取り敢えず学園再開前日です
それからはあっという間に長期休みも過ぎ去ってしまう。
けれどやりたい事は粗方済ませたかな、と言う感じだ。
他国に調査に向かわせているノクトの所へも行ったし。フレデリックと皇帝陛下とも今後の話も出来た。
結局は解毒薬を解析させる事にしたようで、その解析が終わるまでは現状維持、と言った所か。
ただしこれ以上の体調不良を起こさないように、新たな毒が入った物の摂取は極力避けてもらう。
毒に関しての情報は全てノクトに一任しているため、皇帝陛下に伝える様に言ってある。
毒が入った物だけを残していては流石に怪しまれるため、見つからない様に破棄する事となった。
そして皇帝陛下とフレデリックの確執の方は、伝え聞いた話によればぎこちなさは残るものの、概ね解消出来たようである。
親と子としての愛情の示し方がわからない等のさまざまなな要因があるだろうが、結局のところは家族としての話し合いが全く無かった事が、原因なのだ。
それが出来れば、問題なかった事。
マグリットには皇帝陛下はちゃんとフレデリックにもマクシミリアンにも、愛情を持っている事はわかっていたし、その逆も然りである。
二人の母親である皇后皇妃殿下が、間にいたのも良くなかったのであろう。皇后皇妃殿下は互いの子供を皇帝陛下へと近寄らせる事を良しとしなかった。そしてその行動は、皇帝陛下をも制した。
皇帝陛下自身は、皇后皇妃どちらとも特別では無かった。
どちらにも、愛情ひとつ無かった。
だからこそ、公平に行動しようとした結果であったのだ。
皇帝陛下自身も、親に親らしい愛情を注がれていなかった事も原因かもしれない。賢帝と言われた殿下達の祖父も、国政ばかりで家族を蔑ろにしていたのは有名な話。
だからこそ、血の繋がりのない皇位継承に関係の無いマグリットが可愛がられたのだ。けれどそれも、子に向ける愛情というよりかは、偶に会う親戚に向ける愛情、といったものであった。
取り敢えず、今後どうするかはある程度決めたこともあり、肩の荷が降りた気さえする。
しかしそうは言ってられない。
長期休みが終わり、学園が始まる。
やはりマグリットは前日まで公爵家の屋敷には帰らなかったが、兄であるアレクが上手い事言ってくれていたようで、詰め寄られる事は無かった。が、アレクにはジトーっと恨みがましい目で見られた。
流石に申し訳無かったな、と今度埋め合わせをしようと決める。
明日から学園だと、早く休めと自室へと押し込められたものの、やはり眠れない。
かと言って、帰ってきてすぐにこっそり出て行くのも、それはそれで流石のマグリットもどうかと思うのだ。
ベッドへと寝転んで、少し、思い出す。
ーーーーーーーーー
「魔物が、増えてる?」
どういう事ですか?とマグリットはギルドマスターに問い掛ける。
「調査はさせているが、何故なのかはわかっていない。」
「以前の依頼にあった魔族との関係性は?」
しかしやはり何もわかっていないのか、頭を横に振るばかり。
けれどマグリットには、その二つが無関係とは思えない。
他国に居るノクトからの報告では、魔物が増えているなんてものは無い。報告するものでは無いと思って言っていないだけ、という可能性もあるが、それは流石に無いと思う。
つまりは、魔物が増えているのはこの帝国のみ。という事。
実際、ギルドも世界中にあるが、魔物が増えているのはこの帝国だけの様だとギルドマスターは唸る。
魔族は魔物を従わせる術を持っているという。
本当かどうかは、わからない。
魔族に関する情報は少な過ぎるのだ。
魔族が住む場所は遠く、情報を手に入れる事も容易では無い。
けれど魔族が人間に、友好的な感情を持っていない事くらいはわかっている。
つまり魔族が侵攻してきたとしても、不思議では無い。
が、帝国だけ。というのか不可解である。
以前の魔族はノアに託したが、自爆用魔石を持っていた様で、あっという間に自爆し死んでしまった事もあり、情報らしい情報は手に入らなかった。
わざわざそんな物まで用意していたとは、用意周到にも程がある。
しかもあっさり死ぬ事を選ぶとは、見上げた忠誠心である。
「もうすぐ、長期休み、終わるんだよな?」
ギルドマスターの表情から、絶望感が漂う。
それ程に、切羽詰まっているのであろう。
場所柄、帝都に近いだけあってギルド員も多く、実力者も多い筈だが手が回っていない様だ。
「終わりますが・・・」
「だよなぁ?」
はぁ、と溜息ひとつ。
「仕方ありませんね。私とて民を見捨てる選択肢は、取れそうもありませんし。」
「いや、無理して欲しい訳では無いんだ!!
