第38話 啜る
【グランセリア視点】
「――やっぱり、ビバナは勝ったか」
灰色の髪の男――桐生は、スマホに映る男女の姿を見ながら、呟く。
「では、この調子だと……次の次に私たちが戦うのはヒバナですか……」
メガネをかけた1人の女性が男の言葉に答えた。
彼女の視線の先には、トーナメント表があった。
そう、いつの間にかに64もあったパーティは8つにまで絞られていたのだ。
その中でも、優勝候補とされているのは、このグランセリアと影の集団、ヒバナの3チームだ。
「多分、次もヒバナは勝つんでしょうね……早めに作戦会議でもしておきますか?」
「いや……不要だ。だって、彼らの戦い方を見てみなよ……作戦なんてありゃしない。そんな相手に作戦を立てるなんて……ナンセンスだろ?」
桐生は白い歯を見せながら、そう言った。
―――――――――――――――
「蓮君、飽きた」
「は?」
第3回戦が終わった後、休息のためにホテルに向かっていると、花火がそんな言葉を漏らした。
「飽きたって何がだよ」
「そんなの決まってるじゃん! ……ご飯にだよ! ホテルのご飯にはいい加減飽きてきたんだって!」
「はぁ?」
何を言い出すかと思えば……ただのわがままじゃねえか……。
そういえば、花火はいっつも配達サービスで、毎日違ったものを食べてるんだっけ?
この贅沢者め……。
「ねえねえ、どこかに食べに行かない? それか、蓮君が作ってくれてもいいんだよ?」
「後者は絶対に嫌だ」
「ちぇっ……じゃあ、どこかに食べに行こ?」
「それも、ついこの前、屋台で色々食べに行ったばかりだろ……?」
「そうだけどさぁ……」
花火はつまらなそうな表情を浮かべる。
「じゃあ、でも今日、私活躍したじゃん? いいでしょ? ね?」
「そうだけど……なんか、食べたいものでもあるのか?」
すると、花火は顎に手を当てて、しばらく考えると――
「麺類かなぁ……ホテルでは食べられないようなこってりとしたラーメンとかが食べたーい!」
ラーメンって……まるで男子高校生かよ。
「ねえねえ、お願いだよぉ……流石にラーメン屋さんに女1人で入るのは勇気が必要じゃん?」
花火は俺の首に腕を回すと、甘えるような口調でそう言ってきた。
「へいへい、わかった、わかったから……」
ラーメンかぁ……。
近くにいい感じのところがあるだろうか。
そう思って俺はスマホを取り出そうとすると――
「――あれ? あそこに居るのってセナちゃんじゃない?」
花火がそんなことを言ってきた。
花火の視線の方向を見ると、そこには本当にセナが居た。
彼女はどこかへ向かっている様子だった。
すると、彼女もこちらの目線に気づいたのか、こちらに近づいてくる。
「こんにちは、蓮と……彼女さん?」
「私のことは花火でいいよ。こんにちは、セナちゃん。今日はどうしたの? どこかに向かってるっぽかったけど……」
「ん……ラーメン屋さんに行こうと思ってた……」
「ら、ラーメン……!? セナちゃん、そのラーメン屋さんってこってり系? それともあっさり系?」
「こってり系だけど……どうしたの?」
すると、ちらりと花火が俺を見てきた。
一緒についていきたいのだろうか。
俺は頷いておく。
「じゃ、じゃあさ……私たちもついていっちゃダメ? 嫌なら席は離すからさ」
「うん……いいよ。人は多い方が楽しい……から」
「やった……! 探す手間が省けたよ〜」
そうして、俺たちはセナに同行することになったのであった。
――――――――――――――
「ここ」
セナについていった先にあったのは、小さな個人経営の店だった。
店先には、数人の列ができており、豚骨の匂いが食欲をそそる。
これは期待しても良さそうだ。
「ちなみに、セナはどうしてこのお店を選んだんだ?」
「……前に偶然見つけたの……その時、すっごく美味しかったから」
「なるほどな……じゃあラーメンはよく食べるんだな」
「うん、ラーメンは食べ物の中で一番好き……大好物」
セナは目を輝かせ、口角を上げながらそういった。
本当に好きなんだな、ラーメン……。
そうして、しばらく待っていると俺たちの番がやってきた。
このお店はどうやら、食券制らしい。
俺たちは、店員さんに様々なメニューが書かれた券売機に案内された。
「私は……豚骨にする。……勿論、大盛りで」
セナは流れるように券売機にお金を入れると、豚骨のボタンを押した。
「んじゃあ、私も同じので……チャーシューだけ増やしちゃおっかなぁ〜」
花火は大盛り豚骨ラーメンと、チャーシューのボタンを押す。
え、大盛りはみんな前提なんだな……。
「じゃあ、俺も大盛りの豚骨で……卵だけ増やすか」
勿論、ここで男子高校生の俺が負けるわけにはいかない。
俺も大盛りの豚骨と卵のボタンを押し、店員さんに食券を渡した。
「――では、あちらのお席でお待ちください!」
俺たちはカウンター席に案内された。
俺たちは、『セナ、俺、花火』の順番で座っていく。
「……そういえば、2人は3回戦目も勝ったんだっけ……? おめでとう……!」
「ありがとうな……とはいえ、戦いはまだこれからだよ。あのグランセリアと影の集団が居るからな」
「頑張って……応援してる」
『――豚骨大盛りのお客様〜』
すると、3つのラーメンが運ばれてきた。
こってりとした豚骨ラーメン……豚の脂の匂いが鼻腔を刺激し、食欲がそそられる。
スープの上には、チャーシューやメンマ、ノリや卵が乗っており、美味しそうだ。
「いただきます」
俺たちは、箸を割ると、ラーメンを啜っていく。
次の瞬間、匂いと共に濃厚なコクのある豚骨の味が襲いかかってきた。
ああ、これ……美味いやつだ。
俺は一口食べた瞬間に、そう確信した。
「ん〜! これ、超美味しいじゃん! セナちゃん、すごいね……よくこんなお店知ってたね?!」
「ご飯屋さんを開拓するのは……得意だから」
セナは褒められて嬉しかったのか、得意げにそう言うと、彼女もラーメンを啜っていく。
そうして……いつの間にかに、俺たちは会話も忘れてラーメンに集中するのであった。




