第45話 楽しみにしてるね?
「どう……? 私たちの目的はわかった?」
七海ちゃんは一通り語り終えると、最後にそう告げた。
信じがたい内容だが……私は彼女の言葉を嘘だとは思えなかった。
「でも……それと私を殺すことに何の関係があるの? 私、関係ないよね……?」
「うん……あなたには関係はないかも。私たちが必要としているのは……あなたのパートナー。蓮だから」
「っ――?!」
蓮君を彼らは狙っている……?!
「ど、どうして? 蓮君を狙う道理なんてあなたたちにはないはず……ッ?! も、もしかして――」
その時、私の脳裏に蓮君が持っているギフトがよぎる。
彼が持っているギフトは、〈疾走〉……そして、〈空間魔法〉。
「うん……蓮が持ってるギフトは、私たちが故郷に帰るための鍵になる。だから、私たちは蓮を誘拐しようとした」
でも、と付け加えて彼女は言葉を続ける。
「蓮は予想以上に警戒心が強かった……ずっと隙を狙ってたけど、チャンスは一度たりとも来なかった。だから、私たちは警戒心の薄いあなたを誘拐しようとしたの……あなたを人質にすれば、蓮は来ざるを得ないでしょ?」
「一体、蓮君をどうするつもりなの?!」
「それは、私たちにはわからない……もしかしたら、死んじゃうかもしれない」
「ぁ……」
私のせいだ。
私のせいで……蓮君が……死んじゃうのだ。
悔やんでも悔やみきれない。
何なら、今すぐ舌を噛み切って死んでしまおう。
そうすれば、私に人質としての価値は無くなって――
「ダメ。それは許さない……〈影縫い〉」
次の瞬間、彼女はナイフを投げると、それは私の影に刺さった。
すると、私の体は金縛りにあったかのように動かなくなる。
「勝手に自害するなんて……絶対に許すつもりないから」
「っ……」
私は必死に体を動かそうと力を入れるも……びくともしなかった。
なんで、何でなの……!
「じゃあね……次に目覚めた時は全身縛られてると思うけど」
すると、私の体は徐々に影に沈んでいく。
「嫌……やめて……私はどうなってもいいから、蓮君だけは……!」
「ごめん……けど、じゃあね」
非情にも私の下半身の全て影に沈んだ。
蓮君は私に様々なものを与えてもらった。
あの子と出会わなければ、私はすでにこの世を去っていた。
こんなにもポジティブには生きていられなかった。
そんな蓮君に、恩を仇で返すようなことをしたくない。
「……誰か、お願いだから、私を――蓮君を助けて」
それだけを言い残して、私は足から頭まで影に沈んでいく。
私は最後の力を振り絞って、手を影の外へ伸ばした。
「――いや、俺よりも花火自身の心配してくれよ」
次の瞬間、私の手は掴まれた。
そして、勢いよく私は引き上げられる。
「ったく……大丈夫か? 花火」
「れ、蓮君……!?」
私を助けてくれたのは……蓮君だった。
やっぱり、彼はずるい。
一番来て欲しいタイミングで……本当に来てくれるのだから。
「気をつけて……あいつらの目的は……蓮君」
私はそれだけ言い残すと、安堵と体力の限界で、意識を失うのであった。
――――――――――――――
「気をつけて……あいつらの目的は……蓮君」
「俺……? ――って、花火?! 大丈夫か?」
俺は、脈を確認してみたが……どうやら、ちゃんと生きているようだ。
良かった……。
「でも……まさか、本当にセナが敵側だったなんてな」
俺は、目の前の桃髪少女と、横で膝をついているセナを見つめながらそう言う。
桃髪少女の見た目に俺は、見覚えがあった。
『影の集団』の七海だ。
唯の話と、この状況から考えるに……恐らく、セナは七海に操作されているモンスターのようなものだったのだろう。
「……嘘、どうしてここがわかったの……?」
「花火と全然連絡がつかないから死ぬ気で探したんだよ」
「ふ……ふふふっ」
すると、彼女は――突然笑い始める。
「なんだ……? 何がおかしい?」
「随分と仲間想いなんだね……でも、今は自分の心配をしたほうがいいと思うよ?」
次の瞬間、鋭い殺気が俺を襲った。
七海から……そして、背後からも。
俺は振り返ると――そこには、七海によく似た5人の少女が大鎌を構えて立っていた。
「なっ……嘘だろ、本人が操作しなくても大丈夫なのかよ」
俺は、武器になりそうなものがないか辺りを探すと……一本の鉄パイプを見つけた。
探索者が街中で武器を所持することは法律で禁止されているため、剣を持っていなかったのだ。
鉄パイプでも……無いよりはマシだろう。
「そんな武器で、勝てるかな……?」
「勝ってやるさ……」
俺は花火を担ぎながら、ギフト:〈疾走〉を発動させる。
すると、同時に5人の少女が俺に襲いかかってきた。
「っ……!」
肩めがけて振り下ろされた大鎌をサイドステップで回避。
すかさず鉄パイプを少女の頭に叩きつける。
これは人間じゃない、ただのモンスターのような何かだ。
そう思えば、殴ることに抵抗感はなかった。
「まだまだァ……!」
俺は、振り向きざまにもう1人の少女の頭に蹴りを入れた。
「っと……」
俺は頭を少し下げて別の少女の攻撃を回避すると、鉄パイプを持ってない方の手で腹を殴る。
これで3人目。
すると、残っていた2人の少女が同時に鎌を振り下ろしてきた。
「〈短転移〉」
俺は、〈短転移〉で少女の背後に転移。
すぐさま、頭を叩き割り――もう一体も、鎌を振り下ろしている隙に倒す。
「ふぅ……」
予想以上に弱い……?
予選で俺たちを妨害してきた少女とは、天と地の差だ。
すると、背後からパチパチパチという拍手する音が聞こえてきた。
七海だ。
「――流石、『影の最強』って呼ばれているだけあるんだね」
「お褒めに預かり、光栄だな」
「でも……もうちょっと、今の花火ちゃんのことも見てあげたらどう?」
「花火……?」
俺は、彼女に言われた通りに抱えていた花火に視線を移す。
すると……花火の首元には黒い斑点のようなものができていた。
「これは……?」
「それは、花火ちゃんを影に沈めた時につけた呪い……このポーションを使わないと1週間後に死ぬの」
七海は、緑色の液体が入った小瓶を揺らしながら妖艶に笑った。
死ぬ……花火が……?!
なら……力ずくでもあのポーションを奪ってやる。
俺が拳を握りしめ、地面を蹴ろうとすると――
「〈影縫い〉」
俺の体は、突然動かなくなった。
「最後まで話を聞いて? ……私は決して鬼じゃない……だから、一回だけチャンスをあげる」
「チャンス……?」
「明後日の決勝戦……そこであなたたちが勝ったらこのポーションをあげる……でも、もしも負けたらあなたの全てを――人権やギフト、起床から睡眠まで何もかもの権利を貰う」
「っ……」
つまり……それは、奴隷になるようなものだ。
「どう? あなた達にとっては、悪くない提案だと思うよ? ……まあ、拒否権はないんだけどね」
七海はふふっと微笑すると――
「じゃあ、明後日……楽しみにしてるね?」
それだけ告げて、影の中に消えていった。




