだ。

 魔法学者として発表した魔法のひとつ。

 それが転移魔法。


 発表、するべきかどうかは実は言うと最後まで悩んだ。

 しかし周りからの後押しも凄く、発表に至ったのだ。


 だがこの転移魔法をマグリットだけが使えるのであれば、もしかしたら死なずに、逃げ切れるのでは無いかと、思ってはいた。

 思いはしたが、魔法学者としてやって来たプライドだってある。


 どうしても、発表したくなった。

 新しい魔法の発表は、他者の評価は。魔法学者としての誉れである。

 その感情を押し付けてまで、生にしがみ付きたいとも思えなかった。


 使える者が少なかろうとも、使えない者が居ない訳でも無い。

 見つかるのも時間の問題だと、そう感じる。




 そしてそれはあながち、間違いでは無かった。


 数日後、マグリットの姿絵が至る所に張り出される事となった。



 皇帝陛下は崩御なさったのね。と目を瞑り冥福を祈る。

 既に六度目、皇帝陛下には長い事会っていないような感覚。

 それでも優しくして下さった皇帝陛下の訃報は、何度聞いても慣れやしない。



 五回目の時同様、髪型も髪の色も、瞳の色も変えている。

 知らぬ者が見た所で、姿絵とは似ても似つかない。

 それは前回も同様。


 見つかるのか。

 このまま逃げ切れるのか。


 逃げ切れたとして。

 いつまでーーーー?


 何もしていないのに、犯罪者のように隠れて逃げ続けて過ごさなければ、ならないのかと。


 それこそ、死ぬまでーーーーーー




 前回よりも些か長い日数、逃げ続けれていた。

 けれど、それももうお終いかと。



 姿絵が張り出された時と同様。


 一つの号外がばら撒かれ、張り出された。

 流石にこんな状態で、号外を無視する事は叶わない。


 ハラリと足元に落ちた号外を、拾い上げる。





「!?!?!?!?!?」

 何故。

 どうして。

 何のために。

 有り得ない。


 様々な感情が渦巻く。


 怒り。

 悲しみ。

 憐れみ。

 驚愕。

 後悔。

 嫌悪。

 軽蔑。

 諦念。

 断念。



 クシャッと号外を握り潰す。



 一度、グッと目を、閉じる。


 そして瞳を開けると、そこに宿るは決意。



 転移で、その場から姿を消す。



 ーーーーーーーーーー



「私に、来て欲しかったのでしょう?

 マクシミリアン皇太子殿下?」

 驚いた様子もなく、後ろに現れたマグリットを振り向く。


「あぁ、マグリット。会いたかった。」

 大層な仕草で腕を大きく広げ、ニヤリと嗤う。


「・・・・・・・・・・・・」

「しかし、違うな。

 知らないのか?

 俺が、皇帝だ。」

 マクシミリアンは当然、一人では無い。

 周りには近衛騎士も居る。

 他の貴族も居る。

 護衛騎士も居る。

 皇帝陛下直属の影も居る。


 此処は、敵地ど真ん中。

 皇宮内の廊下の途中。


 ゾロゾロと引き連れて、何処へ行こうとしていたのかは知らないけれど。


「いいえ、貴方は皇帝陛下になど成り得ない。」

 酷薄に嗤う。

「何?」

 言っている意味がわからなかったのか顔を顰めて問い返してくる。


「貴方のような皇帝陛下など、誰も認めやしないわ。

 自分勝手で、自分本位で。

 自分のことばかり考えている貴方は、身体が大きいだけの子供。

 そんな子供が国を治めるなど、到底出来やしない。

 傀儡になるのが、精一杯。

 いえ、傀儡にさえなれないかもしれないわね。

 傀儡にしようとした者さえ、貴方は害そうとしそうだもの。

 何もかも、自分で考えて来なかった貴方には、私の言葉さえ理解しているかどうかも、わからないけれど。

 それでも、貴方は皇帝陛下では無い。


 ただ皇帝陛下の実子として、産まれてしまった憐れな子供。

 チヤホヤされるだけされて、何が善か、何が悪かさえも教えて貰わなかった、いえ、教えて貰えなかった、愚かな子供。

 自分で学ぶ機会など、幾らでもあったのに。それさえしようとしなかった馬鹿な子供。

 自分の都合の悪い事には、全て耳を塞いで過ごした可哀想な子供。


 そんな貴方は、真の皇帝陛下になどなれやしない。

 皇帝陛下という地位に在るだけの、物。」

 今回の生で、所得した空間魔法から剣を取り出す。

 前回の五回目でのギルドで働いていた時に、最低限だけれど使えるようになった物。


 マクシミリアンの周りにいる者達に、勝てる程の技量など当然持ち合わせてなどいない。

 ハッタリになれば、僥倖。


「そんな事をして、そんな事を言って無事ですむと思っているのかぁ!!マグリットぉぉぉぉ!!!!」

 叫喚し、身を振り乱しながらマグリットの元へと向かおうかとするも、周りの者から羽交い締めにされる。


「無事?

