第27話 セナ
「え、もう終わったけど……?」
俺は隣に座ってきた少女に対して、そう言わずにはいられなかった。
俺の言葉を聞いた少女の顔は固まり、「へ」という腑抜けた声が漏れる。
「も、もう……終わっちゃった?! う、嘘……? だって……グランセリアVS飛龍の翼の対戦が始まる予定の時間から……まだ一分しか経ってない……!」
「まあ……だって瞬殺だったし」
少しこの子が可哀想と思わないわけでもない。
あんなに短時間で終わってしまったのだから。
「うぅ……終わっちゃたの……? 悲しい……」
少女は本当に残念そうに、地面にへたり込む。
随分と楽しみにしていたようだ。
『時間調整と休憩のために、次の試合までに1時間のインターバルを設けます』
すると、そんなアナウンスが入った。
1時間か……かなり時間が空いたな。
すると、俯いていた少女が急にバッと顔を上げ――
「――甘いもの」
「へ?」
「代わりに、甘いものを要求する」
少女はそう言いながら、俺の服の裾を掴んできた。
「あ、甘いもの?!」
「うん、甘いもの……そうだ、パンケーキが食べたい」
……どういうことだ?
どうしてそれを俺に言うんだ?
「えっと……どうしてそれを俺に?」
「奢って欲しい……お願い……!」
少女は俺の裾を掴んだまま、上目遣いでお願いしてくる。
「いやいや! 何か勘違いしてないか? 俺と君は今、初めて会った初対面なんだぞ?」
「うん」
「その相手に奢るって……意味がわからなすぎるんだけど……」
「そう……? 私は全然大丈夫だよ?」
そう言いながら、首をコテンと傾げる少女。
いや、俺が大丈夫じゃないんだよ?
「もしかして、忙しいの……?」
「いや……そういうやけじゃないけど」
どうせ花火は寝てるし、この後の1時間、俺は暇だった。
しばらく考えた末――
まあ、どうせ暇なんだしいいか……と、どうしてか俺は首を縦に振ってしまったのであった。
――――――――――――
大会会場の外の大通りにて――
心なしか、彼女の足取りはスキップをするように軽かった。
「凄い……! 色々なお店、ある……!」
少女は目をキラキラと輝かせながら、屋台が並ぶ通りを歩いていく。
俺は少女の視線を追ってみると……どれも、食べ物の屋台に視線が向いていた。
もしかしなくても、この子……ご飯には目がないのか?!
「そ、そういえば……名前は?」
「……セナ。新山セナ……あなたは?」
「俺は日野蓮だ。えっと……よろしく」
俺がセナに手を差し伸べると、彼女は小さく頷き、俺の手を取る。
「蓮……パンケーキ以外も食べてもいい?」
「へ?」
「ベビーカステラ……食べたい」
セナはそう言いながら、一つの屋台を指差した。
ベビーカステラ……?
え? パンケーキ以外にも食べるの……?
セナは買ってくれるよね……? と言いたげな顔でこちらを見てくる。
「わ、わかったよ……これだけだからな?」
セナのあまりの気迫に、俺はつい負けて、首を縦に頷いてしまった。
「うん……! 美味しい……!」
セナは、俺の横でベビーカステラを頬張りながら、歩いていた。
ずいぶんと美味しそうに食べるなあ……セナ。
「ちなみに、セナはどうしてゲスト用の観客席にいたんだ? ……もしかして、探索者バトアリの参加者とか?」
ゲスト用の観客席は、大会に参加する選手や大会関係者しか入れないのだ。
そのため、てっきり選手なのかと思ったが――
「ううん……違う、私は選手じゃない……けど、選手になりたかった人」
「……? どういうことだ?」
「あのゲスト用の観客席は、予選のランキングで80位以内のだったパーティも招待されるの……私は69位でギリギリ本戦に行けなかった」
「なるほどな……じゃあ、パーティメンバーも一緒に来てるのか?」
すると、セナは再び首を横に振った。
「パーティメンバーは……疲れてたり、少し怪我してたりで誰も来れなかった……だから、私1人」
「なるほどな」
俺の中の疑問が全て解決した。
そういうわけだったのか。
――もしかして、影の集団とかから、刺客でも送られて来たのかと思った。
俺は固く握りしめた拳を解いた。
「でも……私1人のせいで電車に乗り間違えて、グランセリアの戦いに間に合わなかった……悲しい……」
「あー……いつもは東京には来ないのか?」
「うん……地方に住んでるからこんなに電車多くない……」
パーティメンバーは事情があり、一緒に来れず、東京にはあまり慣れておらず、電車を乗り間違える。
……彼女のことを可哀想に思わなくもなかった。
「どこのパンケーキ屋さんに行くかは決まってるのか?」
「……? ううん、今から探すつもり」
「それなら、俺の取っておきの場所に連れて行ってあげるよ」
俺はそう言いながら、彼女の手を引いて別の方向へ歩き出した。




