第18話 作戦なんて、あるわけないじゃん!
「――〈断裂〉」
「グギャァ……」
すると、赤竜の首がぼとりと地面に落ち、赤竜は光の粉になって消えていった。
俺はドロップアイテムを拾いながら、チラリと花火の方を一瞥すると――
「そうそう、それでさ、この前、蓮君がさぁ――」
カメラを持ち、何か、雑談をしていた。
このアマ……俺のことすら見てないじゃねえか!
〈コメント欄〉
:いやぁ、普通の雑談なのにやけに面白く感じるなぁ
:それどころか、なんだか血生臭い匂いも感じるわぁ
:どうしてやろなぁ……笑
コメント欄を確認すると、そんなことを言われていた。
そもそも、この配信は雑談配信じゃないだろ……!
俺が頑張ってモンスター戦っているんだから、本来ダンジョン攻略配信であるべきでは……?!
「絶対に、帰ったら飯奢らせてやる……!」
俺は口を尖らせ、ずんずんと奥へ進んでいく。
すると、数分後――
「キシャァァァァ!!!」
「〈断裂〉」
大きな蜘蛛のS級モンスター――ジャイアントスパイダーが突然、天井から現れたため、断絶で首を切り落とし、瞬殺する。
さてと……これで今の探索者ポイントは、幾つになっただろうか……。
「おっ、丁度100万ポイントか」
俺は探索者証を見ながら、そう呟く。
倒したモンスターとポイントは全て、自動的にこの探索者証に記録される。
そのため、これを見れば、あとどれくらいモンスターを倒せばB級になれるかがわかるのだ。
残り50万だから……あとSS級を5体か。
「よし、とっとと5体倒して帰るぞぉ!!!」
俺は自分に喝を入れた。
そんな時だった。
――ゴゴゴゴゴゴ
通路の先からそんな轟音が聞こえてきたのは。
「な、なんだなんだ?」
「――蓮君、気をつけて! 只者じゃない気配がする……!」
俺たちは身構え、通路のじっと見つめる。
そこからは案の定、モンスターが現れた。
「GYAOOOO……」
口から漏れ出す紫色のブレス。全身を覆う禍々しい紫色の鱗。信じられないほどの巨体。
こいつは確か――
「毒竜……?」
花火がボソリとそう呟いた。
ああ、そうだ、こいつは毒竜……《《SSS級》》モンスターだ。
「花火……気をつけろよ?」
俺は身構える。
別に、SSS級モンスターと戦うのは初めてではない。
何度か対決し……全て勝っている。
しかし、SSS級の中でも毒竜と戦うのは初めてだった。
「れ、蓮君……! ここは私も戦うよ! あいつの《《ブレス》》には絶対に触れないようにね!!!」
花火はカメラを地面に置くと、俺の前に出て剣を構える。
花火の奴……なんだか、焦っている?
いや、何かを怖がっているのか?
「わ、わかった……でも、花火も気をつけろよ?! 危なくなったら絶対に引けよ?!」
「勿論! ……絶対に死んでやるもんか……!」
そう言う花火の目からは何か、執念のようなものが伺えた。
〈コメント欄〉
:毒竜?!
:SSS級じゃん……
:やばいだろ、流石に逃げろッ!
:いや、この2人ならいけるだろ
:でも……毒竜ってヒバナの……
俺は、そこでコメント欄の表示を切った。
SSS級相手にコメント欄を見ている暇なんて無い。
俺たちはしばらく、毒竜と睨み合う。
その静寂を先に破ったのは――
「絶対に……殺すッ!!!」
花火の方だった。
花火は、地面を強く蹴ると、目にも留まらぬ速さで毒竜に肉薄したのだ。
ギフト:〈神速〉の力だ。
花火は今回、最初から全力で行くようだ。
花火は毒竜の前で大きく飛び上がると――
「〈ハイ・グラビティ〉!」
重力魔法で落下速度を速め、ハンマーを毒竜の頭に叩きつけた。
しかし、流石はSSS級モンスター。花火の攻撃を受けても鱗が少し凹むだけだった。
「GYAOOOO!!!」
毒竜は攻撃されたことに憤怒し、花火を振り払おうとブンブンと頭を振り回す。
「っ……」
そのせいで、花火は一旦、距離を取ることを余儀なくされた。
……不味い、この距離は毒竜が最も得意とする距離だ。
だって――
「GYAOOO……」
この距離は毒竜のブレス――触れただけで相手を即死させる最強のブレスを放つには、最適な距離なのだから。
「GYAOOOOO!!!!!」
毒竜は口を大きく開くと、毒々しい紫色のブレスを花火めがけて放った。
