第20話 もうちょっと、そこに居て頂戴っ!
【???視点】
「ねえ、御影……《《魔変の核》》は取り戻せたの?」
研究室のような部屋の中で、1人の女がソファーに寝っ転がり、スマホを見ながら口を尖らせる。
すると、御影と呼ばれた金髪の男は、舌打ちをし、口を開く。
「チッ……簡単に取り戻せると思ってたんだが、あいつら、俺が来るのを予知していたのかA級探索者を大量に配備してやがったんだよ……!」
男はそう言いながら、一枚の資料に目を通す。
その紙には『魔変の核』という文字と紅玉のように真っ赤な石の写真があった。
「み、御影君……何も、ひ、1人で行く必要はなかったんじゃないかな……?」
すると、どこかからか、そんな消えそうな程に弱々しい声が聞こえた。
声の方向を辿ると、そこには熊のぬいぐるみを大事そうに抱え、目が隠れるほど伸びた髪の間から御影を覗く少女がいた。
「七海、居たのか……そうだな、折角なら七海を連れてきゃよかったか?」
御影は今度はため息をつくと、不機嫌そうにタバコを取り出す。
「ちょっとぉ! ここは地下なのよ?! タバコなんてやめて頂戴ッ!」
「はあ? いいだろ、鈴原? あの理詰め野郎が設計した地下室なんだ、換気もちゃんとしてんだろうし」
「いいわけないでしょッ! ほら、地上に出てから吸って頂戴!」
「嫌だね。タバコは吸いてえ時に吸うから美味えんだよ……」
しかし、御影はタバコに火をつけようとライターと取り出すも、あまりに強く睨んでくるので、ため息をつき、タバコとライターをポケットにしまう。
仕方がないので、代わりに酒を飲もうと冷蔵庫へ足を進めるが――
「あっ、お酒もダメよ? あたし、酒臭いの嫌いって知ってるでしょ?」
それは鈴原に制された。
「はあ? タバコも、酒もダメ? てめえふざけてんじゃねえぞ?! この二つは俺の生き甲斐なんだッ!」
「ふざけてんのは、あんたの方でしょ? 何が生き甲斐よ、ただのヘビースモーカーで酒カスなだけでしょ!」
まるで犬と猿。2人はお互いをキリキリと睨みつける。
そんな時、突如として扉が開いた。
「――お前ら、今いいか? ……って、なんだ? 喧嘩か?」
30後半くらいの白衣を着た中年の男性は、2人を見て呆れたように肩をすくませる。
「天王寺さん! こ、こいつが俺の行動を全部制限してくるんすよ!」
「はあ? 当たり前でしょ? あんたが室内でタバコ吸ったり、私がお酒の匂い嫌いなのに、お酒飲もうとしたりするからでしょ?」
2人は再び、睨み合う。
すると、パンパンと両手を叩く音が聞こえた。
先ほど、御影に天王寺と呼ばれた男性だ。
「2人ともそれでおしまい!……お前らは仲がいいなぁ」
「「どこがっ?!」」
「そういう所だな」
くすりと、天王寺は笑った。
「それで、少しお前らに用があるんだが、いいか?」
その場の全員が天王寺に注目すると――
「お前らに、探索者バトルアリーナに出て欲しいんだ」
天王寺はニヤリと笑い、そう言った。
――――――――――――――――
「花火! そっちは任せたぞ!」
「了解!」
俺は花火と背中を合わせると、大量のモンスターの群れと対峙する。
こちらの方向にいるモンスターの数はおおよそ30。
A級が15体、S級が12体、SS級が3体。
これなら――1人でも倒せる!
俺が剣を構え、臨戦体制に入ると――
「キシャァァァ!!!」
すぐさま、S級モンスターであるキングスパイダーが飛びかかってきた。
「ふっ……!」
振り下ろされた前足を俺は回避。
流れるようにして、その体を横一文字に一刀両断。
これでまずは1体目。
俺は止まることなく、次のモンスターの相手をする。
斬って、魔法を使って、躱して、斬って、斬って――
俺はいつの間にかに無心でモンスターを殺していた。
「ふう……疲れた」
俺と花火は同タイミングで、戦闘を終え、地面に座り込む。
「〈ストレージ〉」
俺はストレージから水を2つ取りだすと、一つは後ろに投げ、もう1つの水をゴクゴクと飲んでいく。
「ぷはぁ……まさか、トラップ部屋であんなに沢山のモンスターが現れるなんてね……」
「全部、花火のせいだけどな?」
花火がむやみやたらに壁を触っていたせいで、壁に埋め込まれた何かのボタンを押してしまったのだ。
すると、壁は開き、謎の部屋が現れた。
花火は俺の手を引っ張り、俺が静止する間もなく、部屋に入っていき……こうなったわけだ。
「いやぁ、ごめんごめん……隠し部屋ってワクワクするじゃん?」
「この部屋は、隠し部屋と書いてトラップ部屋って読むんだけどな」
「てへぺろ」
花火はウインクし、舌をちろりと出す。
クソっ……無駄に顔がいいせいで、様になってやがる……。
俺はふと、思い出し、コメント欄を見てみた。
〈コメント欄〉
:流石の化け物やなぁ
:普通、あれは死んでるんだけどね?
:なんで生きてるんだか
:うおおおおお!!! これで探索者バトアリ予選の探索者ポイントの数でランキング1位になったぞ!?
:マ?
探索者ポイントでランキング1位?!
つまり、俺たちは探索者バトアリに参加しているパーティの中で最も沢山のモンスターを狩っているってことか?!
「花火! 俺らが探索者バトアリの予選で、ランキング1位にいるんだってよ!」
「本当?! ……やっぱり、私たちならこのまま、本戦でも勝てるんじゃない?!」
「いや……流石に言い過ぎでは……?」
俺はスマホで探索者バトアリのホームページを開く。
すると、俺たちの30万ポイント下に『影の集団』というパーティと、さらに10万ポイント下に『グランセリア』というパーティがあった。
30万ポイントくらいであれば、SS級を3体倒すだけで縮められる。
今日は《《予選最終日》》だ。
油断なんてしていられなかった。
「でも、1位になっていいことってあるの?」
「いや、あるけど?! 花火、それを知らずに今まで戦ってきてたのかよ!」
「うん、私、ルールとか調べずにとりあえず挑戦するタイプだからね!」
自慢するようにドヤ顔で言われても困るんだが……。
俺は小さくため息をつくと、説明し始めた。
「1位になると、賞品が貰えるんだよ」
「ふーん、その賞品って?」
「約10億円する武器と防具だってさ」
「――蓮君っ! 休んでる暇なんて無いよ?! ほら、早く立ち上がって!」
「ちょっ、おい! 変わり身が速すぎるだろっ?!」
俺は花火に、手を捕まれ、無理矢理立たされる。
性能のいい武器があれば、俺たちはより強くなれるので、執着するのはわからなくもないが……。
俺は苦笑いしながら、トラップ部屋から出ようとした。
――そんな時だった。
「もうちょっと、そこに居て頂戴っ! 〈アースウォール〉!」
そんな詠唱と共に、メキメキと地面から岩の壁が現れ、トラップ部屋の出口を塞いだのは。
俺たち2人はトラップ部屋に閉じ込められてしまったのだ。




