第36話 赤い閃光
「コ、コホン! き、気を取り直してまた屋台を回ろっか!」
花火は、ようやく顔から赤みが消えたようだった。
「そ、そうだな……! 次はどうするんだ?」
「うーん……蓮君は食べたいものとか、無いの?」
「俺は別にお腹空いてるわけじゃ無いからなぁ……」
甘いものは好きだが、今は特段、コレが食べたいってものはないなぁ……。
「でも、ずっと私が選んでばかりなのも申し訳ないからなぁ……あっ! それじゃあ、あれとかどう?」
花火が指を差した方向には……『チョコバナナ』と書かれた屋台があった。
花火……俺がチョコとバナナの組み合わせが好きなことを知ってたのか……。
「いいな、チョコバナナ……! 行こうか」
「ふふっ……私、できる女だと思ったでしょ?」
「そうだな、そのセリフがなかったらな!」
「へ? ちょ、ちょっと?!」
ドヤ顔をする花火に、俺はため息をつく。
いつも詰めが甘いというか……一言余計なんだよなぁ……。
俺はそんな花火には目もくれずチョコバナナの屋台に向かうと、屋台の前には数人の列ができていた。
俺が最後尾に並ぶと――
「あれ……? 蓮……?」
その時、ふとコチラを振り返った1人の少女が俺の顔を見て、そんな言葉を漏らした。
前髪で隠れた片目に、紫色の瞳……もしかして――
「セナ……?」
「――蓮君! ちょっと待ってよぉ! ……って、どうしたの?」
置いて行かれた花火は、駆け寄ってくると……俺が誰かと話していることに気づいて首を傾げる。
その顔は、徐々に怪訝な表情に変わっていき……
「……もしかして、また誰か誑かしたの?」
「へ? た、誑かす?!」
「違うの? ……でも、こんな人、私、知らないよ?」
「初めまして……彼女さん? 安心して……蓮君とはただの知り合い」
「か、彼女さ……ッ! いやいや、もう私はその手には騙されないからね!」
花火は一瞬、顔を赤くすると何かを振り払うように、ぶんぶんと頭を振った。
「本当にただの知り合い? それにしては、呼び捨てで仲良さそうだし……」
「うん……大丈夫。本当にただの知り合いだから……2人は今日はデート?」
「いや、デートというか、そもそも付き合ってすら――」
そこまで言ったところで、横から鋭い視線を向けられた。
あー……説明するのが面倒だから訂正するなってことですね、はいはい……。
「そ、そうだね。で、デートだよ」
「……? そっか……じゃあ、気をつけて……最近、ここら辺で行方不明者が何人か出てるって話だから……」
「行方不明者?」
「うん……人攫い? らしい……彼女さんをちゃんと守ってあげてね」
「そ、それは勿論」
花火なら、俺に守られる間もなく自衛しそうだけどな……?
そう思って、ふと花火を一瞥すると、ほんの少し彼女の頬は赤くなっていた。
どうしてだ? なんだか、今日の花火はよくわからない。
「――お次の人ー! 注文をお伺いしまーす!」
すると、セナが注文する番が回ってきたため、会話が途切れる。
人攫いねぇ……。
このご時世にそんな物騒なことあるものなんだなぁ……。
――――――――――――――――
【影の集団視点】
花火と蓮がセナと出会ったのと同時刻。
「ふん、雑魚狩りはあんまり俺の趣味じゃねえんだけどなァ……」
闘技場の草が風に揺れる草原フィールドにて、1人の男――御影がかったるそうに剣を鞘から抜く。
「じゃんけんで負けたんだから、ちゃんと1人で全員倒して着てねー!」
「うっせぇ、鈴原! 言われなくてもやりにいくわ!」
御影は、ため息をつくと……地面を強く蹴った。
刹那、その場から御影の姿が消える。
『――な、なんだ? どこに行ったんだ、あいつ?!』
敵パーティから困惑の声が漏れる。
キョロキョロと辺りを見渡す敵パーティ。
次の瞬間、彼らの背後を赤い閃光が走った。
『――え? い、今……何かが掠ったような……?』
『お、お前! ブローチが……っ!』
『へ?』
男は自分の胸につけていたブローチに視線を移すと……ブローチからは光が消えていた。
『ど、どうなってんだよ、これ?! ――ぐあッ?!』
またしても、赤い閃光が走るとパーティメンバーのブローチから光が消えていく。
『あ、相手はどんでもない速さで動いてるぞ?! お前ら、とにかく相手を近づかせるな! 魔法をぶっぱなせ! 剣を振り回せ!』
『わ、わかった! 〈フレイムバレット!〉』
しかし、彼らの抵抗虚しく、赤い閃光はありとあらゆる方向から彼らを襲い、ものの30秒で全員のブローチから光が消えた。
「ふぅ――終わったぞー、鈴原ー、七海ー!」
「あら、あんたにしては早かったじゃないの。1時間くらいかかると思ってティーセットを持ってきのだけれど……」
そう言いながら、彼女は広げたティーセットを残念そうに片付けていく。
「お、お前……いい加減にしろよ? 流石に舐め過ぎだろ?!」
「わ、私も……紅茶、飲みたかった……」
「って、七瀬もそっち側かよ?!」
御影は、呆れで苦笑した。
影の集団……その力は、予選ランキング1位に恥じぬ実力であったのだ。