お前が倒れたらそれはそれで、困る。」
ブンブンと勢いよく手を横に振り、必死な様子である。
「倒れません。
それに今後どうなるかはわかりませんが、今の所Sランク級の魔物が多く増えている訳では無いのでしょう?」
流石にそんな事になっていれば、国を挙げての討伐が組まれている筈である。
「それはそうだが。」
「であれば、対処出来るうちはさせて頂きます。
それとこれを。」
そう言ってマグリットが渡したのは、ひとつのブレスレット。
「これは?魔石が付いているようだが・・・・・・」
「念話が出来るブレスレットですわ。」
「念話?」
渡されたブレスレットを見下ろす。
言うよりも実践とばかりに、マグリットはギルドマスターに腕につけるよう促す。それを受けギルドマスターは抵抗せずに付ける。
『聞こえますか?ギルドマスター。』
頭の中にマグリットの声が響く。
ブレスレットに向けていた目線を、勢いよくマグリットへと向ける。
「何だこれは!」
『念話用魔道具ですわ。』
見ているマグリットの口は、当然動いていない。そしてやはり頭に響く声が、勘違いでは無いのだと教えてくれる。
「そうか。初めて会った時にどうやってフレデリック殿下と連絡を取り合っているのかと不思議に思ったものだが、これが理由か。」
呆れたような、それでいて何とも言えない顔で溜息を吐く。
そもそも何の事情も聞かされていないのに、フレデリックと皇太子の婚約者であるマグリットが内密に連絡を取り合っているのを、見せつけられているのだ。
ギルドマスター的には、気付かぬ内に何かに巻き込まれやしないかと気が気では無い。
「使い方は・・・『魔道具の使い方なんぞ、大体は同じ様なもんだろ?』
そう言って使いこなすが、普通ならそうはいかない。
そもそも魔道具は高価な物。こんな簡単に使い方を理解するほど、使った事が無い者の方が圧倒的に多い。
『流石ですね。
フレデリック殿下に無理言って作って貰ったので、大切にして下さい。』
フレデリック殿下に作って貰った。と声に出さずに口をパクパクしながら復唱する姿は、なかなかに滑稽である。
『あと殿下は嫉妬深いようなので、気を付けて下さい。』
マグリットがそう言った瞬間。
後悔に襲われた雰囲気で。まさにガーンと言った効果音が付きそうな勢いで項垂れる。
嫉妬深い!弟の婚約者なのに、嫉妬深いとはどう言う事だ!!と思うも聞けやしない。
聞いては、いけない。
何故そんな事を、言うのだと。幾らでも知らないフリは、出来た筈なのだ。
それを許さないとばかりの発言をしたマグリットを、恨みがましい目で見てしまう。
その視線に気付きながらも、スルーを決め込む。
「それで私と連絡が取りやすくなった事で帳消し、と言う事で。」
連絡が取れるようになった事と、皇位継承に少なからず足を突っ込んだ事を天秤にかけろと、そう言っているのかと。
個人的には勘弁して欲しいのが、本音。
けれど国を守るギルドマスターとしては、Sランクと常に連絡を取れる術は大変魅力的で。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。」
苦渋の選択であった事は、想像に固く無い。
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そんな事があって、ギルドマスターと連絡が取れるようになったのは僥倖だったかもしれない。
今までのやり直しの中で、魔族が帝国へと入ってきたかどうかはわからない。流石にフレデリックも全てを把握している訳では無いのだ。
これが今まであった事なのか、今回だけなのか。
これが戦争と関係あるのか、無いのか。
それを早めに理解するには、ギルドマスターと密に連絡が取れる手段をとった事は、良かったかもしれない。
元々はそんなつもりでは無かった。
ただ、どうしても手に負えない事が有れば、と思っただけだったのだが。まさかの魔物の大量発生とは、想定外の事であった。
戦争と関係があり、民が危険に晒される危険性があるので有れば、マグリットが力を出し惜しみする理由は無い。
ただ、面倒な事になりそうだな、と思うだけだ。
今は取り敢えず、久しぶりに始まる明日からの学園生活の為に休む事が先決か、と目を閉じて休む事を優先させる。




