第49話 これで……恩返しになったかな……?
――カンカンカン
そんなけたたましいゴングの音が、試合終了を告げた。
俺は、朦朧とする意識の中でそれを聞いていた。
『なんと、決勝戦を制したのは……ヒバナですッ!』
次の瞬間、歓声や拍手が会場を震わせた。
ボロボロになった城は、光の粉となって消えていった。
ああ、そっか……勝ったんだな、俺たちは。
でも――
「あいつらが……」
試合に勝利することは、真の勝利ではなかった。
これはあくまで前提だ。
この後に、消耗し切った俺たちを狙って『影の集団』が襲いかかってくることなんて……容易に想像できた。
【花火視点】
「蓮君……?! 大丈夫ッ?!」
私は、闘技場の土の地面に倒れ込んだ蓮君の元に駆け寄る。
彼は、気を失って地面に横たわっていた。
「はな……び……?」
すると、蓮君は目を覚ました。
彼は薄らと目を開ける――
「ごめん……魔力切れっぽい……」
絞り出すような声でそう言った。
魔法を使うには、魔力を消費する。
あんなにも魔法を連発したのだから、こうなってしまうのも仕方がないか……。
「でも……すぐに……立ち上がるよ……だから……ちょっとだけ待って……」
蓮君はなんとか立ちあがろうとするも――
「あっ……」
力が抜けたのか、途中でバタリと倒れた。
「危ない!」
私は、そんな蓮君の体をなんとか受け止める。
,
「蓮君……お願いだから無理しないで……」
「でも……あいつらが……影の集団が……」
「大丈夫……後は全部、私に任せて! だって、私は蓮君の師匠でもあるんだよ?」
「でも……」
蓮君は、そこまで言うとパソコンの電源を落としたようにガクリと力を失わせる。
どうやら、再び気を失ってしまったようだ。
私は、そんな蓮君を少し遠くまで運ぶと、地面に寝かせた。
すると、どこからか高らかな笑い声が聞こえてきた。
御影だ。
「はっはっは! まさか、動きを追えないのに、タイミングを見計らってぶった斬ってくるとはなッ! いやぁ、やっぱりお前ら、最高だわ!」
「じゃあ君を楽しませてあげた見返りに、その手に持ってる武器をしまってもらえると嬉しいなぁ」
私は、武器を構えている目の前の3人に向かって微笑みかける。
どうやら、彼らはハナからこうする気だったようだ。
「大変残念だが……それは出来ねえなぁ! ……俺たちはなんとしてでも元の世界に帰んなきゃいけねえんだわ」
「そっかぁ……それは残念だね」
私も彼らに応じるように剣を構えた。
さっきは蓮君に助けられた。
……否、それだけじゃない。
今までずっと彼には助けられてきた。
だから、これは……神様が私に与えてくれた恩返しのチャンスなんだ。
この身を犠牲にしても、絶対に蓮君を守り切る……ッ!
私は前準備のために、ポケットに忍ばせた一本のエリクサーを取り出すと、口に含んだ。
決して飲み込まない、口に含むだけだ。
「どうやら、準備はできたみてえだなぁ? ……精々、頑張って抗ってくれよ?」
刹那――御影の姿が消えた。
どうやら、速攻で勝負を決めようとしているらしい。
私は、それに応じるようにギフト:〈神速〉を発動。
――ガキンッ!
刹那、剣と剣がぶつかり合った。
「……ふっ、流石の速さだな! ……でも、忘れてねえか? こっちは3人なんだぜ?」
そんなの知っている。
だから、私は――〈神速〉の出力を今の十倍まで上げた。
こんなことをすれば、体が耐えきれずに、全身の骨が悲鳴をあげ、血管がはち切れ、ありとあらゆる臓器が使い物にならなくなってしまうかもしれない。
でも、問題はない。
一定以上のダメージを受けるとブローチの光が消えて、即退場――そんな、ルールはもうないのだ。
ダメージを受けたら、口に含ませているエリクサーを飲んで回復してしまえば良いのだ。
勿論、痛みは感じるし、後遺症は残るだろう。
――でも……そんなの蓮君を守るためなら幾らでも我慢できる。
――絶対に蓮君は私が守るッ!
