第25話 なんなら私1人で戦おっか? 蓮君はゆっくりお茶でもしながら見てれば良いからさ
「レディィィスエェェェンドジェントルメェェェン!!! 探索者バトルアリーナの開会式が今、始まりますッ!」
司会の人のそんな陽気な声が俺の耳に入る。
「いよいよだね……蓮君!」
「そうだな」
俺は、待合室のベンチに座りながら花火の言葉に頷く。
そして、俺は周りの様子が気になり、ふと辺りを見渡してみる。
『――さあ、みんなそろそろ出番だよ』
すると、俺の視界には、自分のパーティメンバーにそう言って立ち上がる好青年が映った。
彼の姿には見覚えがある。確か……名前は桐生龍斗。S級探索者にして、予選ランキング3位のパーティ……『グランセリア』を率いるパーティリーダーだ。
桐生は強力なギフトと天性の戦闘センスによって、日本最強とも謳われている。
彼はこの大会で要警戒人物の1人だ。
さらに周りを見渡すと、彼の周りには桐生のパーティメンバーらしき4人の男女が。
確か、あの中にはS級が3人、A級が1人居るんだっけか?
流石は桐生のパーティだな……S級が合計で4人も居るだなんて……。
俺は、さらに辺りを見渡してみると、屈強そうな男性から、か弱そうな女の子まで様々な人々がいた。
ここに居る人は皆、本戦に出場する者たちなのか……。
そう思うと、身がギュッと引き締まる。
「あれ……?」
でも、おかしいな?
何かを忘れているような……。
――そうだっ! 影の集団は?!
俺は影の集団の姿を探す。
彼らの顔は、大会HPに彼らの顔写真が載っけられていたため、知っていた。
しかし……いくら探しても彼らの姿はどこにもない。
「あれ……? おかしいな? どこにいるんだ?」
待合室はここだけなはずなんだけどな……。
そんな時、勢いよく待合室の扉が開けられた。
「――あっぶねえぇぇぇ! ギリセーフ!」
そう言いながら待合室の中に駆けこんでくる1人の男と、2人の女。
あの男の顔――間違いない、あいつらが影の集団だ。
確か、予選のランキングで1位になったパーティって開会式で挨拶しないといけないんじゃなかったっけ?
そんなパーティがよりにもよって、時間ギリギリに来るのか……。
『――選手の皆様、入場の準備をお願いします!』
そのアナウンスに待合室にいた皆が、立ち上がる。
何はともあれ、始まるのだ。
日本最強の探索者パーティを決める熱い戦いが。
――――――――――――――
「はぁぁぁ……疲れたぁぁぁ。私、ああいう堅い場所、苦手なんだよね……」
そう言いながら、ホテルのベッドにダイブする花火。
俺たちはあの開会式が終わった後、予約していたホテルに来ていた。
今は、一旦、俺の部屋でこれからのことについて話をしようとしているところだ。
って、あれ? ここ、俺の部屋じゃね?
「お、おい? ダイブするんじゃねえ! 俺の部屋のベッドだぞ? ――って、ベッドを荒らすんじゃねえ!」
ダイブするだけじゃ、飽きたらず、花火はゴロゴロとベッドの上で転がってベッドを荒らしていく。
「良い……じゃん……どうせ、寝心地は大して変わらないんだし……」
あの? 花火さん? どうして口調が眠そうなんでしょうか?
「ね、寝るなよ? 絶対に寝るなよ?」
「それはあれ? 芸人さんが熱湯風呂の前で押すなよって言うのと同じやつでしょ?」
「違うから!」
俺は、花火の肩をブンブン揺らしてなんとか、花火の目を覚ます。
「寝るんだったら、話し合いが終わってからにしてくれ」
「はーい……それで、何を話し合いたいの?」
花火はベッドに座ると、寝ぼけ眼を擦りながらそう訊いてきた。
「まずは、影の集団についてだな……花火もあの女の声は聞いただろ?」
あの女……影の集団の強気そうな女性だ。
彼女はパーティのリーダーらしく、開会式で挨拶をしていたのだが……その声が、あの時、俺たちを魔法でトラップ部屋に閉じ込めてきた奴とそっくり同じだったのだ。
「うん、あれね……あっちは証拠がないから、隠す気がないんだろうね」
隠す気がない……ね。
そうだとしても、隠さなすぎだろ……。
これはただの煽り行為なのか……はたまた何か意図があるのか。
しかし、今の俺にはどれだけ考えてもわからなかった。
「一旦、それはいいか……それはそうと、そろそろ探索者バトアリのホームページでトーナメント表が発表される時間なんじゃないか?」
「あっ! そうじゃん! 私たちの記念すべき初戦は誰かなぁ〜」
俺はスマホを取り出し、HPを確認する。
どうやら、もう10分前にトーナメント表は公開されていたようだ。
俺は、そのトーナメント表のWEBサイトを開いた。
「な、なるほどな……悪くはないのか?」
「うん……厄介なパーティとは最後の方で当たるようになってるみたいだし」
俺は花火の言葉に頷く。
例えば、『影の集団』などが良い例だろう。
影の集団は俺たちと真逆の位置――つまり、順調に勝ち進めば決勝で当たるような位置にいた。
桐生のパーティ――『グランセリア』も、勝ち進めば俺たちと準決勝で当たるような位置だ。
初戦から強敵と戦うことになる……ということは無さそうでよかった。
俺は、次に初戦の相手に視線を移す。
初戦の相手パーティは――『スピードスター』?
どこかで聞いたことがあるような……。
「あれ? この『スピードスター』って……早川がいたパーティじゃないか?!」
「あ……本当じゃん!」
花火は「ふーん」と興味深そうに名前を見つめると
「――じゃあ……私たちは合法的にあいつに借りを返せるわけだね!」
にこにこ笑いながらそう言った。
笑ってるはずなのに……目は一切笑ってなかった。
「へ?」
「だって、あいつは私のカメラマンって嘘をついた上に、蓮君を偽物だって言ってきたわけでしょ? ――私はまだその事を許してないからねー」
ちょっと? 花火さん?
言っている事自体はそこまで怖くないはずなのに……やけに怖いんですけど?
「なんなら私1人で戦おっか? 蓮君はゆっくりお茶でもしながら見てれば良いからさ」
「――い、いやいや! 俺も戦うよ! ……というか、戦わせてください!」
特殊の道具のおかげで、探索者バトアリで人は死なないし、怪我もしない。
そのはずなのに……花火に任せると、早川がとんでもない目に遭いそうな気がした。