物凄い速さでブレスは花火に迫ってくる。
「当たるもんか……!」
花火は横に大きく跳び、簡単にそのブレスを避けてみせた。
例え、物凄い速さであろうと〈神速〉によってどんな速さにもなれる花火には関係ない。
花火に――攻撃は当たらないのだ。
毒竜はなんとか花火にブレスを当てようと首を動かし、ブレスの方向を変えるが……一向に花火に当たる気配は無かった。
「GYAO……GYAOOOOO!!!」
すると、今度は花火を諦め、ブレスを俺の方向に放とうと、口を大きく開く。
しかし、それを許す俺ではない。
「〈短転移〉」
俺は空間魔法で、呑気にブレスを溜めている毒竜の目の前に転移すると――
「〈断絶〉〈断絶〉〈断絶〉!!!」
何度も何度も、毒竜の首めがけて〈断絶〉を放った。
断絶は鱗を貫き、首に幾つものの赤い線を残すが、首を断ち切ることはなかった。
「くそッ! 魔法耐性が高すぎる……!」
〈断絶〉は空間を歪ませることで、対象を切る魔法。本来であれば、どんな物であっても切れるはずである。
しかし、毒竜のような高ランクのモンスターには魔法耐性という特殊な防御力が存在するせいで、そういうわけにはいかないのだ。
どうやら、全身に人間には認識できない特殊な力が巡っており、それによって魔法に抵抗できるらしい。
しかし、確実にダメージは与えられているのだ。
このまま頑張れば、絶対に勝てる……!
そう思っていた時だった。
「GYAOOO……」
攻撃されたことに憤怒したのか、毒竜は大きく口を開けると、ブレスを放ちながら、体をぐるりと360°回転させていく。
これによって全方向にブレスを放とうとしているのだ。
俺は咄嗟に毒竜の体の下に潜り込み、ブレスを回避したが――
「花火ッ!」
花火はそういうわけにはいかなかった。
花火は毒竜と中途半端に距離を取っていたせいで、そうすることができなかったのだ。
今から、毒竜の下に潜り込もうとしても、ブレスに当たってしまうことだろう。
クソっ……それなら……!
「〈転移門〉」
俺は、空間魔法の〈転移門〉によって毒竜の下と、花火の近くの空間を繋げた。
すると、花火は咄嗟に〈転移門〉に飛び込み、ブレスを回避。
「わっ……蓮君、気が利くじゃん! ハンマーで全部吹き飛ばすところだったよ……!」
〈転移門〉から出てきた花火は、笑いながら礼を言う。
「結局、自分でなんとかなるのかよ……! それで、何か倒す策はあるのか?」
「私を誰だと思ってるの? 最強と名高いヒバナだよ?」
おお! 作戦があるのか!?
「――作戦なんて、あるわけないじゃん! 頑張って倒す……それだけだよ?」
ハンマーを持ち上げ、ウィンクをしてそう返した。
うん、なんとなく、そんな気がしてたわ……。
毒竜がブレスを吐き終わった頃、俺たちは目配せし――
「「絶対に死ぬなよ?」」
同じタイミングで毒竜の下から飛び出した。
「〈ロー・グラビティフィールド〉」
花火がそう唱えると、俺の体が軽くなる。
どうやら、重力魔法で周りの重力を弱めたらしい。
俺たちはそれを合図に、毒竜の真上へ出来る限り高くジャンプ。
すると、約20m――ダンジョンの天井スレスレまで飛び上がることができた。
俺たちはもう一度、目配せをすると――
「〈ハイ・グラビティフィールド〉」
花火が魔法で重力を強くした瞬間――俺たちは天井を思いっきり蹴り、毒竜めがけて落下していく。
花火はハンマーを、俺は剣を、構えると――
「GYAOOO?!」
毒竜の頭めがけて武器を振り下ろした。
まず、花火が毒竜の頭めがけてハンマーを振り下ろすことで頭にある全ての鱗を砕き、毒竜自体にもダメージを与える。
俺はそれに続くように毒竜の脳天目がけて剣を突き刺した。
とんでもない速度で繰り出された剣は、毒竜の頭を貫通。
「GYAOOO……」
小さな呻き声をあげると、毒竜は地面に倒れ込んだ。
その後、体は光の粉になって消えていく。
討伐――俺たちは無傷でSSS級モンスターの毒竜を討伐したのだ。
――ピピッ
すると、何かの電子音が耳に入った。
「まさか……」
俺はポケットから探索者証を取り出すと――
『探索者ランク:B級 取得ポイント:1500000』
探索者証にはそう書かれていた。
どうやら、俺は探索を開始して3時間で、B級に上がったらしい。




