第21話 少女
「もうちょっと、そこに居て頂戴っ! 〈アースウォール〉!」
そんな詠唱と共に、メキメキと地面から岩の壁が現れ、トラップ部屋の出口が塞がれた。
俺たち2人は何者かによって、トラップ部屋に閉じ込められてしまったのだ。
「えっと……これ、どうする?」
俺はしばらく、呆然とし、花火に問いかける。
「うーん、壊しちゃおっか」
「そうだな」
この岩の壁は、ギフトである〈土魔法〉によって作られたものだろう。
であれば、この岩の壁を壊すのは簡単だ。
「ていりゃっ!」
花火が岩の壁を思いっきり蹴った。
岩の壁は、一瞬で木っ端微塵になり、辺りには砂埃が舞う。
「ナイスだ、花火! これで進める――」
俺は壁の向こうへ進もうと踏み出した。
そんな時だった。
「――対象を発見。命令に従って排除します」
砂埃の中から、そんな声と共に《《人間のような何か》》が見えたのは。
その時、砂埃の中が一瞬、赤く光った。
「花火ッ! 伏せろッ!」
俺たちは、咄嗟に地面に伏せる。
その次の瞬間、俺たちの頭上を、大量の火の玉が通過していく。
あと少し遅かったら、真っ黒焦げになっていただろう。
「蓮君ッ?! 大丈夫?」
「ああ……無傷だよ」
俺は、黒煙を手で払いながら立ち上がる。
誰だ? 急に攻撃してくるなんて……。
あの姿は……完全に人の形をしていた。
しかし、声はなんだか機械音のようで……。
「対象者の生命反応を感知。ただちに排除します」
またしても、機械音が砂埃の方向から聞こえてきた。
黒煙と砂埃が晴れた時、その先には俺よりも少し背の低い少女がいた。
年齢は一見すれば中学生くらいにも見える。
……外見だけはな。
少女はその可憐な見た目に反して、凶悪なほどに鋭い、巨大なサーベルを構えていた。
「な、なんなんだ? 君……」
「排除、排除、排除」
すると、少女はその目を赤く光らせ、物凄い速さで俺に肉薄してくる。
「ッ……」
俺は咄嗟に、バックステップし、攻撃を躱わす。
違う、こいつは少女なんかじゃない。
聞き覚えのある機械音と台詞。何故か赤く光る瞳。見た目に反する身体能力。
間違いない、人間の皮を被った他のナニカだ。
「花火ッ! 気をつけろ、こいつ、只者じゃないぞ?」
「わかってる! だから――私が一撃で仕留めるッ!」
――刹那、花火の姿がかき消えた。
花火は一瞬にして少女の背後に周り、ハンマーを振り下ろす。
「あなたたちの動きはわかってる」
そんな声と共にハンマーは少女によって片手で受け止められた。
ど、どうなってるんだ……?
花火の攻撃を受け止めるなんて、SSS級のモンスターぐらいだぞ?
この少女……SSS級並に強いのか?
「この子……馬鹿力すぎるでしょ……!」
花火はバックステップし、少女との距離を取った。
どうやら、無闇矢鱈に攻撃しても勝てないと気づいたのだろう。
どうする……? 初めて出会った謎の敵。
何をどうしたらこいつに勝てるんだ……?
……一つだけ、方法があるかもしれない。
俺は花火の目を見つめると、目だけで訴えかける。
すると、どうやら通じたようで花火は頷いた。
ならば、俺がやることは一つだけ――
「ふっ……!」
俺は、全力で地面を蹴り上げ、少女に肉薄する。
そして、彼女の首めがけて一閃。
人間じゃないと確信したその時から、俺に躊躇する心はなかった。
「無駄」
しかし、ガキンという金属音と共に俺の剣は片手で受け止められた。
ならば――
「〈断裂〉〈断裂〉〈断裂〉ッ!!!」
俺は断裂を三連続で少女の首めがけて放つ。
しかし、小さな切り傷が少しつくだけで、あまり効果はなかった。
どうやら、こいつにも魔法耐性があるようだ。
「邪魔……排除する」
すると、少女は一方的に攻撃されていることに怒ったのか、猛スピードで俺に向かってサーベルを振ってきた。
俺はそれを剣で受け止める。
しかし、彼女の猛攻は止まらなかった。
ガキンガキンと何度も金属がぶつかる音が部屋中に響き渡る。
剣の実力は恐らく同格……であれば、後は体力勝負になる。
体力勝負では、人間ではない少女の方に軍配が上がるだろう。
……まあ、俺と少女、2人の勝負あればな。
俺は姿勢を低くすると、花火に目配せし、叫ぶ。
「花火ッ! 〈ミニブラックホール〉だッ!」
「わかった!」
花火が使うことのできる魔法――〈ミニブラックホール〉。
一発使うだけで、かなりのエネルギーを使う上に当てるのが少し難しい魔法だが――それだけあって威力はとんでもない。
なんと、この魔法は相手の魔法防御を無視できる。
「ッ……?!」
しかし、少女の方も俺たちが何かしようとしていることに気づいたのか、咄嗟に逃げようとする。
だが――それを許すような俺ではない。
「逃すもんかッ!」
俺は咄嗟に少女の右手を掴み、逃げられないようにすると――
「〈ミニブラックホール〉ッ!!!」
魔法の準備を終えた、花火が魔法を少女に放つ。
「〈短転移〉」
俺は巻き込まれないように、〈短転移〉を使って退避。
「ぁ……」
その一方で、少女は逃げることができずに、〈ミニブラックホール〉を正面から食らった。
少女の体は〈ミニブラックホール〉に徐々に飲み込まれていき――原型がなくなったところで光の粉になって消えていった。