私は、風よりも速く、音よりも速く……この世の誰よりも速く駆けた。
――――――――――――――――――――
『い、一体、何が起こっているのでしょうか?! 試合が終了したかと思えば、突然、影の集団の御影選手が花火選手へ攻撃を始めましたッ!』
会場は騒然とする。
『――な、なあ……これって演武みたいなもんだよな?』
『――そ、そうよね?! パフォーマンスよね?!』
『――だ、だよな?!』
観客たちは、自分に言い聞かせるようにそう言った。
――その甘い考えがすぐに打ち破られることを知らずに。
「――な、なんだッ!? なんなんだ、この速さはッ!?」
闘技場にて――御影はあり得ないといった口調でそう呟いた。
今まで、自分と互角の速さであった花火が――自身の何倍もの速さで動き出したのだ。
「す、鈴原ッ! 七海ッ! 気をつけろ! あいつ、とんでもない速さで――あガッ?!」
刹那、御影の姿は消えた。
代わりに、轟音が会場を揺らし、闘技場の壁から巨大な砂埃が舞い上がった。
砂埃が晴れると、その先には……壁にめり込んだ御影の姿があった。
「剣を使わなかっただけ、優しいと思ってよね――かはッ!」
花火は、口から血を吐き出した。
彼女の筋肉は、はち切れ……骨は折れていた。
今まで感じたことのない痛みが彼女を襲う。
その痛みで失いそうになる意識を、彼女はなんとか舌を噛んで保つと――
「――負けられないんだから……」
震える手でポケットにある2本目のエリクサーを口にした。
そして、残る2人の敵を視界にとらえた。
すると、敵の1人――鈴原は驚愕で目を見開いていた。
「――あ、あんたッ! 一体、何をしたの!? ミカが一瞬で倒されるなんて……」
「さあね……私は、私にできる全力を尽くしただけだよ」
彼女は、深呼吸をすると――
「――大丈夫、痛むのは一瞬だけだから」
クレーターが生まれるほどの強さで、地面を蹴った。
「ちょ、ちょっと待って――うぐッ!?」
花火は、顔を青ざめさせている鈴原の顔面を殴った。
すると、御影と同じように彼女は壁に衝突した。
「最後は――七海ちゃん……私たちを裏切った代償を支払ってもらうね」
そして、花火がエリクサーを取り出そうした時――
「――させない……それを飲ませる前に私があなたを倒す――〈夜影嵐〉」
七海の影から無数の影の針が飛び出し、花火に襲いかかる。
「――そんなの、無駄だよ」
花火はエリクサーを持ったまま、駆け出した。
彼女は襲いかかる無数の影の針を紙一重で全て避けると、一瞬で七海に肉薄し――
「――私たちが感じた心の痛み、感じてねッ!!!」
その顔面を蹴り飛ばした。
――ドゴォォォンッ!
七海が壁に衝突すると、今までで最も大きな轟音を鳴らした。
花火はそれを――晴れやかなような、寂しそうな、複雑な表情で見つめていた。
「……蓮君は……? 無事……だよね?」
花火が彼の姿を探すと――蓮は、静かに寝息を立てて寝ていた。
彼女は、3本目のエリクサーを飲むと、ふらつく足取りで蓮の元まで歩いていく。
そうして、ようやく蓮の元に辿りつくと、花火はしゃがみ込み、彼の頭を撫でる。
「蓮君……私、蓮君を守り切ってみせたよ……! これで……恩返しになったかな……? 教えて……欲しい……な……」
――次の瞬間、彼女は力尽きたように地面に倒れ込んだ。




