第26話 観戦(グランセリアVS飛龍の翼)
「さて……そろそろ始まるかな」
俺は1人、観客席に座りながらそう呟いていた。
ヒバナの初戦は明日。
そのため、余った時間で俺は敵情視察のために大会の第一試合を見にきていた。
ちなみに、花火はホテルで話し合いをした後、そのまま俺のベッドで昼寝を始めやがった。
そのため、この場に花火は居ない。
そんなこんなで、俺は1人悲しく、ゲスト専用の観客席で試合を見ているというわけだ。
「探索者バトアリ、記念すべき第一試合は――グランセリアVS飛龍の翼ですッ!!!」
そんなアナウンスが会場中に響くと、観客席はどっと盛り上がる。
グランセリアは桐生が率いる国内で最も人気なパーティだ。
会場中の誰しもがその戦いを待ち望んでいた。
かくいう俺も――その1人である。
対する飛龍の翼は最近、徐々に力をつけている新進気鋭なパーティだ。
しかし、パーティメンバー全員がA級探索者。
好成績を残せる実力であるはずなのだが……今回ばかりは相手が悪すぎる。
『それでは! 選手の入場ですッ!』
そんなアナウンスと共に間反対の入り口から二つのパーティが現れた。
両パーティは、規定の位置まで歩いていく。
って、なんかグランセリアのメンバーの1人が、観客に向かって手を振ってねえか?
目を凝らして見てみると、それは桐生だった。
こんな時でもファンサは欠かさないとか……呆れを通り越して、感心するな。
両パーティが規定の位置につくと――
『両パーティが規定の位置についたようです! ……では、これからフィールドルーレットを始めますッ!』
フィールドルーレット。
それは、『普通の闘技場で戦うだけじゃ面白くない』『探索者ランクの高いパーティが勝つだけだ』……という観客の不満から生まれたシステムだ。
まず、ルーレットで森や洞窟、雪原、水上、城などの計12種類の様々な環境が選ばれる。
その後、特殊な道具によって、闘技場は選ばれた環境へと変化するのだ。
『では、フィールドルーレットを回していきましょう!』
実況の人がそう言うと、観客席の前にホログラムで移されたスクリーンにルーレットが映される。
ぐるぐるとルーレットは回っていき、選ばれたのは――
『雪原です! 雪原が選ばれました!』
「雪原か……」
シベリアダンジョンを参考にして作られたフィールド――雪原フィールド。
そこは、雪が積もった原っぱと、二つのパーティを分つようにして流れる凍った大河で構成されている。
このフィールドで最も警戒しなければいけないのが足元だ。
雪上では、少し態勢を崩すだけで滑って転ぶ可能性があるため、ここでは小さなミスも致命傷になり得る。
そして、最も厄介なのが、中央の凍った川だ。
普通に歩くだけなら大丈夫だろうが……そこで戦闘したり、魔法が当たったりすれば、氷は簡単に崩れ落ちる。
その上、雪の上よりも足元に注意しなければならない。
そんなの、戦闘しずらいったらありゃしないだろう。
すると、会場内がソワソワとした雰囲気に包まれた。
どうやら、そろそろ試合が始まるらしい。
『では、これから第一試合――グランセリアVS飛龍の翼を開始します!!! レディィィファイッ!』
同時にゴングの音が鳴り、試合の始まりを告げた。
――――――――――――
「じゃあ、作戦通りに行こうか」
炎のような赤い髪で、爽やかな雰囲気を漂わせる好青年がパーティメンバーにそう告げた。
彼は桐生龍斗――国内で最も有名なS級探索者である。
彼の合図を聞いたメンバーは頷く。
「〈魔法強化〉」
すると、メンバーの1人が桐生の肩に触れながらそう詠唱した。
〈魔法強化〉――この者が持つギフト:〈支援魔法〉による魔法であり、魔法の威力を強化する効果を持つ。
〈魔法強化〉を受けた桐生が手を前に突き出すと、数十秒にも及ぶ長い詠唱を始め――
「〈烈火天陽〉ッ!!!」
次の瞬間――強烈な熱波と眩い光がその場の全員に襲いかかる。
光の方向を見上げると、そこには――半径30mほどの火球が上空に浮かんでいた。
その大きさ、放つ眩い光……まるで、それは太陽のようだった。
その火球の放つ熱よって雪原の雪も、凍った川も全て溶けていく。
それだけではない、溶けたことで生まれた水も全て蒸発して消えていく。
いつの間にかに、雪原は川の跡が存在するだけの何もない荒野になっていた。
「太陽よ……! 落ちろッ!」
桐生がそう言いながら、手を振り下ろすと、火球はゆっくりと落ちていく。
落下するであろう場所を目で追うと――そこには、唖然とする『飛龍の翼』がいた。
火球が落ちる速度はゆっくりだが、大きさが大きさだ。
彼らは急いで逃げるも、火球に飲み込まれていった。
『WINNERS グランセリア』
次の瞬間、闘技場の中央には、ホログラムでそんな文字が表示された。
それは誰もが認めるような蹂躙劇であった。
―――――――――――――――――――
「……は、ははっ……凄いな」
俺の口からは乾いた笑いが溢れた。
〈烈火天陽〉……その魔法の名前は知っていた。
日本人であの魔法を使える人は居なかったはずなのだが……まさか、桐生が習得していただなんて。
なんだか、ワクワクしてきたな……!
あんなに凄い魔法を使える人間と、これから戦えるなんて……!
すると、バンッ!と大きな音を立てて観客席の扉が開かれる。
思わず音の方向へ目を向けると――そこには、黒髪紫眼の少女が息を切らしながら、立っていた。
彼女はキョロキョロと席を探すと……唯一、空いていた俺の隣の席へ歩き出し――
「良かった……この感じだと……グランセリアの試合には間に合ったっぽい……」
そう言いながら、隣の席に座った。
「……えっと、もう終わったけど?」
俺はそう言わずにはいられなかった。