 貴方の無事とは、どう言った意味なのでしょうか?

 此処で私が素直に捕まれば、死なぬとでも?

 初めから、処刑するつもりなのに?」

 この場には似つかない綺麗な、笑みを浮かべる。


 それを見た全ての者が、一瞬見惚れ、動きが止まる。

「知っているからこそ、お前は俺の前に来たのであろう?」

 マグリットの笑みに飲まれた周りの雰囲気に、ギリギリと音が鳴る程に歯を軋ませる。


「えぇ、知っていますわ。」

「っなら何故!!」

「私が此処に来たのに、何もしていないとでも?」


 助けたとて、巻き込んだ。

 今後は帝国で大手を振っては、過ごせないかもしれない。

 私が、あそこに留まった、留まってしまったから。

 後悔しても、仕切れない。

 そこまでする程の外道だったのかと、読み切れなかった自身にも嫌気が差す。


「どういう・・・「陛下!!!」」

 問いただそうとした瞬間、別の声に阻まれる。

「何だ!こんな時に!!!」

「捉えていた者がっ!」

 それだけで理解したのか、マクシミリアンはマグリットを射殺さんばかりに睨み付ける。


 マクシミリアンはマグリットを捕まえる為、マグリットと関わりがあった全ての者を、現皇后を害そうとしたとして捕えたと、号外に記してあった。

 それを無視出来る筈など、無いのだ。


 マグリットは命を軽く考えている訳では無い。

 むしろ、何度も何度も死んでいる分、他者よりも重く、感じているのかもしれない。

 自分の所為で巻き込まれた者達を助けない選択など、有りはしない。


 変わりに、自身の命は、誰よりも軽い。



 マクシミリアンの前に現れたのは、その捕らえられた全ての者を救い出してから。


 ポタリと剣から血が流れ落ちる。

 誰よりも他者の命を尊重しているマグリットが、他者を傷付け此処に立つ。


「殺したのか?」

 逃げ出さないように、監視していた者を。

 そんな言葉になってはいないものを、目を見て言いたい事を理解する。

「だから?」

 コテンと、何でも無い事の様に首を傾げる。


「公爵令嬢が、人殺し?

 随分と落ちぶれたようだなぁぁ!!」

 狂ったように、楽しげにマクシミリアンは叫び嗤う。


 確かにマグリットにとって他者の命は、重い。

 けれど、そこにはやはり優先順位がある。

 その為ならば命を刈り取る事に、戸惑っている場合では無いのだ。

 巻き込んでしまったのであれば、少しでも責任は取る。


 その所為で、他者の命を背負ってしまおうとも。



「落ちぶれたつもりは、ございません。」

 そう言って、持っている剣に無詠唱で浄化の魔法を掛ける。

 血が、魔法で消え去る。これで、切れ味が悪いという事は無いだろう。


 皇宮は、特殊な場所で。

 攻撃系統の魔法が使えない様に、防御結界が張られている。

 転移や浄化魔法は使えるようだが。

 解析すれば、何とかなるのかもしれないけれど、何処で結界が張られているのかは、秘匿されておりマグリットでさえ知らない。


 そしてマグリットに巻き込まれた者達を、少しでも長い時間拘束させられる事を容認する事は、どうしても出来なかった。解析自体にどれ程の時を必要とするのか判断つかない。仮にも此処は皇宮で、簡単な結界でないのは間違い無いのだ。

 どんな扱いをされているかもわからない。そんな所に置いておくなど許される事では無い。助けに来たのが早かった事もあり、まだ何もされては居なかったが、助けに入るまで長くなれば長くなる程、どういう扱いになるかはわからない。


