第42話 七海という少女?
「やったね! 蓮君!」
「ああ!」
楽屋にて――俺たちはハイタッチする。
あの日本最強と名高いグランセリアに勝利したのだ。
嬉しくないわけがなかった。
「ふふ……! じゃあ今日は打ち上げに焼肉かなぁ?」
花火が期待を込めた目線でこちらを見上げてきた。
いや、それって俺に奢れってことだよな……?!
「ったく……しょうがないな。焼肉行くか」
「やったぁ! 蓮君の奢りだー!」
やっぱり俺の奢りかい!
俺は苦笑いを浮かべた。
その後、俺たち近くの焼肉に行くために、部屋から出て廊下を歩いていると――
『――だーかーら! あんたがまた全員倒せばいいじゃない!』
『――はあ? 前回は俺が倒しただろ? 今回くらいはお前がどうにかしろよ!』
男女の喧嘩する声が聞こえてきた。
この声……もしかして……?!
そういえば、この後はあいつらの試合なんだっけ……?
「花火! 一旦、このロッカーの中に隠れるぞ!」
「へ?!」
俺は花火に囁くと、手を引っ張って近くにあったロッカーの中に、一緒に入る。
「ちょ……! な、なんで?!」
「しーっ! 影の集団だ!」
「だ、だからって……隠れる必要なくない?」
「もしかしたら、凄い秘密とか話してくれるかもしれないだろ?」
「だ、だとしてもさぁ……」
俺は、花火にそう囁くと影の集団の会話に耳を澄ませる。
『――じゃあ、ここは間を取って七海が倒せばいいんじゃないか?』
『――ダメよ! あんたも知ってるでしょ? 今は、七海ちゃんは別の任務をしていて、この体は例のあれなんだって……!』
別の任務? 例の……あれ?
俺はロッカーの扉の隙間から影の集団を覗くと……そこには、3人の男女が歩いていた。
強気そうな女が、もう1人のパーティメンバーである大人しそうな少女の肩に触れると――
『――だから、今日はこの子に無理させちゃダメよ? 壊れちゃうかもしれないじゃない』
『――へいへい……ったく、おっさんも変な任務を七海に任せるよなぁ……』
すると、彼らはそのまま俺たちを通り過ぎていった。
「……行ったか?」
しばらくした後、俺たちはロッカーの中から出た。
壊れる……任務……。
どうやら、影の集団は何かを隠しているらしい。
特に、あの七海という少女に関してだ。
「これは……警戒しないとな」
そうだ、花火は?
俺はふと花火の方へ視線を向けると――彼女は顔を熟れたりんごのように真っ赤に染めていた。
「れ、蓮君が……あんな近くに……」
「へ?」
「私……汗臭くなかったかな……?」
「いや、全然気にならなかったけど?」
「へ?! れ、蓮君?! 聞こえてたの?」
花火は、ピクリと体を震わせると、驚愕で後ずさる。
いや、聞こえてたけど……?
というか、俺に訊いたわけじゃなかったのか?
なぜか顔を真っ赤に染めてたし……謎だ。
「あーもう! これだから蓮君は! 絶対に高いお肉頼みまくってやるんだから!」
「へ? 俺が悪いの? これ?!」
「あったりまえでしょ?! 今日は5万円分くらい食べてやるんだから!」
頬を膨らませながら歩いていく花火。
え、ちょっと?! 俺の財布を考えてくれ?!
俺は花火の後を、急いで追うのであった。
――――――――――――――――――
『勝者は――影の集団ッ!!!』
そんな興奮した様子の実況の声が、スマホのスピーカから聞こえてきた。
どうやら、影の集団が準決勝で勝利したらしい。
つまり――俺たちの決勝の相手は影の集団に決定したということだ。
「そっかぁ……影の集団が相手かぁ……」
焼肉屋にて、お腹いっぱいになったのか、花火はお腹をさすりながら呟く。
ちなみに、こいつ……結局、言葉通りに5万円分食べやがった。
俺が何をしたっていうんだよ……。
「でも、やることは別に変わらないもんね?」
「そうだな……俺たちはひたすらに戦うだけだな」
ただ……やはり、七海という少女には警戒しなければならない。
今度、唯に彼女のことに関して聞いてみようかな?
「まあ、試合は明後日だし、今日は体を休めようか」
「そうだねぇ〜……ってなわけで、私はこの後、セナちゃんと原宿でスイーツ食べに行ってくるから!」
花火は当たり前のようにそう言うと、荷物を持って席を立ち上がる。
え? スイーツ?
「ま、まだ食べるのか?!」
「あったりまえでしょ? 焼肉の後は甘いものって決まってるじゃん! ……あっ、蓮君は来ちゃダメだからね? これは女子会なの。蓮君に関する愚痴を言ったりしてくるから」
「なんでよりにもよって俺の愚痴なんだよ……」
すると、花火は「ごちそうさまでーす!」と言って店から出ていった。
ったく……自由人だなぁ……。
「はぁ……」
俺はお会計をすると、帰路に着くのであった。
あっ、そうだ。
部屋に着いたら、唯に電話でもして、七海って人に関して聞いてみるか。
――プルルプルル
すると、3コールもしないうちに唯は電話に出た。
「唯? 今いいか?」
『――あれ? 蓮さんですか?! まさか、蓮さんから電話してくれるなんて……もしかして、私のカメラマンになる気になりました?』
「なってない! なってない! ……今日はあれだ、影の集団に関して相談があってな」
すると、一瞬、沈黙が走る。
『影の集団ですね……すみません、赤い石や早川さんについてはまだ調査が進んでいなくて……』
「ああいや、別にその件に関してじゃないんだ……影の集団のメンバーである七海って子について気になってさ」
『……もしかして、また女の子を誑かすつもりですか?』
唯の不機嫌そうな声が電話から聞こえてきた。
いや、『また』ってなんだよ!
まるで俺が日常的に女の子を誑かしてるみたいじゃないか……。
「ち、違う違う! ……今日、その子に関する変な話を聞いたんだよ」
『ふぅん……? 変な話ですか?』
「ああ……七海は“別の任務をしている”とか“この体はあれ”とか七海が戦うと体が“壊れちゃう”とか……そんなことを影の集団のメンバーが言っていたのを盗み聞きしちゃってさ」
『別の任務……でも、影の集団は今日は大会でしたよね? 別のことをしている時間はないのでは?』
「そうだよなぁ……でも、まるで七海って人が大会に参加していないみたいな口調だったんだよなぁ」
すると、唯は何かを考えているのか、しばらく黙り込むと――
『もしかして、七海という方は何かと入れ替わっているのでは?』
「何か?」
『ええ、例えば――』
唯は一拍おくと――
『予選にて……お二人をダンジョンで邪魔してきた少女なんかと』
そんな言葉を漏らした。




