第37話 後は任せてよね……!
「花火、そっちは任せたぞ!」
俺は、闘技場の草原フィールドにて、 花火に対してそう言うと――
「勿論!」
と、返事が返ってきた。
俺は視線をもう1人の敵に向ける。
「――くそぉ! この野郎……! 化け物どもめ」
剣士の男が、そんな台詞を吐き捨てながら剣を構えて必死に抵抗してくる。
が、無駄だ。
「誰が化け物だって? 〈短転移〉」
「う、後ろか?!」
彼は、急いで振り返り、そのまま剣を振るう。
が、後ろには誰もおらず、剣は空を切った。
「俺の勝ちだな」
転移魔法を使われれば、後ろを警戒するのが普通だ。
だからそこ、敢えて同じ場所に転移したのだ。
いわばフェイクである。
俺は彼の背中を見つめながら、一気に駆け出す。
そして、無防備になった背中めがけて一閃。
「ぐあっ!」
そんな苦しげな声とともに、彼の胸のブローチから光が失われた。
どうやら、ほぼ同時に花火の方も終わったらしく、さっきまであった草原は光の粉になって消えていく。
これにて俺たちは、2回戦目も無事に勝利を収めることができた。
――――――
「う〜ん、なんというか……順調だねぇ」
花火がホテルの部屋のソファに寝っ転がりながらそう言った。
その言葉には、概ね同意だ。
あまりにも順調すぎるのだ。
「そうだな……てっきり、『影の集団』がもっと手を出してくると思ってたんだけどな」
今の段階では、まだ様子見をしているのだろうか?
またしても、妨害をしてくる可能性は十分あるので気をつけなければならない。
すると、花火が何かを思い出したかのように口を開く。
「そういえば、早川の件はどうしたの……? 蓮君、少し前に唯ちゃんに空き瓶を渡してたよね?」
「ああ、その件ね……どうやら、クロノテクノ社で今、調べてくれてるらしいけど……あんまり進捗は芳しくないらしい」
「へえ……赤い石と同じで、あの会社でも解析できない特殊な技術が使われてるんだ」
「……というか、ほとんど使われている成分はあの赤い石と変わらないらしい」
すると、花火は眉をしかめる。
「つまり、あの薬は赤い石を液体化させたものってこと?」
「ああ、大体その認識で間違いないだろうな」
あの赤い石を人体に注入するなんて……奴らは一体、何を考えているんだ?
というか、人の心とか無いのかよ……。
「ちなみに、早川はまだ記憶が戻ってないらしいぞ」
「そう……でも、力を求めるあまり手段を選ばなかった彼の自業自得だよね……まあ、そこに漬け込んだ奴らも大概だけど」
俺はその言葉に頷いた。
「なんであれ、犯人は影の集団だろうね……」
「警戒は怠るなよ?」
「もっちろん! 私が捕まるような人間に見える?」
「そう言ってる人が一番怖いんだよなぁ……」
俺は苦笑いを漏らす。
俺たちがそんな感じで影の集団の動きを警戒していると……
いつの間にかに三日が経過し、次の戦い――3回戦目の日を迎えていた。
――――――――――――――
「花火? 今回は作戦はどうするんだ?」
試合が始まるまで、闘技場の中で待っている時に俺は花火に問いかけた。
が――
「いや、作戦なんて、あるわけないか」
「おっ、蓮君も私に作戦を聞くことが無駄ってことに気づいちゃった?」
「なんで自慢げなんだよ……全然いいことじゃないだろ……」
俺がため息をついていると……もう試合が始まろうとしていた。
『それでは、試合を開始します!』
そんな声を皮切りに、俺たちは走り出した。
フィールドルーレットで選ばれたのは雪原。
足場に最も気をつけなければならないフィールドだ。
俺は、敵パーティの構成を見渡す。
タンク、剣士、弓使い、魔法使い、回復魔法使い……超スタンダードな構成だ。
それだけあって、強い。
『――まずは、男の方を狙えッ! あいつの方が弱いはずだ!』
すると、そんな声と共に無数の矢と氷の槍が飛んできた。
どうやら、俺を先に処理してから花火に集中する作戦のようだ。
作戦は悪くないと思うが……方法がナンセンスだ。
「〈転移門〉」
俺は立ち止まると、自分の目の前に〈転移門〉の入り口と出口を展開。
すると、俺めがけて放たれた矢や魔法は全て〈転移門〉の中に入っていき――出口から彼らの方向へ飛び出していく。
〈転移門〉によって、矢や魔法の向きを変更して、彼らにそのまま返してやったのだ。
まさか、自分たちが放った攻撃が返ってくるとは思っていなかったのか、彼らは混乱していた。
これだけ時間が稼げればもう大丈夫だろう。
俺はとんでもない速度で敵パーティに肉薄する花火を見ながら、勝ちを確信した。
「――後は任せてよね……! 〈ディメンション・プレス〉ッ!」
刹那、敵パーティの周りの空気が歪んだ。
同時に彼らはまるで重い石を体の上に乗せられたかのように腰を曲げる。
〈ディメンション・プレス〉……それは重力を増幅させ相手にダメージを与える重力魔法だった。
『――ぐあっ?! なんだなんだ?!』
『――お、女の方だッ! 女がもう近づいてきて魔法を使われたんだ!』
『――く、クソォォォ!』
彼らは苦悶の表情で地面に這いつくばると――しばらくした頃に、全員のブローチから光が消えた。
俺たちは無事に第3回戦も勝利した。




