第28話 いや……勝手に勘違いしてもらっちゃ困るんですけど……!?
「確か、こっちの道だな」
俺は店の名前をマップアプリで検索し、場所を調べながら歩く。
大通りから外れた道だからか、大通りよりは圧倒的に人通りは少ない。
俺たちの他にちらほらと人がいる程度だ。
「そういえば……セナはどうしてパンケーキが食べたかったんだ?」
俺は、ふと疑問に思ってセナにそう質問してみた。
すると、セナは顎に手を当てて、少し考える仕草をすると――
「そういう気分だった……それだけかも」
そう言った。
「それ、答えになってるのか……?」
なんとも不思議な人だ。
一体、どんな暮らしをしたらこんな不思議ちゃんが生まれるんだ……?
「ちなみに、出身はどこなんだ?」
「出身は山梨県」
「山梨か……方言とかはないんだな」
「うん……親は両方とも関東の人だったから」
「へえ……」
方言がないから、少し不思議に思ったが……親が関東生まれなのか。
それなら、納得だ。
「おっ、あと数分で着くみたい――」
「――きゃぁぁぁ! スリよ!」
背後から、そんな悲鳴が聞こえた。
悲鳴の方向を振り返ると、茶色い鞄を抱えてどこかへ走っていく男と、その男に手を伸ばすお婆さんの姿があった。
スリ……?!
俺は犯人の男を捕まえようと、地面を蹴ると――
「捕まえる……!」
俺よりも速く、セナが走り出した。
セナは俺よりも速い速度で、ぐんぐん男に近づいていき――
「捕まえた」
「なッ!?」
男の腕を掴み、地面に押し倒した。
彼女はそのまま、男を押さえつけ、動けないようにする。
流石は探索者だ。
「蓮……これ、どうする?」
「警察に突き出そう」
その後、俺は警察を呼び、スリの男はパトカーで運ばれていった。
「それにしても、凄い速さだな。セナ……」
地上では基本的にギフトの使用は禁止されている。
そのため、ギフトがない状況では、セナは俺よりも速いということだ。
ギフト無しとはいえ、B級の探索者に速さで負けているなんて……少し落ち込む。
「……わ、私はこれだけが取り柄だから……」
「じゃあ……パーティだと役割は斥候とかなのか?」
「うん……私は斥候。だから素早さは鍛えてる」
斥候はモンスターの探知や罠感知……そして、周りの状況の偵察。
この偵察において、斥候の足の速さはかなり重要視されている。
え? 俺と花火?
……いや、そもそも俺たちに斥候なんて概念はない。
とりあえず、突っ込んで倒すだけだ。
「そういえば、セナは怪我とかはないか?」
「け、怪我……? 大丈夫。相手はそんなに強くなかった」
俺は彼女の体を一瞥する。
探索者としてある程度身体能力が強化されているとはいえ、こんなにも華奢な体つきをしているのだ。
「ほ、ほら……蓮。パンケーキ屋さん、行くんでしょ……? 動いたらお腹すいた……速く連れて行って……」
「はいはい」
一瞬、セナが凄いと思ったがこのセリフで台無しだよ。
俺は苦笑いしながら、彼女をパンケーキ屋に案内するのであった。
――セナが少しだけ頬を赤らめていることに気づかず。
――――――――――――――――
「ここが……蓮のおすすめのパンケーキ屋さん?」
俺たちはパンケーキ屋の前まで来ていた。
そこそこ人気らしくパンケーキ屋の前には数人の列があった。
「ああ! ……とはいっても俺も久しぶりに来るんだけどな」
俺は実は、昔にここら辺に住んでいたことがあり、偶然美味しいパンケーキ屋さんを知っていたのだ。
とはいえ、5年ほど前の話なので、味が変わってないといいが……。
十分ほど並ぶと、店員さんに店内に案内された。
「では、こちらの席へどうぞ」
「ありがとうございます」
俺たちは席に着くと、メニューを広げる。
俺はメニューに軽く目を通していくと……どうやら、あまりメニューは俺の記憶と変わりないようだった。
「蓮は……どれがおすすめ?」
「うーん、そうだなぁ……どれも美味しいけど、このいちごのパンケーキとチョコとバナナのパンケーキがおすすめだな。無難なのを選びたいなら、普通のプレーンのパンケーキだな」
「……じゃあ、私はいちごのパンケーキにする」
「じゃあ、俺はチョコとバナナのパンケーキにしようかな」
俺は店員さんを呼び、注文を終える。
「蓮は……どんな探索者なの……?」
「どんな探索者?」
「うん……ランクとか役割とか」
ランクと役割か。
ランクはこの前B級に上げたな。
役割は役割は……。
「俺はランクはB級で……役割は……カメラマン?」
「カメラ……マン?」
「あ、いや……ぜ、前衛かな。魔法剣士だよ、魔法剣士」
「魔法剣士……魔法も使えて剣も使えるの……? 凄い……」
セナは俺の言葉を聞いて、目を輝かせる。
剣も魔法も十分なレベルに鍛えなければいけないため、魔法剣士は他の役割に比べて難易度が高いのだ。
そうやって俺たちが雑談していると、二つのパンケーキが運ばれてきた。
「ごゆっくりお楽しみください〜」
店員さんはそれだけ告げて、どこかへ去っていく。
心なしか、店員さんの目は、カップルを見るような生暖かいものだった。
いや……勝手に勘違いしてもらっちゃ困るんですけど……!?