 自身が危ない目に遭おうとも、それはそれで問題無い。

 どうせ、処刑される。

 此処で逃げ切った所で、同じ様に人質が取られれば同じ事を繰り返すだけだ。

 それならば、誰よりも軽い、自身の命を使う方が良い。そうマグリットは思う。



 剣を構える。

 ハッタリであろうとも、構え方は様になっていると思う。

 強くなれるほど鍛錬は出来なかったけれど、五回目の時に良い師を持てたから。


 剣を構えた事で、マクシミリアンの周りにいる護衛達にもより一層の緊張が走る。

 防御結界に、身体強化は阻まれた。


 チッと小さく舌打ちをして、走り出す。

 当然ながら相手も反撃をしようと、剣を抜きマグリットを迎え撃つ。

 そして剣が触れる、瞬間。

 マグリットの姿が掻き消える。


 剣を合わそうとした人物は、驚愕し動きが一瞬だが止まる。

 その隙にその者の後ろに現れ、背中から斬り付ける。


 剣技では敵わないが、魔法では負けない。

 攻撃魔法が使えないのならば、それ以外に使えそうな魔法を使い少しでもダメージを。

 そう思うも、やはり皇帝陛下となったマクシミリアンの周りに居るだけある。

 意表を突いた筈であるにも関わらず、背中に傷は付いたものの咄嗟の判断なのか、前方に走り出しており死に至らないどころか、気を失わせる事さえ敵わなかった。

 一人、戦闘不能に陥らせる事が出来ただけ僥倖か。



 相手側も魔法を使えないのは同じ。そうして少しずつであるが、拙い剣技であっても使える魔法を駆使し、相手側に傷を付けていく。

 けれど多勢に無勢。

 転移で現れた先にだって敵はいる。

 そうして少しずつ少しずつ、マグリットは追い詰められていく。

 戦闘不能に出来たとて、致命傷を与える迄は及ばない。腐っても流石は、この国の最高戦力。




 そして、戦況が変わるーーーーーー



 マグリットが転移で消え、現れた時を狙って。

 一人の騎士に捕まってしまう。

 しまったっ!と思った一瞬。

 その隙を突いて、首に何かを付けられる。


 それが何かと認識した瞬間、此処までか・・・と悟る。


 それは魔封じの枷で。

 転移魔法などのものさえ、使えなくなった事を意味する。

 捕まっているこの状況から抜け出せたとしても、マグリットの剣技では此処にいる者達にはどうあったって勝てやしない。


 そもそも此処まで抵抗出来た事さえ、戦闘技術の無いマグリットにしては有り得ない程の功績で。




 そしてそのまま牢屋へと入れられる。

 此処に入っているのは、多分長くは無いであろう。

 いつも牢屋に入るのは、婚約破棄後から皇帝陛下に即位するまで。

 今回はもう既にマクシミリアンは皇帝陛下となっている。

 おそらく此処に入れられたのは、処刑までの準備期間。


 後悔など、無い。

 ただ、祈る。

 須くは、マグリットと関わってしまった者達の安寧を。




 そして異例の速さで処刑が執行される。


 断頭台の前に立つと、全ての感情が削ぎ落とされた様な気分になる。やはりこうした直接的な処刑方法は、恐怖を煽るものなのだろうか。


 戦って誰かに胸を刺されるよりも、ジッとしながらいつ首に落ちてくるかもしれない刃物を待つ方が、余程怖いのかもしれない。だからこそこうして断頭台の前に来ると、何も感じなくなるのかもしれない。恐怖を、感じない様に。無意識に感情を閉じ込めて。


 民の罵詈雑言が断頭台の下から聞こえる。

 けれどどれもが意味を持った言葉として、マグリットの耳には入って来ない。


「罪人マグリット・イングラム=カンバーラント!

 陛下の婚約者という立場から現王妃様を嫉妬の感情から殺害を企てた。

 従ってカンバーラント公爵家の爵位、又領地を没収。

 そして王族殺害未遂の罪で斬首刑に処す。」


 あんな立ち回りをしたにも関わらず、結局は嫉妬して殺害を企てたと言うのかと、その口上を述べているものを呆然と見つめる。

 皇帝陛下殺害未遂、皇宮所属の騎士を害した、何でも良い。そういったものであれば、やった事は間違い無いのだから文句は言わない。

 なのに此処まで来てなお、嫉妬だと言うのか。そこに固執するのは一体何なのか。


 あんな好きでも何でも無い男の為に、死ねと、そう言うのか。

 あんな子供みたいな男を好きだと、全ての者に思われるまま死ななければならないのか。

 あんな何も考えていない馬鹿を愛している、とそう思われるのか。


 悔しくて悔しくて、逆に何も言えない。

 どうせ死ぬと、飲食を怠ったのも原因か。喉が張り付いて言葉が出ない。


 そしてそんな理由で、カンバーラントの領地は没収されるのか。

 ごめんなさい。

 お父様。

 お母様。

 お兄様。


 ボロボロと止め度なく、涙が溢れる。

 悔しくて。

 悔しくて。



 もう一度、なんて。

 こんな風になっても、やっぱり思えない。

 けれど。

 此処で終わったとて。

 呪い殺せれば良いのに、と。




 それだけを、願うーーーーーーー











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