第48話 決勝戦2
「あがッ!?」
俺の体は強い衝撃と共に吹き飛ばされ――壁に衝突する。
全身が痛むのを我慢して、すぐに立ち上がると、後ろを振り返る。
すると、ドス黒いオーラを纏った七海がこちらを憎らしげに見つめていた。
「――スズちゃんを傷つけた……許さない」
次の瞬間、彼女はとんでもない速度で肉薄してきた。
そして、鎌を一振り。
「くっ……」
俺は必死に剣で鎌を受け止めるも、彼女の猛攻は止まらない。
何より――
「なんだこの速度と膂力は……ッ!」
彼女の速度も力も……さっきの倍以上になっていた。
仲間を倒されることが、彼女が本気を出すトリガーなのか……!?
「まだまだ……ッ! 〈虚影具現〉」
すると、七海の影から――何人ものの影でできた七海の分身が這い上がるように現れた。
その影は、影で出来た鎌を用いて七海と同じように俺を攻撃してくる。
「くっ……」
俺は四方から、七海とその影たちに攻撃されていた。
影たちは、七海ほどの力はないが、何より数が多い。
そのせいで、俺は、全ての攻撃を捌ききれず、ところどころに傷を受けていた。
ブローチは……徐々に光を失っていく。
これじゃあ……らちが開かない。
俺は七海の攻撃を避けた瞬間、影たちの攻撃を避けながら魔法を発動する。
「断ぜ――」
「――させない」
七海の足が俺の顔面にぶつかり、俺は吹き飛ばされた。
「あがっ?!」
完全に、俺が〈断絶〉を使うことを読まれていたのだ。
俺は痛みに耐えながら、なんとか立ちあがろうとすると――
「〈影縫い〉」
一本のナイフが、どこからか飛んできた。
しまった……! と思った時にはもう遅く、俺の影にナイフは刺さる。
その瞬間、俺の体は金縛りにかけられたように動けなくなった。
七海はそんな俺を無表情で見つめながら、一瞬で接近してくる。
「これで……おしまい。あなたは悪い人じゃなかった……けど、運が悪かった。だから――私たちのために犠牲になってね」
七海はその鎌を大きく振り上げる。
その姿はまるで、死神だ。
魔法も間に合わない、回避はできない――絶体絶命。
どうにかなる術はないかと、必死に探すも……そう簡単には見つからなかった。
俺は咄嗟に目を瞑ることしかできなかった。
「――そんなこと、させないッ!」
しかし、次の瞬間に聞こえてきたのはそんな花火の声と金属音だった。
そう、花火がギリギリのところで攻撃を防いでくれたのだ。
「花火……!」
「今度は、私が蓮君を助ける番だから……ッ!」
「――おいおい、俺には構ってくれないのか?」
すると、赤い閃光と共に御影が花火の近くに現れた。
「くっ……」
花火の表情が苦悶に染まる。
流石の花火も、2人を同時に相手をするのはキツいらしい。
「両方とも……まとめて相手してあげるっ!」
その瞬間、花火の体がブレた。
〈神速〉によって、さらに加速したのだ。
カキン、カキンと幾つもの金属音が鼓膜を揺らす。
彼女は今、七海と御影の2人を相手に互角に戦っているらしい。
でも……あの速さでは彼女の体が持たない。
徐々にダメージを受けていき……数分足らずで退場になってしまうだろう。
この状況で俺にできることはなんだ?
体は動かない、魔法を使おうにも……俺は、御影を動きを捉えることはできないし、七海には避けられる。
どうしたら……一体、どうしたら……!
もっと俺の目が良くなれば――
「そうだ……空間魔法なら……」
俺にはこいつが、空間魔法があるじゃないか。
「〈短転移〉ッ!」
俺は〈短転移〉によって転移。
これによって俺の影の場所も変わった。
つまり、〈影縫い〉も無力化だ。
次は――
「空間魔法――〈空間認識〉」
すると、俺の脳内に周囲の物体や人の情報が流れ込んでくる。
しかし、御影の動きを完全に捉えることはできなかった。
脳の処理が間に合わないのだ。
でも、集中すれば一瞬だけ、御影の姿を認識できた。
たかが一瞬。
だが、俺にとってはそれが大事だった。
「花火ッ!」
勝ち筋は見えた。
俺は、花火の元まで駆けていくと――
「……七海ッ! 俺が相手だッ!」
七海の首元めがけて剣を一閃。
「ちっ……せっかくいいところだったのに……面倒」
七海は眉をひそめると、鎌で俺の剣を受け止める。
俺がやることその1。
ここで七海に力で押し勝つッ!
俺は全身から力を振り絞って、腕に伝える。
「絶対に……負けねえッ!」
「結局、力任せ? ……ヤケクソすぎ。ちょっと失望しちゃったかも……ッ!」
剣と鎌がぶつかり合い、火花が散る。
腕の筋肉がぶちぶちと音を立てる。
その音が、激しい痛みが、俺の脳に『もうやめろ』と語りかけてくる。
しかし、俺は舌を噛んで弱音を上げる脳を黙らせた。
絶対に負けない。ここで俺が負けたら、花火も終わり――つまり、試合に負ける。
それだけは嫌だッ!
また花火と共に屋台を周りたい、また花火と馬鹿言いながらダンジョンを探索したい、また花火と――
「――笑って生きていたいッ! そのためにもお前らの計画の犠牲になんて、なってやるもんかッ!」
俺は、狂ったように再び七海に剣を叩きつけた。
俺の剣と七海の鎌がぶつかると、より1層甲高い金属音が鳴る。
「ぁ……」
そして、そんな声を上げたのは――七海の方だった。
彼女は俺の腕力に押されて、少し後ずさった時に、足がもつれたのだ。
「そんな……」
その隙を俺が見逃すわけがなかった。
「はぁぁぁッ!」
俺は倒れ込んだ彼女の首めがけて一閃。
彼女のブローチは光を完全に無くしていった。
「……負けた……ただの力任せに……」
彼女は、理解できないといった様子でそう呟いていた。
俺はそれを無視して、花火の方向へ振り向く。
「――ッ! いい加減、負けたらどう?!」
「はん! 誰が負けてやるかッ!」
剣と剣がぶつかり合う金属音が空気を揺らす。
両者とも俺ですら追えない程の神速で動いているのだ。
「――〈空間認識〉」
俺は、花火の動きを一瞬だけ把握。
そして、彼女に一瞬、目線を合わせた。
普通なら無理だが……花火になら、これだけで伝わる。
「〈空間認識〉」
俺は保険のためにもう一度、〈空間認識〉を使った。
すると、こちらに駆け出そうとしている花火と、それを追う御影の姿が脳に流れてくる。
これで準備は万端。
花火には俺の背後に来てもらい、御影を誘き寄せるのだ。
まず、目を瞑る。
次に、剣を振り上げる。
最後は――
「ふッ!」
無心で剣を振り下ろすのみッ!
俺は、横を通り過ぎようとする御影を肩から切り裂いた。
次の瞬間、目の前には呆気に取られた御影の姿があった。
「どう……して……」
彼は膝から崩れ落ち、ブローチの光を失わせた。
タイミングは経験則だ。
花火の速さは追えないが……彼女とは何千回も一緒に戦ってきたのだ。
彼女と同じ速度で動く彼が『どれくらいの秒数でどれくらい移動するか』くらいは把握できた。
「……勝った」
俺は最後にそれだけ呟くと、安堵で意識を失わせた。




